関空閉鎖で外国人旅行者が「情報難民」に──おもてなし観光立国の喫緊の課題とは

関空閉鎖で外国人旅行者が「情報難民」に──おもてなし観光立国の喫緊の課題とは

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9月4日、台風21号による被害で大阪府の関西国際空港(以下、関空)が閉鎖され、約8000人の利用客が孤立する事態に陥った。このとき、多くの外国人観光客が「情報難民」になっていたという。

2020年には訪日外国人旅行者を4000万人まで増やすことを目標とする日本にとって、新たな課題が浮き彫りになった形だ。「週プレ外国人記者クラブ」第129回は、9月21日に首相官邸で開催された「観光戦略実行推進会議」に出席した、香港「フェニックステレビ」東京支局長・李E(リ・ミャオ)氏に話を聞いた──。

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──9月4日の関空閉鎖では、空港管理側の対応の拙さが問題となりました。

 当時、関空には約8000人の利用者がいて、その内、1044人が大陸や香港など中華圏からの観光客でした。台風による高潮の影響でタンカーが連絡橋に衝突したため、観光客たちは空港内で孤立した状況に陥ってしまいました。問題は、こうした状況の中で空港管理側からの情報提供が極めて杜撰だったことです。停電により空港内でのアナウンスもない中、多くの観光客が不安な一晩を過ごしました。

その日、私は東京にいましたが、私のミニブログに関空内で孤立している中国人観光客からのダイレクトメールが次々と届きました。ほとんどSOSのような内容です。それによると、空港内のWi−Fiの接続状況が不安定で母国の家族に連絡することもままならず、長時間に及ぶ軟禁状態で携帯端末のバッテリーも減っている。それなのに、中国語による案内や誘導などは一切行なわれなかった。中には空港内の職員に直接、説明を求めた人もいましたが、「中国語がまったく通じない」とメールで私に訴えてきました。まさに「情報難民」と言うべき状況だったのです。

関空を利用して日本に入国する中国人の数は年間150万人以上、台湾人も110万人を超えています。中国語を話す利用客がこれだけいるのに、本当に中国語がまったく通じないのでしょうか。後日、関空に問い合わせたところ「中国語を話せるスタッフが常時、1名います」という返答があり、驚きました。たったひとりで、いったい何ができるというのでしょう。

──その後、事態はどのように収束していったのですか?

 9月5日、空港側が用意した船とバスで観光客たちを空港外に出す作業が始まりましたが、その案内や誘導もなく、中国人観光客は状況を把握できないまま日本人利用者の後ろをついていくしかなかったそうです。

私はこれについても関空の広報に問い合わせましたが、「大々的にアナウンスすると、混乱を招く恐れがあったので......」という回答でした。この対応は大きな間違いだと思います。情報を遮断することのほうが混乱を招く危険性が高いからです。もちろん、空港内に閉じ込められていた利用者たちは、誰もが一刻も早く外に出たいはずですから、船やバスに我れ先にと乗ろうとするでしょう。しかし、そういった場面で混乱を生じさせないようにマネージメントするのが空港管理者の責任のはずです。

──台風21号による騒動のあと、9月30日に台風24号が和歌山県に上陸した際には、日本のメディアの多くが「21号の教訓が生きた」と報道していました。中国人観光客への対応という点で、実際はどうだったのでしょう?

 確かに、『おおさか防災ネット』のホームページには中国語で情報が掲示されました。しかし、この中国語を読んで、私は目が点になりました。ほとんど理解不能な中国語なのです。旧世代の自動翻訳ソフトで訳した文章をそのままコピペしただけのようなクオリティの低いものでした。同サイトは「機械翻訳で100%正確とは限らない」と弁明していますが、台風24号に関する情報を日本語に訳してみると、こうなります。

「台風24号の核心が20時前後、和歌山県田辺市付近で30日間上陸しました」

30日間も居座っている台風が上空にあると知ったら、日本を訪れる観光客は確実に激減するでしょう。日本で生活していると、電車に乗っても、公園を散歩していても、多言語表記のインフォメーションを至る所で目にします。しかし、関空での騒動のように本当に情報が必要となる場面では役に立っていないのが現状だと思います。中国語だけでなく英語での対応も、関空のホームページを確認すると、同じ項目の日本語表記に比べると圧倒的に情報量が少ないのです。

今回の関空での騒動、そして、その後に「強化した」と当事者たちが主張する中国語対応の不備を知った中国の人たちからは「日本人は自分たちのことしか考えていない」という声も上がっています。

──英語表記のインフォメーションで怪しいものを時々目にしますが、中国語表記でも誤訳はありますか?

 私自身もよく見かけますし、ネット上にも誤訳の画像が多数上がっています。例えば、食堂のメニュー名で「ぶっかけうどん・そば」の中国語表記が、直訳すると「顔面に噴射うどん・そば」になっていたり。私が新宿御苑を通りかかったとき、「本日は閉園しました」という看板があったのですが、中国語表記を訳すと「本日は閉園を作りました」になっていました。民間の施設なら笑って済ませることも可能かもしれませんが、新宿御苑は環境省が管理する「国民公園」という位置づけです。まだそのままなら、早急に修正すべきでしょう。

──関空での騒動を憂慮した日本政府は9月21日に「観光戦略推進会議」を開催し、そこに李さんも有識者のひとりとして参加したそうですね。

 出席した外国人は、私と、もうひとりは『新・観光立国論』(東洋経済新報社)の著者でイギリス出身のデービッド・アトキンソン氏です。私は「中国人観光客の声を代弁する」という立場で、災害時に外国人観光客が「情報難民」にならないための「非常用発電機の確保」などのインフラ整備や、外国語による情報提供の補強として「24時間対応のコールセンターの設置」など、いくつかの提案をしました。

政府が「直ちに着手する」と約束してくれたものもいくつかあり、その対応の速さには少し驚きました。政府は、中国人観光客がもたらすインバウンド効果が単に観光産業に限定されたものではなく、日本経済全体の消費・需要に大きな影響を与えていることを認識しているのでしょう。

しかし、問題の根源は現場の対応にあると思います。アトキンソン氏は新幹線で緊急事態が発生したときに英語による事態説明のアナウンスがないことを指摘していました。関空での騒動も含めて、マニュアルにはない事態が生じたとき、「混乱させたらいけない」「間違ったことを言ってはいけない」という消極的な姿勢が対応を鈍らせているのだと思います。

これは、外国語能力の問題ではないと思うのです。総務省が開発した「ボイストラ」という無料の多言語音声翻訳アプリがあり、現在は31の言語に対応していて、中国語の精度も非常に高いので、私も自分のスマホに入れています。

こんなに優れた翻訳アプリがありながら、なぜ空港や新幹線の職員たちは積極的に活用しようとしないのでしょうか。総務省ももっと積極的なPRをすべきでしょう。多くの外国人観光客が日本を訪れる2020年の東京五輪まで2年を切り、日本の「おもてなし」の真価が問われていると思います。

●李E(リ・ミャオ)
中国吉林省出身。1997年に来日し、慶應大学大学院に入学。故小島朋之教授のもとで国際関係論を学ぶ。07年にフェニックステレビの東京支局を立ち上げ支局長に就任。日本の情報、特に外交・安全保障の問題を中心に精力的な報道を続ける

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取材・文/田中茂朗

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