負けられないトランプ 選挙で負けても裁判で勝つための秘策【窮地のトランプ大統領 焦燥の真相】

負けられないトランプ 選挙で負けても裁判で勝つための秘策【窮地のトランプ大統領 焦燥の真相】

退院後、初の選挙演説地フロリダの集会で、群衆にマスクを投げて見せるトランプ米大統領(C)ロイター

【窮地のトランプ大統領 焦燥の真相】#4

 米大統領選挙は「最終的に最高裁で決まる」とドナルド・トランプ大統領は発言した。死去した最高裁判事の補充に保守派判事を指名する直前のことだ。大統領は「政権交代はない。継続になる」とも言っている。

 選挙で勝つ自信がある候補者は決してこんなことを言わない。だが既述した通り、トランプ大統領にはどうしても負けられない理由がある。

 選挙では勝てそうにないが、裁判で勝つために、いくつかの手を打った。第1に、新郵便公社総裁に自分の陣営の人物を据えた。今年6月だ。

 新総裁ルイス・デジョイ氏は運送会社の元経営者。トランプ大統領に近く、過去4年間、大統領選挙も含めて計約200万ドル(約2億1200万円)の政治献金をしている。郵政事業の赤字削減を理由に、@超過勤務手当の廃止A仕分け機械の稼働時間短縮――を実行した。旧式の仕分け機械は廃棄するという。

 これでは手早く郵便物をさばけない。全米で郵便配達が数日間遅延。6月23日のニューヨーク州連邦下院選挙民主党予備選の開票が6週間も遅れたのはそのせいだ。

 対立候補ジョー・バイデン前副大統領の支持者は58%が新型コロナウイルスの感染を防ぐため郵便投票を望み、逆にトランプ氏の支持者の60%は投票所で投票する計画だ。だが、郵便が遅れ、多くの無効票が出るとバイデン支持票は減少する。このため、民主党支持者の間でも、郵便投票をやめて投票所での投票に切り替える人が増えた。

 これに対して、トランプ陣営は第2の策に出た。トランプ陣営の支持者に投票所をパトロールさせるというのだ。9月29日に行われた第1回テレビ討論で、大統領は「私の支持者を投票所に行かせて注意深く監視させる」と明言した。

 その「支持者」とは一体何者で、何をするのか。テレビ討論では極右集団「プラウド・ボーイズ」を非難すべきだとの質問に対して、大統領はこれに答えず「下がって待機せよstand back and stand by」と発言した。これを受け米国で約5000人といわれるこのグループは大統領のこの言葉をSNSなどで書き込んだという。

 トランプ陣営と共和党全国委員会はこうした投票所監視ボランティア「トランプのための部隊」計5万人を募集中だ。中西部や南部の「民兵」と呼ばれる武装右翼メンバーらもこの活動に参加するとみられる。

 8日、連邦捜査局(FBI)がグレッチェン・ウィットマー・ミシガン州知事(民主党)の拉致を企てた極右組織ら13人を逮捕する事件があった。これに対抗して、全米黒人地位向上協会(NAACP)は数千人のボランティアを募り、有権者が投票を妨害されないよう見張る計画だ。

 選挙当日、投票所周辺で衝突事件が起きる恐れがある。安全な投票の確保は選管当局と警察の任務だ。各地でさまざまな対策を検討中。バージニア州フェアファクス郡はデモ隊が投票所から45メートル内に立ち入ることを禁止すると決めた。

 トランプ大統領がこうした奇策で選挙を接戦に持ち込み、開票結果が少なくても異議を唱え、裁判に訴えて大統領の座を維持すれば、米民主主義は破綻する恐れがある。

(春名幹男/国際ジャーナリスト)

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