コロナ後の経済成長の鍵を握る「デジタル」と「グリーン」で日本が直面する"残酷な現実"

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、世界の成長の波に乗り遅れてしまった日本を半導体やグリーン戦略を例に指摘する。

(この記事は、8月16日発売の『週刊プレイボーイ35号』に掲載されたものです)

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8月8日の菅義偉首相は、東京五輪は"無事"閉会した、とご満悦だっただろう。コロナの感染爆発で医療崩壊が起きているが、やがてピークを過ぎれば、感染拡大が収まった地域から順にGo To事業を再開、富裕層を中心に消費は拡大し、景気は急速に良くなり、支持率も回復。そして、選挙に勝てる......と先の展望を描いているのかもしれない。

しかし、それは楽観的な思い込みにすぎない。万が一、そのもくろみがうまくいったとしても、景気拡大は一時的で、すぐにその効果は剥げ落ちるだろう。なぜなら、日本は世界の成長の波に完全に乗り遅れてしまったからだ。

半導体を例に取ろう。世界で急速に進むデジタル化により、半導体の市場は2030年には100兆円規模へと倍増する。あらゆる分野でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進み、需要が爆発的に伸びるのだ。

半導体といえば、日系企業は1992年に世界シェアトップ10に6社がランクインしたが、今では唯一ベスト10にいるキオクシア(旧東芝メモリ)もベスト10の圏外に脱落しつつある。日本国内に巨大な半導体工場ができないため、高い競争力を維持する日系の半導体素材・部品企業も次々と海外の主要な生産拠点に進出している。

そこで、経産省は世界最大手の半導体メーカー「TSMC」(台湾)を日本に誘致しようとしたが、結果は半導体工場ではなく、重要度がはるかに落ちる「後工程」の研究開発拠点の新設計画だけ。投資規模も本体工場の2桁ほど小さい。雇用創出効果は小さく、TSMCに日本の技術を吸収されて終わりだろう。日本の素材・部品企業の空洞化を止めることはできない。

一方、政府は経産省主導で「半導体・デジタル産業戦略」を策定。「日の丸半導体」再興に乗り出したが、欧米に比べ規模も内容も大きく見劣りする。同省主導の「日の丸半導体」事業は、「エルピーダメモリ」破綻や「ルネサスエレクトロニクス」の赤字継続など、死屍累々。今回も同じ失敗になりそうだ。

次に、グリーン戦略でも日本は出遅れた。実は、そのために自動車産業が危機に陥っている。

世界中で急速に進むEV(電気自動車)化の波に乗り遅れた日本では、EV生産がほぼゼロ。そこで、EVの最重要部品であるバッテリーやアクスル(モーターとその制御装置が一体化したEV用部品)の日系メーカーが海外シフトを始めたのだ。

日本政府も30年代半ばまでのガソリン車販売禁止を打ち出したが、その目標は欧米に比べて控えめで、具体的な工程表はなく、支援策も小粒だ。つまり、政策なき抽象的目標にすぎない。これでは日本でEV工場に巨額投資する自動車メーカーも現れず、バッテリーやアクスルの海外生産に傾く日系自動車部品企業を国内にとどめることも難しい。

エネルギー分野も同じだ。政府は「再生可能エネルギーを成長の牽引(けんいん)車にする」と言うが、電源構成20〜22%を原発で賄う姿勢を変えないので、再エネへの投資は進まない。脱炭素の取り組みが遅れている国の企業の製品に炭素税のような関税をかけるEUの政策も日本の競争力に打撃となる。

五輪後に蔓延(まんえん)するコロナさえ終わればという幻想。コロナ後に待つ本物の危機に気づいたときには手遅れとなるのが心配だ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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