東芝の外国株主への圧力に全面協力した経産省がまったく謝ろうとしないワケ

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、外国投資ファンドに圧力をかけ、株主総会で役員人事の提案を撤回させた東芝と経済産業省との関係性について解説する。

(この記事は、6月28日発売の『週刊プレイボーイ28号』に掲載されたものです)

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2020年7月、東芝は経済産業省と一体で筆頭株主の外国投資ファンドに圧力をかけ、株主総会で役員人事を提案することを撤回させた。原発やミサイル関連技術を持つ東芝への外資の関与を排除しようとしたのだ。

その際、経産省が使ったのが、同年5月に成立した改正外為法だった。安全保障上重要な日本企業を外資の買収などから守るために、外国人投資家が株式を取得する際の事前審査を強化するものだ。今年6月10日に発表された調査報告書によると、東芝から本件の相談を受けた経産省は投資ファンドに対し、外為法の権限発動を仄(ほの)めかして人事案の撤回を迫ったという。

振り返ると、経産省はたびたび東芝を"甘やかして"きた。

例えば、東芝が会計不正で上場廃止の危機に陥ったとき、東京証券取引所にそれを止めるように働きかけたのは同省だった。また、同社が破綻(はたん)寸前になったとき、産業革新機構や政策投資銀行の資金支援で救ったのも経産省だし、17年8月に東証2部に降格した同社が、今年1月に東証1部に復帰した裏にも経産省の暗躍があった。

2部降格となった企業は経営に問題がないと評価される決算書を5年分提出しなければ復帰できない。だが、経産省は金融庁に働きかけて、5年ルールを2年に短縮させ、東芝は直近2年分の決算書提出で1部復帰を果たしたのだ。

なぜ両者はここまでべったりなのか。理由のひとつが天下りだ。最近も加計学園事件で問題になった経産出身の柳瀬唯夫元安倍首相秘書官が東芝の関連会社に天下りしていた。

また、東芝は経済団体を通じて政界に強い影響力を持つ。経産省の進めたい産業政策を政府・与党に説得する役目などを長年引き受けてきた。そんな特異な関係が運命共同体意識となり、経産省・東芝の一体化をもたらしたのだ。

今回のようなめちゃくちゃな事件を起こす経産官僚とはいったい何者なのか? まず、彼らは、「俺たちは一番賢い」と思い込むDNAを持っている。そして、「日本の産業界を仕切るのは俺たちだ」というDNAも脈々と引き継がれてきた。その派生DNA「外資嫌い」もある。"一番賢いわれわれの仕切りに逆らう"外資は大嫌いなのだ。

これらのDNAを増幅させたのが、冒頭に紹介した改正外為法だ。軍事転用できる技術の流出を防止したり、重要な産業を外資から守るなど国家の安全を経済面から保障しようとする「経済安全保障」は、経済のグローバル化や中国の台頭などでその重要度が高まり、日本でも昨年4月、国家安全保障局に「経済班」が設置された。改正外為法もその流れを受けている。

経産省は近年、仕事がなくなり失業官庁になりつつあった。経産官僚から見れば、改正外為法上の規制権限が強化されたことは失業対策として大歓迎だ。だが、それ以上にうれしいのは、単なる産業政策ではなく国の命運を左右する国家安全保障に関われること。彼らのDNAは大いに刺激され、高揚感が高まった。東芝が早々に陳謝したのに、梶山弘志経産相に「担当官庁として当然のことをしただけ」と言わせたのもそれを表す。

今回のような国と企業一体の株主への介入がまかり通れば、日本への信頼は地に堕ち、日本企業への海外からの投資に水を差す。再発防止のためには、改正外為法の規制権限を経産省から切り離すなどの対策が必要だ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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