森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 加計学園の争点がズレている

 加計学園が愛媛県今治市に獣医学部を新設する案に関して、「首相の意向」、「官邸最高レベルの話」と書かれた文書を文科省の前川喜平前事務次官が、「本物」だと断定した。これに野党は勢いづき、前川氏を証人喚問せよと与党に迫っている。
 確かに、この文書は間違いなく本物だろう。官邸が開学を急がせたのも、事実だ。しかし、事の本質は、獣医学部新設に名乗りを上げていた京都産業大学が却下されて、加計学園だけがなぜ残ったのかという点にある。

 京産大が落選したのは、昨年11月9日の国家戦略特区諮問会議で52年ぶりに獣医学部の新設を認める方針を決定したとき、設置は獣医学部の空白地域に限るという条件が設定されたためだ。
 ゆえに大阪に獣医学部があるから、実質的に京産大にNOを突き付けたのだ。その理由が何かということ。特区諮問会議の議長は安倍総理。だから、まず国会が追及すべきなのは、安倍総理自身なのだ。

 また、もう一つ国会が追及すべき対象がある。それは文科省だ。
 前川氏は、告発の理由を、「国民に政策決定のプロセスを明らかにする義務がある」と気取ったが、前川氏は文科省の組織的天下りを指揮した責任者だ。にもかかわらず、そのことへの反省や謝罪はなかった。それどころか、官邸からの圧力で行政が歪められたとまで証言したのだ。
 大学設置申請に携わったことのある人なら誰でも知っていることだが、申請には膨大な資料作成と、長時間にわたる文科省との折衝が必要となる。その過程で、大学設置者は文科省の言いなりになる。それが文科省の利権であり、天下りの温床となっているのだ。
 前川氏が告発に踏み切ったのは、辞職を事実上強要された恨みだけではなく、文科省の利権を官邸に踏みにじられたことへの怒りだったのではないか。

 それでは、なぜ文科省が獣医学部の新設を頑なに拒んできたのか。そこには、もっと深い闇がある。獣医師会の利権だ。
 獣医学部が新設されれば、獣医師の数が増える。そうなると、競争が激しくなって、動物病院が儲からなくなってしまう。だから、半世紀以上獣医学部が新設されてこなかったのだ。
 実際、国家戦略特区での獣医学部新設は、麻生副総理をはじめとする多くの与党の政治家が反対したとされている。彼らは、なぜ反対をしたのかを国会は調べるべきだ。さらに、獣医師会からの政治献金が一体誰に流れているのかを、マスコミも明らかにすべきなのだ。

 さらに、最も重要なことは、文科省がなぜ、獣医学部の新設に反対したのかという理由だ。
 前川氏は、新設を認めるのに十分な根拠がなかったとしているが、それは建前。“開学せよ”という官邸からの圧力と同時に、“開学させてはならない”というもう一つの圧力がかかっていたはずだ。その圧力の正体を明らかにすることが、文部科学行政の闇を解明することにつながっていくのだ。それが解明できれば、もう一つの闇が追及できるようになる。
 高齢化で医者の不足が明らかなのに、なぜ医学部の新設がほとんど認められないのかという問題につながる。

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