世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第225回 生産性向上こそが解である

 筆者は日本の人手不足を補う手段としての移民(外国人労働者)受け入れに猛反対している。移民反対を主張すると、即座に、
 「ならば、人手不足はどうするんだ!」
 と反論されるわけだが、答えは決まっている。生産性向上である。

 生産性とは、生産者1人当たりの生産を意味する。生産性向上とは生産者1人当たりの生産量を拡大し続けることだ。
 そもそも移民受け入れ論者が理解していないのは、経済成長は「人口(移民含む)の増加」ではなく「生産性向上」により起きるという真実だ。厳密には、総需要(名目GDP)が供給能力(潜在GDP)に対して過剰となり、インフレギャップ(≒人手不足)が発生。インフレギャップを人手を増やすのではなく、生産性向上で埋めようとしたとき、初めて経済成長の黄金循環が回り始める。
 インフレギャップを「人手」ではなく生産性の向上で埋める。生産性向上とは、生産者1人当たりの生産の拡大だ。

 GDP三面等価の原則により、生産=支出=所得となる。生産性向上で生産者1人当たりの生産が拡大するとは、生産者1人当たりの「所得」が増えることをも意味するのだ。すなわち、実質賃金の上昇である。
 実質賃金が上昇し豊かになった国民は、おカネを使い始める。すると、民間最終消費支出(いわゆる個人消費)や住宅投資といった需要が拡大し、経済は再度インフレギャップ化してしまう。というわけで、新たなインフレギャップを生産性向上で埋めると、またもや実質賃金が上昇。豊かになった国民が消費や投資を増やし、再びインフレギャップが拡大する。と、生産性向上と総需要の拡大が循環的に繰り返されるのが「経済成長」なのだ。

 数年前までのわが国は経済が完全にデフレ化していた。デフレギャップという総需要の不足が発生していたのである。デフレギャップがある国では生産性向上は起きない。生産性が向上したとしても失業が増えるだけで、むしろデフレが深刻化しかねない。
 とはいえ、現在の日本は異なる。経済はいまだにデフレから脱却していないが、幸運なことに、少子高齢化に端を発した生産年齢人口対総人口比率の低下により人手不足が始まっているのだ。この人手不足を移民受け入れではなく、生産性向上で埋めて初めて、わが国の経済成長の黄金循環が回り始める。
 より具体的には、生産性向上を目的とした投資の拡大こそが日本には必要なのである。生産性向上のための投資とは、設備投資、公共投資、人材投資、技術投資の四つだ。

 今後の日本において特に重要なのは「サービス業の生産性向上」になる。厳密には「人が動かざるを得ない分野」における生産性向上こそが、日本を繁栄へと導く。介護、土木・建設、運送、医療、農業、飲食、農業などにおいて人手不足をいかに「技術」でカバーできるのか。これが日本経済の運命を決定付けることになる。
 一応、政府も「サービス業の生産性向上」のための投資戦略を打ち出そうとしている。安倍内閣は2017年5月30日、第9回未来投資会議を開催。総理は会議後の記者会見で、
 「少子高齢化に直面する日本は、失業問題を恐れずに人工知能やIoT、ロボットなどを存分に活用できます。ものづくりが強く、医療介護や工場のデータも豊富です。このチャンスを産業の変革だけには終わらせません。日本は、新たな技術をあらゆる産業や日常生活に取り入れ、1人1人のニーズに合わせる形で社会課題を解決する『Society5.0』を世界に先駆けて実現します」
 と、語った。

 会議では、具体的には、
 ●介護ロボット等の導入促進(介護)
 ●「アイ・コンストラクション」の対象拡大、公共工事の3次元データのオープン化、インフラ点検・災害対応ロボットの開発促進(土木・建設)
 ●トラックの隊列走行の実現、地域における無人自動走行による移動サービスの実現、小型無人機(ドローン)による荷物配送の実現、安全運転サポート車の制度整備・普及促進(運送)
 などが提言された。これらの施策は、筆者が著作『日本が世界をリードする! 第4次産業革命』(徳間書店)などで訴えていたソリューションそのままだ。介護、土木・建設、運送など、ヒトが動かざるを得ない分野において「ヒトの動作」を支援する技術投資、設備投資こそが第4次産業革命なのだ(ちなみに、第3次産業革命はコンピューターやインターネットの発達により、ヒトの「情報へのアクセス」を支援し、生産性を向上させた)。

 また、安倍総理の発言の冒頭「少子高齢化に直面する日本は、失業問題を恐れずに」という部分は重要だ。筆者は「第4次産業革命」などにおいて、生産年齢人口比率が低下するわが国では、他の国とは異なり「技術的失業」を恐れずに新技術の導入ができる。よって第4次産業革命は、日本がけん引すると繰り返し語ってきた。技術的失業とは、技術進化により失職する人々が激増する「可能性がある」という問題だ。日本の場合は、そもそも人手不足が深刻化していくため、技術的失業を恐れる必要は全くない。
 問題は、安倍政権が人手不足に対する解決策として、なぜか生産性向上と「移民受け入れ」を同時に進めている点だ。生産性向上で人手不足が埋まるならば、そもそも外国人労働者を受け入れる必要はないはずだ。

 現在の日本は深刻化する人手不足を受け、
 「移民受け入れを続け、国民が貧困化する移民国家と化すのか?」
 「生産性向上により、経済成長の黄金循環が回り始めるのか?」
 の瀬戸際にある。いずれの道を進むのか、すべては今後のわれわれ、日本国民の選択にかかっている。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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