アメリカの政治は理屈より「強さ」こそが支持者を動かす【立岩陽一郎 ファクトチェック・ニッポン!】

アメリカの政治は理屈より「強さ」こそが支持者を動かす【立岩陽一郎 ファクトチェック・ニッポン!】

退院し、ホワイトハウスのトルーマン・バルコニーで、敬礼するトランプ米大統領(C)ロイター

【ファクトチェック・ニッポン!】

 アメリカ大統領選挙まで1カ月を切った。長い選挙戦も終盤に入った。このタイミングでのトランプ大統領の新型コロナへの感染には、世界はもちろん、本人が一番驚いただろう。10月5日(日本時間)にTwitterにアップした動画で、トランプ大統領は自身の感染を「新型コロナを学ぶための学校だった」と強がった。

 トランプ大統領の病状については不明な点が多いが、一時はかなり深刻だったが、その状態を脱したということのようだ。車で病院の外にいる支持者に手を振るパフォーマンスまで行っている。74歳という高齢故に予断は許さないが、本人は選挙モードに完全に戻っている……もっとも、この大統領が選挙のことしか考えていないことも間違いないが。

 大統領選挙の行方は、この4年間に加えて、この大統領の感染を有権者がどう見るかにかかっている。感染がトランプ大統領にとってマイナスに作用するとの報道が散見されるが、そう言い切れない。トランプ支持者の多くは残念ながら、そういう理性的な考え方をしない。入院から24時間後のツイートで、自身を回復に導いた医療を「奇跡だ。神の授かりものだ」と述べている。科学ではないということだ。それが支持者に受けることを見越しての言葉だろう。退院すれば回復を高らかに宣言するとともに、「神の授かりもの」を得たとして体力、運の「強さ」を支持者に訴えるだろう。

 この「強さ」は実は大統領選挙終盤のこの時期、極めて重要な候補者の資質と見られる。これは日本で見ていてなかなか理解できない点だ。根底には、選挙で選ばれた人が試験に合格した人より偉いというアメリカが育んできた政治風土がある。学の有無よりも、何事にも負けない体力や胆力、運などの「強さ」が重視される。

 もちろん、アメリカが圧倒的に強かった時代は、それらはあまり強調されなかった気もする。アメリカの力が相対的に落ちる中で、人々が大統領に「強さ」を求める割合が高まっているのかもしれない。そして、そこが民主党のバイデン候補の最大の弱みでもある。高齢の上、話し方に力強さがない。9月29日の討論会については、ルール無視で相手の発言を遮るトランプ大統領をメディアが批判して、「バイデン候補が優勢」と報じた。これも恐らく違う。トランプ大統領にしてみれば、狙い通りだろう。新型コロナ、人種問題への対応、同盟国との関係、経済問題のどれをとっても、バイデン候補を言い負かせる材料はない。そうであれば、バイデン候補の発言を邪魔するくらいの「強さ」を示した方が得だ。

 その際、事実かどうかも問題ではない。残念なことだが、この大統領は事実に重きを置かない。そして支持者も。それよりも、「強さ」だ。理屈より「強さ」が支持者を動かし、この大統領を支えてきた。それが変わる変化は見られない。そして、残念ながらそうした状況は、「官邸主導」という名のもとに、実は日本にも広がっている。大統領選挙は結果うんぬんより、日本を見直すいい機会としたい。

(立岩陽一郎/ジャーナリスト)

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