「社会のデジタル化」の哲学で、オードリー・タン氏にあって河野太郎大臣に欠けているもの

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、「デジタル立国ジャパン・フォーラム」での河野大臣とオードリー・タン氏の発言の違いについて解説する。

(この記事は、6月7日発売の『週刊プレイボーイ25号』に掲載されたものです)

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菅 義偉(すが・よしひで)政権の成長戦略の最大の柱「デジタル化の加速」について、河野太郎行政改革担当大臣が興味深い発言をしている。5月21日の「デジタル立国ジャパン・フォーラム」(日経新聞・日経BP共催)でのことだ。

河野大臣はスピーチで、デジタル化を通じて今後の日本が目指すべき姿を「ぬくもりを大切にする、人が人に寄り添う社会」と表現した。単純作業を人工知能やロボットに委ねることにより、子育てや介護、教育などに人的資源を投入することができ、その結果、「人が人に寄り添う社会」を実現できるという。

この主張は共感できる。デジタル化は社会を豊かにするために行なうのであり、デジタル格差などにより、一部の人が貧しくなったり、不幸になったりするのでは意味がない。

政界にはいまだスマホやパソコンを使えないダメな議員も多い。デジタル化への理解も希薄だ。そんな議員は即刻退場させて河野大臣のようにデジタル化の本当の意味を理解している世代に権力の移行を進めるべきだ。

ただし、社会をデジタル化するには前提条件があり、日本はその点が著しく欠けていると言わざるをえない。それは、同じフォーラムで台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏が言及した「政府に対する国民の信頼なしには、デジタル化はできない」という指摘である。

デジタル化には政府などの公共機関と国民の協力が必要となる。例えば、マイナンバーを活用した行政手続きサービスのワンストップ化(窓口の一本化)にマイナンバーカードを使おうとしても、政府が個人情報を悪用して統制を強めるのではと心配する国民が多ければ、普及は進まない。だからこそ、政府は国民の信頼を得るために「あらゆる情報を公開して透明性を高める必要がある」(タン氏)のだ。

タン氏は「台湾政府はその努力をしてきた」とも語った。

翻って日本はどうだろうか? 国民の個人情報を集めることに政府は熱心だが、その一方で政府に都合の悪い情報は決して公表しない。モリカケ問題、自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)騒動、桜を見る会など、隠蔽、廃棄、改竄(かいざん)の例が溢(あふ)れている。これでは政府が必死にデジタル化の音頭を取っても国民は協力などしないだろう。政府への信頼なくしてデジタル化は成功しないのだ。

河野大臣の説明にこの最も重要なポイントが入っていなかったのは、政府のデジタル化が失敗することを予感させるようで残念なことだ。

政府に情報公開を促すにはどうすればよいのだろうか? 森友学園問題で公文書改竄を強いられたことを苦に自死した元近畿財務局職員・赤木俊夫さんが改竄の過程をまとめた文書などの資料「赤木ファイル」が、6月23日にようやく公開されることになった。

長きにわたって財務省に提出を求めてきた妻・雅子さんは、私へのメールに「みなさんの力があったからこそ」、この公開に至ったとつづっていた。ここでいう"みなさんの力"とは、「世論」のことだ。

この言葉は民主主義のシンプルな原則を思い出させてくれる。それは、情報公開を政府に促すには、有権者がプレッシャーをかけ続けるのが最も有効、ということだ。そして、その先にある"人が人に寄り添う"デジタル社会の実現も、やはり有権者次第なのである。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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