森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 北方領土返還の好機

 安倍総理は、9月2日にロシアのウラジオストクを訪問して、プーチン大統領と会談した。この席で今年12月15日にプーチン大統領が山口県を訪れることも合意された。
 クリミア半島併合でロシアが西側各国から経済制裁を受ける中、日露首脳が接近することに米国は懸念を表明している。
 そのような米国の意向を無視してまで、安倍総理が日露外交に熱心に取り組む理由は、ロシアの経済や財政が未曽有の危機を迎えているいまこそが、北方領土奪還の大きなチャンスになっているからだ。

 ロシアの財政が厳しくなった主因は、原油価格の低迷だ。昨年まで、ロシアの国家予算の半分を石油収入が占めていた。そこでの石油の想定価格は、1バレル=100ドルだ。しかし、昨年、石油価格が30ドル台に暴落し、膨大な歳入欠陥が生じたのだ。
 今年の予算においても、ロシアは1バレル=50ドルという甘い想定を置いているため、財政赤字は増える一方だ。
 昨年、ロシア中央銀行が発表した見通しによると、ロシアの予備基金および国民福祉基金は、2019年にも底をつくとみられている。原油安が、ロシア経済を破壊しようとしているのだ。
 原油価格の低迷は、財政だけでなく、ロシア経済自体も直撃する。今年のロシア経済は、マイナス成長に陥っているのだ。だからロシアは、いま喉から手が出るほど経済援助が欲しいのだ。

 もちろん、プーチン大統領は、日本と話し合っているのはあくまでも経済協力のことであり、領土問題を話しているのではないとしている。
 しかし、安倍総理とともに出席した3日の東方経済フォーラムの討論会で、「日露で見方に違いはあるが、問題を解決する必要があると考えているのは同じだ」と述べて、領土問題を解決する意思があることを示唆している。今年12月の山口県での安倍総理との会談で、北方領土返還に向けた大きな進展がある可能性は十分あると言えるだろう。

 ただ、米国との関係を考えると、経済援助と引き換えに北方領土の返還を勝ち取るのは、大きな困難を伴う。
 もともと、昨年生じた原油安は、クリミア半島問題で激怒した米国が、ロシアを追い詰めるために仕掛けたものだったとみられる。昨年、米国は、同盟関係にあるサウジアラビアと対立するイランへの経済制裁を解除した。そのおかげでイランは、大手を振って石油を増産、輸出することが可能になった。それが石油需給を緩和させたのだ。

 それだけではない。米国は昨年末に石油ショック以降、エネルギー安全保障のために禁じてきた米国産原油の輸出を解禁した。表向きの理由は、シェールオイルの採掘技術が確立したからだが、昨年末の原油価格は1バレル=30ドル台だ。
 生産コストが40ドル台の米国産原油を、コスト割れで輸出する理由は、原油価格を引き下げるため以外に見当たらない。

 米国からしたら、せっかくロシアを兵糧攻めで追い詰めたのに、日本が経済援助で救うというのは、言語道断なはずだ。そこをどう乗り切るのか。安倍外交の真価が問われることになりそうだ。

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