世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第191回 少子高齢化が日本経済を救う

 現在の日本経済は、相も変わらずデフレから脱却できていない。2014年度の消費税増税以降、安倍政権は立て続けに緊縮財政という「需要創出策」を採った。結果的に、日本銀行が'13年3月以降、何と250兆円ものお金(主に日銀当座預金)を発行したにもかかわらず、インフレ率はマイナスに低迷している。
 ところが、なぜかわが国には、このタイミングで経済成長の絶好の機会が訪れようとしているのである。しかも、理由が「少子高齢化」なのだから、マスコミに毒された日本国民の多くは信じられないだろう。

 改めて、経済成長とは何か。もちろん、国内総生産(GDP)が実質値で増大していくことであり、他に定義は存在しない。
 実質GDPを成長させるためには、国民経済において「総需要(名目GDP)」が「供給能力(潜在GDP)」を上回るインフレギャップ環境下で、労働者一人当たりの生産量を増やす必要がある。生産性の向上による供給能力の拡大こそが、経済成長である。

 資本主義経済において、モノやサービスを生産する「供給能力」は「資本」「労働」「技術」の掛け算で決まる。足し算ではないため、どれか一つでもゼロになってしまうと「供給能力=経済力がない」という話になる。
 「資本」とは、交通インフラや工場、機械設備、運搬車両などの固定資産のことだ。「労働」は、もちろん働く人。そして「技術」は、各種の資本財や消費財を生産するための技術力になる。
 資本、労働、技術という資本主義経済の三要素を強化するためには、投資以外に方法がない。具体的にはインフラを強化する公共投資、工場や設備、運搬車両などの導入に当たる設備投資、労働者の生産性を高める人材投資、そして技術力を強化する技術投資の四つである。

 ところで、公共投資、設備投資、技術投資の三つは分かりやすいが、人材投資とは何を意味しているのだろうか。別の書き方をすると、労働者の生産性を高めるためにはどうすればいいのか。
 もちろん、労働者に働いてもらう必要、厳密には「働き続けてもらう必要」がある。働かない人は、決して「人材」に成長できない。
 人間は生産者として働き、モノやサービスを生産し、各種のノウハウ、技術、技能、スキル、経験等を自らの中に蓄積し、「人材」へと育っていく。人材投資とは、要するに「働いてもらうこと」そのものなのだ。

 それでは、その国の将来的な「労働」の強さ、ひいては「経済力」は、何が決定することになるだろうか。もちろん、現時点で「若い国民」が働いているか否かである。現在、若い世代の多くが職に就き、働いているということは、彼ら、彼女らは、将来的な国民経済の供給能力の「中核」としての人材に育っていく可能性が高いわけだ。
 15歳から24歳までの「労働人口に占める失業者の割合」を若年層失業率と呼ぶ。「労働人口」が対象であるため、学生や主婦は含まれていない。
 現時点での若年層失業率が低ければ、将来的にその国は供給能力を決定づける三要素の一つ、「労働」を自然に強化することができる。逆に現在の若年層失業率が高い場合、将来的にその国は十分な「労働」が存在し得ないことになる。グローバリズム的には「他の国から持ってくればいい」という話になるのかもしれないが、国家の経済力の弱体化であることに変わりはない。

 というわけで、主要国の若年層失業率(2014年)をグラフ化してみた。
 驚くなかれ。主要国の中で最も若年層失業率が低いのが日本国なのだ。アメリカ、中国、韓国、ロシアといった国々の若年層失業率は10%台、欧州小国は軒並み20%超なのである。スペインやギリシャに至っては50%を超えている。しかも日本の若年層失業率は、'14年の6.5%からさらに下がっている。直近のデータでは4.8%と、何と5%を切った。

 現在はグローバリズムおよび世界的な需要停滞の影響を受け、「若い世代」の雇用が割を食っている状況だ。ところが、日本は(発展途上国を除く)世界主要国の中で、若年層失業率が最低なのである。しかも、さらに下がり続けている。なぜなのか。
 理由はもちろん「安倍政権の経済政策の成果」ではない。少子高齢化により生産年齢人口比率が下がり、総人口に占める若い世代の割合が低下しているためだ。若い世代が「貴重な存在」になりつつあるわが国では、若年層失業率は完全雇用に近づく。
 超人手不足の時代が、始まろうとしている。

 日本国内では、少子高齢化により「日本は衰退する」といったネガティブな報じられ方がされている。とんでもない話だ。少子高齢化がもたらすものは、超人手不足という「生産性向上」のための絶好のチャンスなのである。
 そもそも、1997年の橋本政権下の緊縮財政によるデフレ化(=総需要の不足)以降、日本の国民経済を下支えした需要は「医療サービス」や「介護サービス」なのだ。医療、介護といった需要が拡大したからこそ、わが国のデフレはある程度の縮小で食い止められた。なぜ日本国内で医療、介護といったサービス需要が拡大したかといえば、もちろん高齢化が進んだためである。

 少子高齢化は、過去においては医療・介護を中心に、日本経済の需要を下支えした。そして今後は超人手不足をもたらし、われわれに生産性向上、つまりは経済成長の機会を与える。
 信じ難い話だろうが、少子高齢化が日本経済を救うのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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