岸田首相が「IT人材育成に3年で4000億円の投資」を宣言。でも、全然足りない!

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、岸田首相が打ち出した経済対策「人への投資の積極化」について解説する。

(この記事は、12月13日発売の『週刊プレイボーイ52号』に掲載されたものです)

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今月6日にスタートした臨時国会。岸田文雄首相は所信表明で総額55.7兆円に上る経済対策のひとつとして「人への投資の積極化」を打ち出した。

首相は「付加価値を創出し、経済的豊かさや力強さをもたらす原動力は人」と述べ、3年間で4000億円を人材投資に振り分けることを表明。11月の会見ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展を念頭に、主に働く人たちがデジタル関連の新しいスキルを習得するために投じたいと話していた。

方向性は良いと思う。世界はデジタル競争の時代に突入した。日本社会全体の生産性を上昇させ、労働者も高い賃金を得られるようにするため、ITを中心にした人材育成は必須だ。

だが、その額は心もとない。3年間で4000億円は、1年当たり約1300億円。高度IT人材に限ったものではないが、ドイツ政府は2008年から12年に人材育成のため60億ユーロ(約7400億円)を投じた。

こちらも1年当たり約1500億円でそれほど多くはないが、人口比で見れば日本の約1.8倍。しかも、ドイツの人材育成への投資は08年より10年近くも前から継続的に行なわれている。

また、金額だけでなく、岸田首相の言う人材への投資の中身も目新しいものは見えてこない。

DXにおいて先進国の中でも著しく立ち遅れた日本が、IT先進国に本気でキャッチアップするなら、1000万人単位での学び直しが必要だ。そのためにもうひと桁上の思い切った投資、例えば、"10年間で10兆円"くらいはぶち上げてほしかった。

岸田政権は農業、製造、サービスなど、人手不足が深刻な14業種に従事する「特定技能」の外国人労働者の在留期限をなくす方向で調整を始めている。

3年4000億円の高スキル・高賃金労働者の育成策は、従来の延長線上にあるが、こちらは低賃金労働者を増やすために移民政策を大転換することになる。並々ならぬ意欲だ。これでは、政府がどちらを向いて政策を進めているのかよくわからない。

一方で"デジタル人材の脱国籍化"が進んでいる。少しでも有能な技術者を確保しようと、グローバルなIT企業は国境を超えた採用活動を展開している。雇用される側も海外に拠点を移して現地勤務をしたり、逆に自国にいながらネットを駆使して海外の業務をこなしたりと、働き方も多様化している。

そうなると今後、日本人IT技術者の間でも脱国籍化が当たり前の選択肢になる。

人材育成への投資額が少ないということは高レベルのIT人材が増えないということだ。多くの企業において、優秀なIT人材を採用しにくければ、高レベルのプロジェクトを請け負えない。請け負う業務のペイは低く、労働者の賃金も安いままだ。そうなれば、外国人はもちろん日本人IT技術者からも、日本は「選ばれない国」になる。

政府が育成に力を入れるから優秀な技術者が多く生まれる。高いスキルの働き手がいるから企業の国際競争力が増す。付加価値の高い仕事を受注できる企業がいるから収益が上がり、賃金も上がる。そして、その税収で政府がさらに育成投資を強化できる――この好循環を実現しないと日本の未来は真っ暗だ。

残された時間は少ない。岸田首相自らが、この国のIT力を飛躍的に向上させるために命をかける覚悟を見せてほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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