桃井貴子氏が警鐘「石炭火力発電推進は『もんじゅ』失敗の二の舞い」

石炭火力発電の推進に『気候ネットワーク』東京事務所長が『もんじゅ』の二の舞と警鐘

記事まとめ

  • 『気候ネットワーク』東京事務所長・桃井貴子氏が石炭火力発電の推進に警鐘を鳴らす
  • 石炭火力は『座礁資産』になるリスクがあり、『もんじゅ』の二の舞になりうるという
  • 桃井貴子氏は、現状を変えるために政策を変える政治の決断が一番重要と述べている

桃井貴子氏が警鐘「石炭火力発電推進は『もんじゅ』失敗の二の舞い」

桃井貴子氏が警鐘「石炭火力発電推進は『もんじゅ』失敗の二の舞い」

桃井貴子氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

 桃井貴子さん(「気候ネットワーク」東京事務所長)

 3.11後の日本のエネルギー政策をどうするのか。まもなくあれから10年目というのに政府は原発頼みのうえ、停止中の原発を補う形で石炭火力発電を推進。再生可能エネルギーへの積極投資で温室効果ガス削減に突き進む世界の潮流からどんどん離れていく。2030年までに2013年比で温室効果ガスを26%削減することを国際公約しているのに、である。昨年12月のCOP25(気候変動枠組み条約第25回締約国会議)で、小泉進次郎環境相は「脱石炭」を明言できず批判を浴びた。どうして日本は政策変更できないのか。この問題をウオッチし続ける専門家に聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ――COP25では日本に化石賞が贈られました。

 今回の化石賞は「石炭火力発電所を残す」と言った梶山弘志経産相、脱石炭の方針を出さなかった小泉環境相の2人の発言に対して贈られています。環境NGOが毎年開催されるCOPの会場内で授賞式を毎日行っています。交渉を少しでも前進させるために気候変動対策やその時の交渉に後ろ向きな国を表彰し、交渉の後押しをしているのです。

 ――気候ネットワークらが参加する横断組織「NO COAL JAPAN」も「フィナンシャル・タイムズ」で安倍首相への意見広告を出しましたね。

 2020年に日本は東京オリンピックのホスト国となり、世界からも注目を集めます。世界が気候変動と闘っている中で、本来ならば先進国として気候変動対策をとるべき日本が世界で石炭火力への投融資を進め、20年に石炭火力発電を5基稼働させる状況にあります。こうした状況から、50の国際的NGOの間で日本の問題を浮き彫りにするため意見広告を出したのです。

 ――そもそも石炭火力発電はなにが問題なのでしょう。

 硫黄酸化物、窒素化合物、PM2.5をはじめとする煤塵を排出して大気汚染を起こすこともありますが、地球温暖化を招くCO2(二酸化炭素)を大量に排出し続けます。排出量はLNG(液化天然ガス)火力発電の約2倍。日本政府を含めて国際社会が科学的な土台にしているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のリポートでは、CO2の排出など人間活動により、地球が温暖化していることはほぼ確実だとしています。産業革命前(約150年前)に比べて地球平均気温の上昇を1.5度にとどめるためにまず石炭火力からやめることが国際的な流れになっています。20年以降は新規建設せず、30年までにすべて廃止するという方針をとる国が次々に増えているような状況です。

■経産省と既得権益者が優先されている

 ――日本で温暖化対策を所管している省庁は。

 本来は環境省ですが、排出CO2の9割はエネルギー起源であるため、エネルギー政策を所管する経産省が強い権限を持っています。結果、既得権益が優先され、石炭火力が推進されています。既得権益者は原発と同じく電力会社、メーカー、それを取り巻く団体です。

 ――小泉環境相の地元・横須賀では東京湾で唯一の石炭火力発電の新規建設が進んでいますね。

 福島第1原発事故以後の電力自由化の流れに乗り、東京湾では千葉市、袖ケ浦市、市原市、横須賀市で石炭火力発電所の計画がありました。しかし千葉県の3つの計画は事業性が見合わないと事業者自ら計画を中止しました。残っているのは東京電力と中部電力で設立したJERAによる横須賀の計画だけです。東電の石油火力発電所の場所に新たに石炭火力発電所を造るもので、当初の石油火力発電所よりも単位当たりでCO2排出量が多くなります。しかし経産省のリプレースガイドラインが適用され、環境アセスメントの手続きを省き、ものすごいスピードで進んでいます。そのため地元住民ら48人が経産省にアセスの確定通知を取り下げるよう、19年に訴訟を起こしました。大法廷での傍聴が抽選になるほど注目が集まっています。

■政府にいる進次郎の限界

  ――地元の計画については語らない小泉環境相ですが、三菱商事など日本企業が出資するベトナムの火力発電所計画・ブンアン2には懸念を表明しています。

 小泉環境相は最初の外交デビューが国連の気候行動サミットで、日本の石炭火力に向けられる世界の厳しい目を痛烈に意識したことでしょう。COPでも化石賞を受賞するなど、何度も国際交渉の中で日本への厳しさを味わってきたはずです。そこで石炭火力で何ができるかと考えた結果、政府がつくっているエネルギー基本計画にブンアン2はそぐわないと指摘したのでしょう。しかしそれは政府の政策の枠内の話。本当に石炭火力発電をやめるならばほかにも案件はあるし、横須賀の計画も進んでいます。政府の中にいる限界があります。

  ――背景には日本の石炭火力の技術は世界最高だという業界の意識もあるのでは。

 企業や政府は日本の石炭火力発電が高効率で素晴らしいと自画自賛しています。どんなに高効率にしたとしても、CO2をゼロにできないのが石炭火力発電。気候変動が深刻化する中、石炭火力発電を高効率にして残す選択肢は世界の枠組みで考えたらあり得ません。しかし政府は、今も石炭をガス化させ燃焼効率を上げたIGCC(石炭ガス化複合発電)に補助金を出して進めています。広島で稼働し、福島でも復興電源という位置づけで大規模なIGCCが今年稼働します。世界では再生可能エネルギーに投資を振り向けてきたことで再エネのコストが下がり、高コストのIGCCが廃れてきているというのに。

投資回収できない「座礁資産」になるリスク

 ――壮大な無駄遣いをしたもんじゅを続けた原発業界と似ていますね。

 革新的技術開発を進めるということで、石炭火力が排出したCO2を海中に埋設するCCS(二酸化炭素回収・貯留)技術にも多額の予算を注いできました。またCCU(二酸化炭素回収利用)技術にも力を入れ始めていて、経産省の中に新たにカーボンリサイクル室までつくっています。しかしCCSも実用化できておらず、結果的には時間稼ぎでしかありません。日本は地震大国なので、CO2を地中に埋めたとしても、それが何百年の単位で維持していけるか誰も答えられていません。この間も苫小牧のCCS実証試験地から約20キロのところを震源地に北海道胆振東部地震が起きています。日本に適地がないことは考えればすぐわかることです。原発で核燃料サイクルに多額の予算をつけて延命しているのと同様の構造が石炭火力でも見られると思います。

 ――日本では炭鉱は一時すべて閉山しましたが。

 最後に閉山した太平洋炭鉱は釧路コールマインという会社に事業を引き継ぎました。現在また国の予算をつけて炭鉱を復活させ、現地で新たに火力発電所を造る計画すら出ています。

 ――国際金融では石炭火力に投資する電力会社などをファンドの銘柄に組み込まなくなっています。

 石炭火力の投融資から撤退する動きが加速しています。とりわけ欧米の金融機関は気候変動リスクを重視し、化石燃料関連企業からの撤退を表明しています。日本の金融機関は、実態的には石炭火力に融資し続けられる方針をとっています。世界的潮流と日本の石炭推進政策との板ばさみで困っているのでしょう。

 ――石炭火力発電所は「座礁資産」とも。

 大型発電所は何千億円というお金がかかります。金融機関は40年ほどの稼働を見込み20年ほどで融資を回収します。しかし40年稼働すればCO2の大気蓄積が大きくなる。気候危機を回避するためには限られた排出しかできず、世界的に石炭火力発電はいますぐやめなければいけない状況です。今後、石炭火力発電は動かせず投資回収ができないリスクがあるのです。

 ――現状を変えるためにはどうすればよいでしょう。

 政治の中で気候変動の扱いが非常に不十分です。日本のエネルギー政策が経産省主導の既得権の構造の中で決められてきたからです。2030年のエネルギー構成をみても原子力、石炭、LNG、再エネを4分の1ずつ割り振っている。この構造から脱却するためには、やはり政策を変える政治の決断が一番重要です。また最近、異常気象が増えていることを市民も実感しつつあると思いますが、その背景に何が起きているのか、政策を変える必要がある、ということに意識を持つことも必要です。いまの若い人たちがその動きをつくりつつあるところに希望を持っています。

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

▽ももい・たかこ 1973年、神奈川県横須賀市生まれ。明治学院大卒。学生時代、92年の地球サミット開催をきっかけに環境活動に取り組み始め、議員秘書などを経て、環境NGOの職員に。京都議定書の採択をきっかけに98年に設立された「気候ネットワーク」(本部・京都市)に2008年に入職し、13年から現職。

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