「ゴルゴ13」が読むバイデンアメリカと混沌の2021年国際情勢

「ゴルゴ13」が読むバイデンアメリカと混沌の2021年国際情勢

(C)さいとう・たかを/さいとう・プロダクション 禁・複写&転載

2020年11月に行われた米大統領選は大接戦の結果、民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領を退け、21年1月20日の大統領就任式で第46代大統領に就任する見通しとなった。

 大統領就任以来、一貫して「アメリカ・ファースト」を掲げ、中国やロシアなど他国との緊張関係を強めてきたトランプ大統領。内政、外交ともに多くの課題を抱えたままの前政権を引き継ぐバイデン新政権誕生で今後のアメリカ情勢はどう動くのか。「ゴルゴ13」の原作者さいとう・たかを氏が大統領選を振り返りつつ、「ポスト・トランプ時代」を語った。

(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)


大統領選でバイデン勝利と背景

「彼(トランプ)は『アメリカ・ファースト』とか言っていましたが、やっていたことは『マイ・ファースト』。誰が見ても明らかに政治を商売だと考えていたし、そんなトランプ政権のやり方に多くのアメリカ国民も疑問を感じていたでしょう。新型コロナウイルスで情勢が逆転したとの声もありましたが、ウイルスの問題というのは過去にもいろいろあったわけで、今のコロナ問題が勝敗を分けるきっかけとなったとは思っていません。トランプ政治を政治ではないと強く考えていたアメリカ国民の当然の民意が今回の大統領選の結果であり、アメリカの政治というものが本来の政治の姿に戻る。報じられているように、世界からみれば『おかえりなさいアメリカ』というところでしょうか」


対中国関係

 バイデン新政権誕生で各国が注目するのが米中関係の行方だ。

 トランプは中国と貿易戦争を起こし、新型コロナを「武漢ウイルス」と呼ぶなど、感染症対策でも中国政府を繰り返し批判してきた。果たして両国の関係はどうなるのか。

「今まで大国といえばアメリカのみという状態でしたが、中国が台頭してきて、米国内で下手したら抜かれるかもしれないという懸念が生まれ、対立構造が生まれました。とはいえ、私は中国がさらなる大国になるのかといえば厳しいと見ています。中国がアメリカのように州制を採用(各州に権限を移譲するといった手法を取る)すれば別ですが、今の形のままで社会主義国家を維持し、発展するのは難しいでしょう。皆で平等に発展しようという考えは主義主張としては理想的ですが、国が大きくなった時、必ずその中で自分だけという意識を持つ人が出てくる。そうなると、結局、独裁者が生まれるという形になることは歴史が証明しています」

「独裁手法である中国の政治姿勢は世界に通用せず、そんな中国のやり方を抑えられるのはアメリカしかいません。おそらくバイデン政権もトランプ政権時代と同様に対中関係の対立構造は崩さないでしょう。ただ、各国の利害や緊張関係など全く考えなかったトランプ政権とは異なり、『政治』を中心とした政治にならざるを得ない。『アメリカ・ファースト』ではなく、世界情勢を考えた上で対中関係も考えていくはずだし、各国もまたそう見ているでしょう」


4年後のトランプ再出馬

 大統領選直後から「不正」を訴え徹底抗戦していたものの、敗北がほぼ決まったトランプは4年後の大統領選再出馬の動きも見せている。そうなれば今の「米国分断」が続くことになるが、バイデンはどう動くのだろうか。

「トランプが4年後の再出馬をほのめかし、今のような状態が続けば、アメリカはどうしようもなくなるでしょう。このままトランプが政治に首を突っ込んでくるのであれば、バイデン政権としてはトランプを“消す”しかない。つまり、二度と政治の舞台に上がれないような方策を考える可能性があります。ただ、それ以前にアメリカ国民の意識としてトランプ再出馬を認めないと思います」


日米関係

「農産品市場を開放しろ」「武器を買え」―――。日本に「カネを出せ」と譲歩を求めてきたトランプ政権のようにバイデン政権は露骨にカネを要求してくることはないとみられているものの、安全保障や貿易の分野でどんな要求を突き付けられるのか。対中政策として在日米軍基地を重要視しており、これまで以上に米国の戦略下で動くことを求めてくるかもしれない。バイデン政権の出方次第では日本は大きな岐路に立たされていると言っていい。

「日米関係がどうなるかはまだ見えないが、日本側が自律的に両国関係の在り方について見直すべき時期に来ていると思います。日米関係は重要ですが、独立した民主主義国家としての形を整えないと、どんどん米国に押されるだけ。このままだと日本は持たないのではないか。日米両国ともに内政、外交をどううまくコントロールしていくかが問われていると思います」


対ロシア・対北朝鮮・対中東

 バイデン政権はロシアや北朝鮮、中東関係でも、トランプ政権との違いを鮮明にしていくことになるが、大きく変わるとみられているのが対北朝鮮政策だろう。

 トランプは金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談を実現したが、バイデンは「(トランプは)北朝鮮を正当化した」「(北朝鮮は)ゴロツキだ」とまで批判していたからだ。

「トランプはさも政治的に良いことをやっているみたいな顔をしていましたが、バイデンはああいう真似はしないでしょう。そもそもアメリカから見れば、北朝鮮という国はハッキリ言って何てことはないからです。かつてのように核廃棄を強く求め、従わないのであれば経済制裁を科す。それしかありません」

「一方、米ロは根本的に政治対立しているのでバイデン政権でも緊張関係は続くでしょうし、対中東関係では、まずはトランプが各地につくった火ダネ(エルサレムへの米大使館設置や、イランとの核合意を一方的に離脱など)を消すことから始めるのではないか」


▽ゴルゴ13
 雑誌「ビッグコミック」(小学館)に連載中。2020年9月時点で連載期間が51年10カ月となり、同一作家による連載漫画としては日本で5番目の長さ。20年12月4日、リイド社から199巻目となるコミックを発売した。

▽さいとう・たかを
 本名・齊藤隆夫 1936年生まれ。17歳で描いた「空気男爵」でデビュー。上京し、「さいとう・プロダクション」設立。68年「ゴルゴ13」の連載を開始。主な代表作に「台風五郎」「無用ノ介」「デビルキング」「バロム・1」「影狩り」「雲盗り暫平」「サバイバル」「仕掛人 藤枝梅安」「鬼平犯科帳」「剣客商売」など。2003年に紫綬褒章、10年に旭日小綬章受章。19年東京都名誉都民に選出。


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