森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 2本目の毒矢が放たれた

 連合の神津里季生会長が7月13日に首相官邸で安倍総理と会談し、高度プロフェッショナル制度の導入を条件付きで容認した。
 高度プロフェッショナル制度は、もともと「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれ、企業が労働時間の管理をせず、残業代も支払わないという制度だ。そのため、「残業代ゼロ制度」とか「過労死促進制度」との批判を浴びて、一昨年の通常国会では法案が提出されたものの、一度も審議されなかった。だが、連合の容認によって、秋の臨時国会で、成立する可能性が一気に高まった。
 政府は、高度プロフェッショナル制度の導入で、労働者が時間に縛られずに働けるようになり、生産性の向上が図れると主張している。しかし、労働者に時間管理の自由を与えるのであれば、フレックスタイム制や裁量労働制で十分足りる。現実的に見てみると、この制度は、企業が残業代を支払わずして、無制限の労働を強要するための道具になりかねないのだ。

 そうした批判に対して政府は、平均年収の3倍(1075万円)以上の高度な専門能力を有する労働者に限定して解禁するのだから、一般のサラリーマンに悪影響はないと主張する。しかし、派遣労働法も、当初は高度な専門技術を必要とする13業務だけが対象だった。それが規制緩和で徐々に拡大され、製造業務にまで広がったのだ。
 また、すでにホワイトカラー・エグゼンプションが導入されている米国では、年収260万円以上の労働者が対象となっていることから、連合の役割は、適用拡大に厳格な歯止めをかけることだったはずだ。
 ところが今回、連合は、年間104日以上、かつ週1日以上の休日取得に加え、(1)勤務間インターバルの導入、(2)2週間連続休日取得、(3)在社時間の上限設定、(4)健康診断実施のうちのいずれかを導入するという条件で、折り合ってしまったのだ。

 私は、安倍政権が雇用破壊の「3本の毒矢」を放とうとしているという指摘を以前からしてきた。
 第一の毒矢は、派遣労働者の正社員登用の道を事実上ふさぐ派遣法改正で、これは一昨年からすでに施行されている。今回の毒矢が第2弾だ。そして第三の毒矢は、手切れ金を支払えば正社員を解雇できるようにする金銭解雇の導入で、政府は着々とその準備を進めている。
 このまま行くと、ホワイトカラーのサラリーマンは、成果を出せるまで無制限に働かされ、成果が出なければ、いつでもクビを切られることになる。いま安倍政権がやろうとしているのは、働き方改革どころか、働かせ方改革なのだ。

 私は、もし一般サラリーマンにまでホワイトカラー・エグゼンプションが広がるようになったら、会社と業務委託契約を結ぶフリーランスになったほうがましだと思う。
 自営業だったら、経費を落とすことが可能になるし、年金保険料は国民年金だけで済む。そして、会社に対して消費税の支払いを請求することもできる。大部分のサラリーマンは、売り上げが免税点以下になるから、消費税を納付する必要もないのだ。
 一億総フリーランス社会、これが、日本の労働市場が迎える未来の姿なのかもしれない。

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