話題の日本学術会議って何をするところ? 前会員の大学教授に聞いた「会員は裏方仕事もやる」

話題の日本学術会議って何をするところ? 前会員の大学教授に聞いた「会員は裏方仕事もやる」

明治大学の西川伸一教授(提供写真)

菅総理が改選される新会員105人のうち6人の任命を拒否し、話題の渦中にある日本学術会議。各分野で集められた会員210人は学術会議でどのような仕事をしているのか。今年9月30日まで6年間、会員を務めた西川伸一明治大学教授(政治学)に実情を聞いた。

■分科会が活動の基本単位

 ――日本学術会議は「学者の国会」と言われていますが、どういう意味なのでしょうか。

 やはり総会が年に2回あり、各分野の代表的な学者210人が一堂に会する場で、そこで重要なことが決められています。「学者の国会」という形容は決して誇張ではないと思います。

 ――西川教授が会員だった時期は。

 2014年10月1日から2020年9月30日までです。その前は連携会員でした。連携会員には推薦されて2011年10月になりました。

 ――連携会員は約2000人いるとか。会員にはどのようにしてなられたのですか。

 どういうわけか推薦されまして。会員になれたのは運がよかったとしかいいようがありません。

 ――1949年の設立当時は選挙により会員が選ばれていましたが、いまでは推薦ですね。

 いまは会員・連携会員が候補者を推薦し、それを受けた選考委員会が選考するという方式へと変わっております。選挙だといろいろと弊害があったんですね。派閥がつくられたり、票集めをしたりとか。何十年も前には買収に近いようなこともあったやに側聞しています。そこまでしてなりたがった人がいたようです。そういう悪弊があってお互いに推薦することになりました。票集めのしようがありません。いくら特定人物への推薦者が多くても、最終的には選考委員会が、専門分野のバランス、地域性、ジェンダーなどを考慮して会員を選んでいますから。

 ――その選考委員会の構成は?

 選考委員会は会長1人、副会長が3人。3つの部(後述)からそれぞれ4人の合計16人で構成されています。各部からはそれぞれ部長、副部長、幹事2人が就くことが多いです。

 ――会員はどのような立場なのですか。

 まず総会があります。4月と10月、年2回の総会に会員は全員が招集されます。これは国会の本会議のようなものです。総会の下に第一部(人文・社会科学)、第二部(生命科学)、第三部(理学・工学)という3つの部があります。政治学を研究する私は第一部の所属となります。総会開催時にあわせて各部の部会も開かれます。7月には夏季部会もあります。例年、東京以外で開かれますが、今年は新型コロナ感染症対策のためオンライン開催でした。

 さらに第一部の下に学問分野別の委員会があり、その下に分科会があります。この分科会こそ、会員が具体的な活動をする基本的な単位です。私は政治学委員会の政治過程分科会で6年間、委員長の任にありました。分科会は基本的には委員長だけが会員で、残りは連携会員から構成されます。当時は9人いました。

 会員を終えると自動的に連携会員になり、連携会員は最長12年務めます。私の分科会でも、1人の連携会員が会員OBでした。その方以外はこれから会員になるかもしれない方々でした。

■会員は裏方仕事もやる

 ――分科会では具体的にはどのような活動をされたのですか。

 投票率の向上などについて年に2回、シンポジウムを開きました。また高校で投票に行きましょうなどという主権者教育授業を行いました。

 ――シンポジウムでも日当は出るのですか。

 予算逼迫という事情がない限りは出ます。ですが、シンポジウムを開いても運営するためのロジ担当者はいないんです。なので大学院生や大学のゼミ生に案内や受付をやってもらい、そのあと食事に連れて行って、私が自腹を切って慰労してという。これは愚痴ですが。

 また、分科会では会議資料をつくらなければいけないのですが、事務方がいないので私が資料を作成・コピーしてホチキスでとじて、配って。みなさん一流の研究者ばかりですから神経も使います。会員は実際は裏方的な事務仕事もしなければならないんです。6年もよくしのげたなと思います。こういうことだったのかと。会員になったときには予想だにしていませんでした。

 ――会員はもっと偉そうな立場なのかと思っていました。

 いえいえ。そして今年8月に、主権者教育授業や投票率向上をテーマとしたシンポジウムなど分科会の活動について、「報告」としてまとめて学術会議から発出しました。この「報告」や「提言」の発出は分科会の義務ではありません。こうした「成果物」をあまりを出さない分科会もあるようですが、それでは活動が形になりません。

 ――「報告」は6年間の仕事をまとめた論文ということですか。

 そう言ってもよいかと思います。このとりまとめ作業がけっこう大変でした。まず分科会で執筆者を割り振って「報告」案をつくります。それを第一部長あてに提出して、第一部役員会が査読者2名を会員から選び、「報告」案が査読されます。

■「報告」発出までの過程がもっとも大変だった

 ――第一部役員会とは。

 部長1人、副部長1人、幹事2人の4人で構成されます。その第一部役員会から「報告」案の査読結果がやがて通知され、その指摘事項について分科会の執筆者に修正を依頼します。それらを整序して第一部長に返します。第一部長が査読者にそれを送付して、施された修正について査読者が了承すれば、「報告」案は幹事会へと上げられます。

 ――幹事会とは。

 会長1人、副会長3人、各部の部長1人、副部長1人、幹事2人の合計16人で構成される日本学術会議の常設の最高意思決定機関です。これは月に1回開かれます。

 ――手続きが複雑ですね。

 そうかもしれません。この幹事会を通すのがまた一苦労です。「報告」案は幹事会のメンバーに回覧されます。当然ながら、第二部、第三部の理系の研究者も見ます。そして必ず意見がつきます。査読してあるにもかかわらず。それがまた私に送られてきます。

 最後は幹事会での質疑応答です。幹事会メンバーから分科会の委員長、副委員長が「口頭試問」を受けます。今回はオンラインでしたね。幹事会メンバーの意見をどのように「報告」に反映させるかを委員長が「答弁」します。後日その修正版を幹事会に戻して、会長が了承することでやっと「報告」案の案がとれてホームページに掲出されます。執筆をはじめてからここまでで10カ月かかりました。これが今考えると一番大変でした。

 最後に「口頭試問」まであるとは思いませんでした。非常にプレッシャーだったと言いますか。この「報告」は総務省にも配られています。昔は学術会議の会員は名誉職というニュアンスもあったのでしょうが、いまの会員はこのような実務に追われています。

■政権に耳の痛いことを言うから必要

 ――会議に出ると日当2万円の手当が出ると報じられていますが、実際はどうなのでしょうか。

 手元にある公金振込通知書によれば1万9000円の手当が振り込まれていまして、それが日当のようですね。分科会の連携会員にも交通費は出ていると思います。

 ――学術会議を民営化せよという意見も少数意見ですが出ています。

 官の組織が行き詰まるとすぐ民営化とか言い出しますが、それで解決になるのでしょうか。民営化ということはつまり学問に国がお金を出さないということになるでしょう。学問の軽視につながるのではないでしょうか。国として「学者の国会」を持っているということは、国として一つのあるべき形ではないでしょうか。

 日本学術会議はあえて国の目の上のたんこぶになっているのです。耳に痛いことをいうのが仕事で、そういう仕組みは必要ではないでしょうか。かつて内閣法制局がそうでしたが、それによって法解釈が守られてきたわけですよね。この学術会議も同じで、政権にとって耳の痛いことを言いますが、だからこそ必要なんだと思いますね。

 ――菅総理の任免拒否についてはどう感じましたか。

 説明責任を果たしてないですよね。総合的だとか俯瞰的だとか空疎なことは言っています。この6人がなぜ任命されなかったのか具体的に示さなければ、納得できませんよね。問題提起はわかりますが、具体的に言わないと。絶対に言わないでしょうけどね。

(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

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