風力発電のビッグビジネスを台無しにする経産省の愚

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、洋上風力発電の事業者を公募するルールを見直した、経産省の浅はかさを解説する。

(この記事は、7月25日発売の『週刊プレイボーイ32号』に掲載されたものです。また、同記事は6月16日付の日本経済新聞の記事「欧州大手、洋上風車の工場建設中止」を参照しましたが、日経新聞19日付で同記事の「建設中止」を「建設保留」などと訂正。それに合わせてこの記事も一部修正を加えました)

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一貫性のないルール変更だ。これでは日本の洋上風力発電のビジネスは弱くなる。

洋上風力発電の有力外資メーカー2社が相次いで日本での事業計画を保留にした(7月19日付、日本経済新聞)。べスタス(デンマーク)は日本での営業は続けるものの、予定していた長崎での風車工場建設を白紙化、シーメンスガメサ(スペイン)も日本への供給を見送るという。

世界のトップを走る2社が日本でのビジネス縮小を決めた背景には、洋上風力発電の事業者を公募するルールを経産省が見直したことが影響していると見られている。

いま世界は再エネ主力電源化の切り札として、太陽光とともに風力発電に力を注いでいる。東アジアでも2022〜31年までに台湾1407万kW、韓国745万kW、ベトナム691万kW、日本578万kWの導入計画があり、各国とも自国に「洋上風力産業」を育成しようと必死だ。風力発電ユニットは機器や部品点数が数万点と多く、エネルギー自給率の向上だけでなく、関連産業への経済波及効果を期待できるためだ。

洋上風力の開発規模は年々大きくなっている。開発規模が大きいほど発電コストが下がり、収益性も高まるためだ。この7月に事業者が決まったイギリスでは1海域当たりの開発規模が大きいものだと約285万kWにもなったという。

ところが、経産省はその流れに逆らい、開発権益の上限を100万kWに規制する方針を打ち出した。これでは、世界最大級の風車開発でコストを削減し、競争力を高めているベスタス、シーメンスが日本市場参入の意欲を失うのは当然だろう。

ベスタスは、大規模プロジェクトを受注することを前提にして工場を建設することを計画していた。大型プロジェクトがなくなるのであれば、日本でのビジネスで利益を出すことがより難しくなる。

そう考えると、いかに今回の経産省のルール改正が世界の風力ビジネスの常識から逸脱したものかがわかるだろう。

ルール変更の理由を経産省は「より多くの日本企業の参入機会を担保するため」としている。開発規模が大きいと資金力のある外資が有利となり、国内の中堅企業などが入札に参加できない。そのような事態を防ぐためだというのだ。おそらく、外資を排除したい一部財界や風力普及で打撃を受けかねない原発推進派のロビイングがあり、それに自民党の保守派などが呼応して今回の変更になったのだろう。

だが、このルール変更はあまりに愚かすぎる。19年に日立が撤退表明して以来、風力発電ユニットを製造する国内企業はゼロになってしまった。つまり、現状では日本の風力ビジネスの競争力はゼロに等しいのだ。

そこでベスタスやシーメンスを国内に誘致し、風力ビジネスを再興させようというのが20年代に入ってからの経産省の戦略だったはずだ。数万点に及ぶ部品や素材の60%を国産化する目標を打ち出し、世界に林立する風力発電ユニットは外資製品でも、その中身はメイド・イン・ジャパンで占めようという下請け大国日本の強みを生かす合理的なプランだった。

部品点数の少ないEV普及で、将来的に売り上げ減が見込まれる国内4400社の自動車部品メーカーにとっても、風力ビジネスは魅力ある新マーケットになる可能性があり、EV化に二の足を踏む自動車メーカーの背中を押すことにもなる。

日本復活につながる将来の夢を潰す経産省の浅はかなルール改正。直ちに見直してもらいたい。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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