春名幹男氏が見た大統領選とその先「米国が民主主義を守れるかどうかの正念場」

春名幹男氏が見た大統領選とその先「米国が民主主義を守れるかどうかの正念場」

春名幹男氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

 春名幹男氏(国際ジャーナリスト)

 米大統領選は民主党のバイデン前副大統領が過半数の選挙人を獲得して勝利したとはいえ、トランプ大統領は徹底抗戦を続け、敗北宣言する気配がない。大混乱はいつまで続くのか、来年1月に本当に交代できるのか。選挙結果とこの先の見通しについて、日米関係やインテリジェンスが専門の国際ジャーナリスト・春名幹男氏に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――選挙結果をどのように受け止めましたか。

 予想通りではありました。郵便投票は民主党が強く、バイデンが勝つだろうと。それでも驚いたのは、トランプ支持者の強固なエネルギーです。あれだけコロナ対策で失敗し、多くの死者を出したのに、それでも「トランプでないと困る」と強く思っている人がいる。民主党はその辺りをよく認識しないといけないと思います。

 ――トランプ支持者のエネルギーの源泉は何なのでしょう。

 格差拡大により中間層が痩せ細って貧困層に落ちてしまった。その中に白人の労働者がかなり多くいるということです。クリントン政権時代のインフォメーション・ハイウエーが産業構造を一変した。製造業に携わっていた人たちがIT化、デジタル化に乗れず、職業訓練も十分ではなくこぼれ落ちた。そうした白人男性が引き続きトランプに賭けたんだと思います。もっともトランプは、ならばどうやって白人男性の雇用を増やし、豊かにできるのかという論理的な政策形成が全くできない人なのですがね。一方で、トランプ支持者には手厚い減税で得をしている高所得者層も多い。非常に矛盾した支持層なんです。

 ――焦点とされたフロリダ州をトランプが制した背景に、キューバ系移民の支持拡大があったとされます。トランプは移民には厳しいのに矛盾した支持でした。

 バイデンは民主党内の支持を固めるため、予備選で戦ったサンダース上院議員の政策を取り入れた。トランプはこれを過激な社会主義だと批判しました。バイデンはどうみても社会主義者ではないのに、トランプの主張はキューバから逃げてきた人たちに響いたのだと思います。フロリダは、ニューヨークなどで小金を稼いで老後を暮らす高齢者が住んでいる地域と軍事基地の地域とにくっきり分かれていて、前者は民主党、後者は共和党です。ヒスパニック系は投票率が低く、選挙に与える影響はそれほどないといわれてきましたが、今回はヒスパニック系がかなり活発に選挙に参加したのでしょう。

■「敗北を認める」ことが先人の教え

 ――バイデンが選挙人の過半数を獲得したとはいえ、トランプは投票結果に疑義を訴え、裁判闘争を進めています。この先どうなるのでしょうか。

 米国が民主主義を守れるかどうかの正念場だと思います。最も重要なのは裁判所の判断です。投票日直前にトランプは、最高裁判事にエイミー・バレットという非常に保守的な女性を指名し、承認されました。ただ、最高裁がトランプの望むような判断をしない期待はあります。例えばロバーツ最高裁長官は保守派の裁判官ではありますが、「オバマケア(米国民皆保険制度)」を守りましたよね。民主主義を守る、米国の憲法の体制を守ることを第一に考えれば、道理に反するようなトランプの虚偽の主張を認めないでしょう。ただ、党派的な裁判官もいますから注視が必要です。

 ――相当、ゴタゴタしそうですね。

 20年前のブッシュ(共和党)VSゴア(民主党)の時に初めて裁判闘争になりました。訴えたのはゴアで、一部の票の再集計を求めましたが、最高裁は棄却した。憲法に基づく米国の制度を守るという裁判所の強い意志があったと思います。12月12日に判決が出て、翌13日にゴアは敗北宣言をした。米国の民主主義のためだと大見えを切って、大義のために自分は退く、ということでした。米大統領選というのは「敗北を認める」ことを不文律として、歴代の負けた候補者は先人の教えを守ってきたのです。

 ――しかしトランプは、先人の教えに従うような人物ではなさそうです。

 大統領の選出について憲法で日程が決まっています。12月の第2水曜日の翌週の月曜(今回は14日)に選挙人が投票し、開票は1月6日。全538人の選挙人の過半数の270を取った人が正式に当選者となる。ところが今回は係争中のまま12月14日を迎え、選挙人全員が投票できない可能性がある。バイデンとトランプのどちらも過半数に達しない時はどうするのか。未知の世界です。

分断の歯止めはハリス副大統領に期待

 ――ゴアの時のように裁判の判決が12月14日までに出され、バイデンが当選者となったとしても、1月20日の大統領就任式までにトランプが敗北宣言をするのかどうか。

 実際、バイデンはその可能性について過去に質問を受けていて、1月20日になってもトランプがホワイトハウスを去らない場合は「軍隊に来ていただき、トランプ大統領をエスコートしてもらって出ていっていただく」と答えています。そうなるともうクーデターのように見えるじゃないですか。米国の民主主義はそんなことでいいのか、という議論にもなると思います。

 ――居座りには共和党内にも批判がある。

 共和党内にも良心的な人はいます。内部は分裂している。トランプは伝統的な共和党の候補者ではありませんから。もともと、共和党は富裕層、民主党は労働者層が支持者でした。かつて共和党はエリートがワシントンを支配していた時代もあった。ところがトランプ支持者は非大卒の下層階級の白人が中心です。どこで変化が起きたか。私はクリントン政権時だとみています。「第三の道」と称して英ブレア首相などと一緒に新自由主義を推進し、同時にデジタル化を進めた。これで儲かったのがシリコンバレーの人たち。今、日本で言う「GAFA」ですね。彼らが民主党に多額の献金をし、共和党と民主党の支持層が大きく変わったんだと思います。GAFAが繁栄する一方で製造業は取り残された。ラストベルトの人たちの怒りが高まる中で、アフガニスタンなどでの戦争も長期化する。その結果、「エリートの専門家に政治を任せていたのが悪かった。トランプのようなビジネスマンにやらせてみてはどうか」となったわけです。つまり、トランプ政権というのは「エリート打倒」の期待感を上手に受け止めた政権だったのです。

 ――バイデンで米国内の分断に歯止めがかかるのか。

 期待されているのが副大統領になるカマラ・ハリスです。マイノリティー出身であるうえ、検察官や州司法長官を長くやりましたから、「ブラック・ライブズ・マター」運動を受けて警察官職務執行の人道化など、ルール変更を進める可能性があると思います。

■外務省と国務省の蜜月が復活

 ――トランプ時代からの揺り戻しが起きると?

 そう思います。トランプ政権は結局、白人の逆襲のような形になってしまった。それは、その前のオバマ政権の政治力不足が招いたものでした。格差の拡大を防げず、戦争も終わらせられず、北朝鮮の核もなくせなかった。そのため、ワシントンの専門家に対する国民の不信感が増してしまったのです。従って、民主党が信頼感を取り戻すために、バイデン政権は経済を良くするとともに、国際情勢にも関与していかなければいけないと思います。

 ――国際情勢では、どこに注目していますか。

 欧州から中東、アジアまで、トランプがバラバラにしてしまった同盟ネットワークの再構築を進めなければなりません。パリ協定(地球温暖化対策の国際的枠組み)やイラン核合意からの脱退では、トランプは相当ムチャなことをやりましたからね。いずれも修正し、復帰することになると思います。

 ――日米関係はどうなるでしょうか。

 日本の外務省と米国の国務省の蜜月が復活すると思います。トランプ時代は余計なことを言ったら怒られるので、国務省の日本専門家は黙っていた。バイデン政権では国務省が力を取り戻すでしょう。そういう意味で、日米関係は安定化するかもしれません。しかしそれは、日本の対米依存を永続化させることになりかねず、警戒が必要です。本当は、トランプ時代は日米関係を一から見直すチャンスでした。それなのに日本がやったのはトランプへの「おもてなし外交」。残念でしたね。

(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)

▽はるな・みきお 1946年京都市生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。共同通信社で、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員と支局長、特別編集委員などを歴任。ボーン・上田記念国際記者賞(94年度)、日本記者クラブ賞(2004年度)受賞。07〜12年名古屋大学大学院教授・特任教授。10〜17年早大大学院客員教授。外務省「いわゆる『密約』問題に関する有識者委員会」委員を務めた。新著に「ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス」(KADOKAWA)。

関連記事(外部サイト)