アメリカとの首脳会談に見る日本と韓国の差

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、文大統領の米韓首脳会談を評価する一方で、4月の日米首脳会談での菅首相の対応には「もっとしたたかに」と提言する。

(この記事は、5月31日発売の『週刊プレイボーイ24号』に掲載されたものです)

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5月21日、ワシントンで開かれた米韓首脳会談で、アメリカが文在寅(ムン・ジェイン)大統領をもてなすためにクラブケーキ(カニ料理)を出した。4月16日の日米首脳会談で菅 義偉首相に用意されたのはハンバーガーだったが、韓国側が「日本と同じメニューはやめてほしい」と希望したそうだ。日本メディアでは、これを次元の低い対抗心だと揶揄(やゆ)する反応が目についた。

しかし、大切なのは会談の中身だ。報道によると、バイデン・文両大統領のふたりだけの会談は、予定していた20分を大幅に超える37分にも及んだ。一方、バイデン大統領と菅首相のそれは予定どおりの20分で終わっている。そこには会談時間の差以上に会談内容の"質の差"も表れているのではないだろうか。

実際、韓国はなかなか巧みな対米外交を展開した。

中国を最大の競争相手と見なすアメリカは同盟国を巻き込んで対中包囲網を築きたい。当然、バイデン政権は韓国側にも同調を求めたはずだ。しかし、共同声明では「台湾海峡の平和と安定」の重要性こそ盛り込まれたものの、「中国」というフレーズは言及されなかった。

2016年、韓国はアメリカの要求に抵抗しきれず、米軍の「THAAD(サード)」(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を受け入れた。その結果、中国国内における韓流コンテンツの流布禁止、韓国系スーパーなどの営業停止など、同国から手痛い経済制裁を受けた。今回の共同声明からは隣国との不要な摩擦を避けるため、「中国」の名指しは避けたいという韓国側の意向が反映されたことが見て取れる。

そのほかにも安全保障面では長年、射程や弾頭重量などアメリカによって制限されてきた「米韓ミサイル指針」撤廃により、「ミサイル主権」を取り戻し、対北朝鮮政策でも18年の板門店(はんもんてん)宣言、シンガポール宣言の有効性を確認するなど、大きな外交成果を米側から取りつけている。

米国内に総額4兆3000億円の投資を行ない、半導体工場やバッテリー工場を建設するというお土産を差し出したが、これには韓国側にもメリットがある。譲るべきものは譲り、取るべきものを取るという独立国の名にふさわしい外交だったと評価してもよいだろう。

一方、4月の日米首脳会談の共同声明では「中国」という単語が5度も使われ、日米一体となって中国へ対抗することを内外にアピールするものになった。対中包囲網に積極的に参加してほしいアメリカ側のリクエストに、菅政権が無条件で応えた形だ。

その意味することは米中衝突に日本が巻き込まれるリスクの増大だ。声明では防衛力強化への決意も盛り込まれたが、これは米国製武器の爆買いを続ける宣言である。主権国としての主体性を放棄した日本の姿勢は、アメリカからすれば「カモネギ」状態に映るだろう。

一部の小国によく見られるような、場当たり的な二股外交をしろというのではない。日米同盟を重視し、バイデンの顔は立てる。しかし、言いなりにはならないと主張し、取るべきものはしっかり取る。そんな、したたかな対米外交が必要だ。

米中の間で難しいかじ取りを迫られる日本は、大きなパンに挟まれるハンバーガーの肉のようだ。しかし、レタス抜きのバーガーはアリでも、肉抜きのバーガーはありえない。日本にはそんな存在感を示してほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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