新型コロナ初動阻止に失敗したイランと日本の共通点は「中国依存」【寄稿 宮田律】

新型コロナ初動阻止に失敗したイランと日本の共通点は「中国依存」【寄稿 宮田律】

イランの首都テヘランで街中を消毒して回る防護服の消防隊員ら(C)ロイター

宮田律【トランプ騒乱の時代と中東、日本】

 3月2日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は新型コロナウイルスについて、日本、韓国、イタリア、イランの4カ国が「最大の懸念だ」と述べた。

 イランの感染は宗教都市のゴムで発生したが、イラン保健省のミーヌー・モフラズ氏(テヘラン医科大学教授)は2月21日、ゴムで働く中国人が中国に帰省して持ち帰ったのではないかと述べた。中国企業は、ゴムで太陽光発電所を建設している。その後、イランは2月27日になって中国国籍をもつ者の入国を禁止した。イランの感染拡大は、コロナウイルスの発生が明らかになってもなお中国人観光客を受け入れた日本と同様に、水際対策の遅れが大規模発生の原因の一つかもしれない。

 ゴムにはシーア派十二イマーム(シーア派が考えるイスラムの開祖ムハンマドの後継者で、イスラム共同体の最高指導者)の第8代イマームであるイマーム・レザーの妹ファーティマの墓廟(ハズラテ・マアスーメ廟)があり、シーア派の人々はイラン国内各地や近隣のイラクやパキスタンなどから巡礼に訪れる。ファーティマの墓の周囲にある格子を人々は触ったり、顔をこすりつけたりして、イマームの祝福を求めるが、そうした宗教的慣習も感染の拡大につながった可能性がある。また、墓廟の中は狭い空間で、大勢の人が集まる。さらに、イランでは親しい場合は同性でも、家族・親族間でも抱擁して頬にキスして挨拶するという「濃厚接触」が日常的に行われている。これらの宗教的、あるいは生活的慣習もまた感染拡大をもたらす要因となった可能性がある。

■「濃厚接触」が多い生活習慣

 感染が深刻になってイランでは2月28日に首都テヘランをはじめ全土の金曜礼拝(集団礼拝)をキャンセルした。それでもイランが中国人労働者を頼りにせざるを得ないのは、やはり米国トランプ政権による制裁強化が背景にある。トランプ政権の制裁強化によって米国の同盟国であるヨーロッパ諸国、日本、韓国がイランとの経済関係を大幅に縮小する中で、中国はイランにとって重要な経済パートナーとなっている。

 昨年8月、中国を訪問したイランのザリーフ外相は、中国の王毅国務委員兼外相と会談し、トランプ大統領のイラン核合意離脱や制裁強化をとらえて、国際法が軽視されていることに対して協力して対抗していかなければならないと述べた。この訪問で、イランと中国は、2016年に成立した中国イラン包括的戦略パートナーシップを更新し、強化する姿勢を見せた。この更新によって、中国は25年にわたって、イランの石油、ガス、石油化学産業に2800億ドルの投資を行っていくことを明らかにした。さらに、道路や鉄道に対しても、1200億ドルの投資が行われることも合意された。

 中国はこうした投資と並んで、これらのプロジェクトを達成するために、テクノロジー、人員などを提供することを決定した。また、この決定とともに中国の治安関係者5000人もイランに派遣されることになった。トランプ政権の制裁強化の中で、イランは中国に主権をも明け渡すような印象を与えることも行っている。

 中国に対するイラン人の感情は二律背反的なものだろう。イランのガージャール朝(1796〜1925年)は1872年にはイギリス人のポール・ジュリアス・ロイターに「ロイター利権」を与え、ロイターはカスピ海からペルシア湾に至る鉄道を敷設していくことになった。ロイターは1889年にペルシア帝国銀行を設立し、イランでの紙幣発行権を独占した。さらに、1890年3月に50年間にわたるタバコの生産、売買、輸出の専売利権が別のイギリス人投機家に与えられ、9月にはその利権がイギリス系のペルシア帝国タバコ会社に転売された。この利権が1891年2月に公表されるとイラン全土で抗議運動が繰り広げられ、タバコのボイコットが聖職者であるウラマー(聖職者)を中心に呼びかけられた。

■基幹産業を中国に乗っ取られかねない懸念

 イランは戦略的パートナーシップを中国と結んだことによって、石油などエネルギーなど基幹産業を中国に乗っ取られるという懸念も生じ、タバコ・ボイコットの時のように、今後中国に対する反発が強まらないとは限らない。いずれにせよ、中国に著しく経済が依存していることがイランのコロナ禍を招いた一つの要因ともいえる。イラン政府は刑務所の中での感染拡大を防ぐために、5万4000人の受刑者も釈放する措置に出た。イランでは、コロナウイルスで政府の対応への不満が大規模な政治的騒擾にもつながりかねない。1月のウクライナ航空機の誤射事件で、当初事故だと言っていた政府への不信感があらわになり、反政府デモも発生した。

 他方、日本も中国との経済関係が密で、特に観光客は2019年におよそ960万人の中国人が日本にやって来た。外国人観光客の中では1位の数である。中国人が訪れるのは都道府県別では、2019年に北海道が初めて第1位となった。北海道には豊かな自然があり、食事も美味しく、また2022年に北京で冬季オリンピックが開催されるなど、ウインタースポーツへの関心の高まりもその背景にあるようだ。

 全国の経済成長の動向を下回るなど低迷が続く北海道、特に人口減少が著しい札幌以外の北海道の地方部にとって中国人観光客は「救世主」ともいえるが、北海道でコロナウイルスの感染者が全国で一番多いのも、イランと同様に、多数の中国人観光客の受け入れなど中国に頼る経済構造のためだ。

 イランも、日本もコロナウイルス対策では初動で適切な措置がとれなかったことが感染拡大につながった。韓国が迅速に大規模な検査態勢を整えることができたのは、2015年のMERSの感染拡大の経験があるからだとある韓国政府関係者から聞いた。日本とイランの失敗、将来の感染症の拡大の際の教訓とすべきであることは言うまでもない。

(宮田律/現代イスラム研究センター理事長)

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