世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第227回 デフレ型経済成長

 6月8日、内閣府から2017年1〜3月期の国民経済計算(改定値)が発表になった。
◆実質GDP 対前期比プラス0.3%
◆名目GDP 対前期比マイナス0.3%
◆GDPデフレータ 対前期比マイナス0.5%
 名目GDPとGDPデフレータが共に縮小する中、実質GDP(経済成長率)のみがプラス化した。一体、どういうことなのか。

 国民はモノやサービスを「生産」するために働き、顧客に消費、投資として「支出」をしてもらうことで「所得」を得る。所得創出のプロセスにおいて、生産、支出、所得の三つは、必ずイコールになる。
 そして、国内の「生産」の合計こそがGDP(国内総生産)だ。とはいえ、生産=支出=所得になるため、GDPとは実は国内の生産の合計であり、支出(あるいは需要)の合計であり、同時に所得の合計でもあるのだ。GDPが増えている国は「所得が増えている」というわけで、豊かになっていると判断して構わない。
 生産面のGDP、支出面のGDP、分配(所得)面のGDP。三つの面から見たGDPは、すべて総額が同じになる。これを、GDP三面等価の原則と呼ぶ。

 GDPは優れた統計だが、厄介な問題をいくつも抱えている。
 まずは、金額で見た需要としてのGDP、つまりは名目GDPだ。名目GDPは金額で見るため、物価の影響を露骨に受ける。
 例えば、筆者が講演というサービスを生産していると考える。筆者の講演料が1回当たり100万円(筆者の講演料は、実際にはそこまで高くないが)とする。1年間に10回、講演をした場合、1年間の筆者の講演サービスの「生産」、筆者の講演に対する「需要」、そして筆者が講演で稼いだ「所得」は、すべて1000万円となる。結果、日本の名目GDPが1000万円増えた。
 この状況から、筆者の講演料が1回110万円に上昇した。講演回数は、以前と同じく年に10回。この場合、筆者の「生産」「需要」「所得」はすべて1100万円に増大するのである。名目GDP10%成長だ。
 とはいえ、別に筆者の講演「サービスの生産量」が増えたわけではない。単に、講演料が値上がりしただけだ。すなわち、物価上昇である。

 名目GDPは、実質の生産量が一定(もしくはマイナス)であったとしても、物価が上昇する「だけ」で拡大するのだ。というわけで、物価を定点観測し、得られた物価指数(=GDPデフレータ)で名目GDPを割ることで、実質GDPを「計算」する。
○実質GDP=名目GDP÷GDPデフレータ
 分かりやすく書くと、名目GDPの動きから物価変動の影響を除いたものが、実質GDPの成長率、すなわち経済成長率になるのである。

 さて、実は実質GDPにしても深刻な問題を抱えている。例えば、名目GDP(需要)が縮小するデフレ期に、名目GDPの「縮小率」をGDPデフレータの「下落率」が上回るとどうなるか。何と、実質GDPがプラスで「計算」されてしまうのである。
 名目GDPが低迷するデフレ期に、GDPデフレータという物価指数が大きく下落すると、需要が縮小しているにもかかわらず、経済成長しているという意味不明な状況に至るのだ。
 名付けて、デフレ型経済成長である。

 先の例で言えば、講演料100万円、講演回数が年10回、名目GDP1000万円の状況から、講演料が90万円に値下がりした。それに対し、講演回数は年11回に増えた。すると、筆者の所得=名目GDPは990万円になる。
 講演回数が増えたということは、筆者は「以前よりも働いている」という話になる。講演サービスの「生産量」が1割増えたわけだから、実質GDPは10%成長だ。それにもかかわらず、年間に講演で稼ぐ所得は10万円減ってしまうのである。まさに、徒労だ。

 この「徒労感」にあふれるデフレ型経済成長に、現在の日本は落ち込んでいる。
 冒頭の通り、現在の日本は名目GDP成長率、GDPデフレータ成長率が共にマイナスに落ち込んでいる。ところが、物価下落率が名目GDPの縮小率を上回ってしまったため、実質GDPがプラス化してしまったのだ。

 名目GDPという「需要」の縮小も、物価の下落も、共に「デフレーション」特有の現象だ。日本はデフレに陥っているにもかかわらず、物価下落率が需要縮小率を上回り、「経済成長して見える」という状況に至った。すなわち、デフレ型経済成長である。
 四半期別の日本のGDPデフレータ「前年同期比」をグラフ化してみた。
 2014年4〜6月期、消費税増税で物価が強引に引き上げられ、GDPデフレータは上昇した。一時的に物価上昇率が、対前年同期比3%を上回ったのだ。
 とはいえ、その後は次第に上昇幅を縮め、'16年7〜9月期以降はマイナスに転じてしまう。消費税増税が物価あるいは「デフレ」に与える影響は、継続することが分かる。

 現在、日本国民は継続的に消費「量」を減らしている状況にある。消費税が増税され、実質賃金が低下した以上、当たり前だ。2017年4月まで、日本国民は(うるう年の影響を除くと)何と20カ月連続で、実質消費を減らしているのだ。
 国民が消費「量」を減らし続けている以上、日本国内の物価が上昇するはずがない。日本が消費税増税により「再デフレ化」したのは明らかだ。
 ところが、デフレ型経済成長は、曲がりなりにも実質GDPが増えている(ように見える)ため、政治家や国民が「経済は好調だ」と勘違いし、肝心要のデフレ対策が打たれなくなる可能性が高い。
 日本経済は、再デフレ化した。政府は「5期連続プラス成長」などとやっている場合ではないのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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