森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 小池知事の次の敵は喫煙者

 小池百合子東京都知事の与党である都民ファーストの会と都議会公明党が、8月29日、受動喫煙対策の条例案の概要を発表した。家庭で、子供と同じ部屋ではたばこを吸ってはならない、たばこを吸う部屋に子供を入れてはならない、子供が同乗している車でたばこを吸ってはならないといった内容だ。
 「子どもは自らの意思で受動喫煙を避けることが困難であり、保護の必要性が高い」と言われたら、表向き誰も反対できない。そして、罰則規定のない条例だから、おそらく、すんなり成立することになるだろう。

 しかし、これについて私が大きな違和感を持つのは、行政が家庭に安易に介入しようとする姿勢だ。もちろん家庭で虐待が行われているような場合は別だ。子供の心身に重大な危険が及ぶからだ。
 しかし、受動喫煙がどの程度のリスクを持つのかは、少なくとも病理学的には解明されていない。いまの大人は、多かれ少なかれ受動喫煙の被害を受けてきたが、実際には平均寿命は伸びてきている。少なくとも、虐待と比べればリスクがはるかに小さいことは明らかだろう。それなのに、家庭の中まで行政が一律に禁煙を強制するのは、ライフスタイルの強要だ。

 私は、小池知事の本当の狙いは、新たな“悪役づくり”なのではないかと考えている。小池知事が都民の圧倒的な支持を受けたのは、都議会自民党の密室政治を批判し、内田茂前都議を悪役に仕立てた“小池劇場”が奏功したからだ。
 しかし、その内田氏が都議会を去り、都議会自民党が惨敗したいま、小池知事は叩くべき相手を失ってしまった。代わりに新しい悪役に選ばれたのが、喫煙者なのではないだろうか。喫煙者はいま、抵抗を許されない空気の中で生きている。もっとも叩きやすい相手なのだ。

 しかし、小池知事が本当に戦うべき相手は、喫煙者ではない。それは、都議会議員であり、都庁職員だ。確かに小池知事は自らの報酬を半減し、豊洲問題の責任を取って、今年2月から3カ月間限定で、さらなる報酬削減を行った。
 だが、小池知事が報酬削減を行う一方で、都議会議員の報酬は高いままで、小池知事を上回っている。悪名高い政務活動費も報酬とみなせば、知事の年収を1000万円も上回っている状態なのだ。都庁職員の給与も、全国の都道府県のなかで一番高い。

 私は橋下徹氏とは意見が違うが、彼が大阪府知事をやっていた時代には、自らの報酬だけではなく、議員や職員の報酬カットにも踏み切った。筋は通っていたのだ。
 知事報酬のカットだけでは、財政面での効果は、ほとんどない。それなのに議員や職員にはいっさい手をつけないというのでは、小池知事の東京大改革というのは、単なるパフォーマンスにすぎないことになってしまう。

 それでも、密室政治を公開に持っていった功績は大きいという意見は根強い。それでは、例えば、いまだベールに包まれたままの「築地は守る、豊洲は活かす」という方針の具体的な中身は、どうなっているのか。
 小池知事が第一に位置付けているのは、都民ではなく選挙、あるいは、権力そのものなのではないだろうか。

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