世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第232回 財務省の御用学者と御用財界人

 現在、わが国の実質消費は「壊滅的」な状況に至っている。日本国民は2014年4月から'15年4月まで、13カ月連続で実質消費を減らした。さらに'17年5月まで、うるう年の影響を除くと20カ月間連続で実質消費が減少している。間違いなく、史上最長の消費縮小である。

 安倍総理を「日本の憲政史上、最も国民の消費を減らした総理大臣」の座へと押し上げた主因は、間違いなく'14年4月の消費税増税だ。
 '14年4月に消費税率が8%に引き上げられる前、日本政府は合計7回の「集中点検会合」を開き、増税の是非や、増税が経済に与える影響などについて検証した。もっとも、集中点検会合に呼ばれたメンバーのほとんどは、財務省の配下の御用学者であり、エコノミストたちであった。

 「消費税増税に伴う景気の落ち込みは軽微であり、増税とデフレ脱却は両立する」(伊藤隆敏・東京大学教授)
 「政府は少しでも(増税を)先送りしていると思われることをすべきでない」(吉川洋・東京大学教授)
 「消費税増税に伴う景気後退リスクと、見送りによって財政の信認を損なうリスクをてんびんにかければ、後者が重い」(武田洋子・三菱総合研究所チーフエコノミスト、肩書は当時)
 財務省の“飼い犬”である御用学者やエコノミストたちは、とにかく消費税増税や緊縮財政を擁護する発言を繰り返す。

 自らの記者クラブ『財政研究会』を通し、マスコミをコントロールする財務省は、緊縮財政至上主義の論客を次々に新聞やテレビなどに送り出す。結果的に、日本国民は「財政破綻を避けるため、消費税増税や緊縮財政やむなし」と、間違った情報で洗脳されていくわけである。正しい“事実”が隠蔽され、日本の財政破綻という存在しない危機が人々の間に拡散していく。結果的に、緊縮財政が強行され、国民が貧困化するが、消費税増税をあおった御用学者たちは何の責任も取らない。彼らは今でも、政府の要職に就いたままである。

 ところで、集中点検会合では、経済同友会の副代表幹事も務めた日本生命保険相互会社社長の岡本圀衛氏もまた、
 「(増税をしないと)国際的な信認が失われ、株・債券などへ悪影響を与える。長期金利の暴騰が懸念され、企業活動・金融システム・財政に大きな打撃となる。将来世代へのつけがさらに拡大する」
 と、陳腐な論調で消費税増税をあおっていた。

 財務省の得意技は「ご説明」だ。とにもかくにも大量の人数(数百人規模)で政治家、学者、ジャーナリストに加え、財界人までをも回り、存在しない「財政危機」をあおり、消費税増税や政府支出削減を実現しようとする。
 '14年の消費税増税の際には、300人体制で回ったとのことだ。財務省の「ご説明」に影響され、マスコミで財政破綻説を語ってしまったら、もはや後戻りはできない。人間は、「過去の自らの発言」に縛られる生き物だ。一度、財政破綻説という麻薬を飲んでしまったら中毒状態になる。その後は、ひたすら財務省発財政破綻説のスピーカーの役を務めざるを得ない。

 経済同友会は、7月13日から2日間にわたって長野県軽井沢町で開いた夏季セミナーで、安倍政権に予定通りの消費税率引き上げを求める提言を取りまとめた。夏季セミナーにおいて、商船三井の武藤光一会長は、政府の負債対GDP比率の低下という目標を政府が“骨太の方針2017”に掲げたことについて、
 「GDPが増やせれば借金を増やしてもよい、という極めて姑息な一時しのぎの指標」
 と、発言した。

 さらに、東京海上ホールディングスの隅修三会長は、
 「社会保障を調整するか、消費税で賄うしかないのは皆が分かっている。国民にどんな危機が来るか明快に伝わっていない」
 と、財務省式「お小遣い帳」の考え方で、ありもしない危機をあおっていた。

 まず、武藤会長の「GDPが増やせれば借金を増やしてもよい」であるが、武藤氏は政府の負債が〔1872年〜2015年 政府債務の金額および実質残高(2015年基準)の推移〕が示すように“3240万倍に増えているという現実”を、いかに説明するのだろうか。
 GDPが成長するならば、政府の負債が増えたところで「財政健全化」は達成できる。理由は、財政健全化とはそもそも「政府の負債対GDP比率の引き下げ」であるためだ。

 さらに、隅会長の言う「危機」とは、いかなる危機なのか。是非とも、具体的に、データでもって教えてほしいものである。ちなみに、'13年10月1日の安倍総理の消費税増税決断前、消費税増税派のレトリックは、
 「消費税を増税すれば、国民が将来の社会保障の維持に安心感を抱き、消費を増やす」
 というものであった。

 明治ホールディングスの松尾正彦社長は、6月26日に朝日新聞のインタビューに答え、
 「消費動向や実質賃金などの数字はあまりよくありません。給料が上がっても社会保険料も上がって、手取りは増えていないとか、将来不安がある、といったことでお金が使えないのではないでしょうか。社会保障をしっかりするためにも、消費税の引き上げを延期すべきではありませんでした」
 と語った。「手取りは増えていない」「将来不安がある」状況で、なぜ消費税の引き上げを延期するべきではなかった、などという話になるのだろうか。

 消費税を上げれば、普通に実質の手取りは下がる。しかも、現実の日本国民は、消費税増税以降、実質消費を減らし続けている。消費税増税で、実質賃金が引き下げられ、貧困化した国民が消費を増やすはずがない。日本国民は消費税増税により、消費を増やしたくても増やせない状況に追い込まれたのだ。
 国民に所得的な余裕がない状況で、増税で実質賃金を引き下げ、消費を増やすわけがない。「社会保障をしっかり」うんぬんは、全く関係ないのだ。

 わが国は企業の経営者たちまでもが、この手の愚かな緊縮財政至上主義に染まってしまっている。
 財務省の御用学者、御用財界人の言説がいかにでたらめであるか、どれだけナイーブ(幼稚)であるか、国民の共通認識としなければ、わが国が財務省の緊縮財政至上主義から解き放たれる日は訪れない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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