中国新型空母「福建」vs自衛隊、超リアルシミュレーション!

003型空母「福建」。今年6月17日に上海の造船所から進水。満載排水量約8万トンで、米空母以外では世界初の電磁カタパルトを搭載。海上で各種試験を行ない、2024年頃に就役する見込み

初の国産空母の就役からわずか3年で、中国海軍が進水させた新型空母「福建(ふっけん)」。訓練や運用試験はこれからだが、サイズや機能は米空母に近い"ガチ空母"と言っていいものだ。

台湾統一の野望を隠さず、さらに沖縄近海でも活動を活発化させている中国の新たな切り札に、自衛隊は対処できるのだろうか?

■50年計画の重要なポイント

中国の新型空母「福建」の進水式が6月17日、上海で行なわれた。

中国海軍にとって3隻目(純国産としては2隻目)の空母となる「福建」は全長315m、全幅76m、満載排水量約8万トンの巨艦。中国共産党政権が「統一」を目指す台湾の対岸に位置する福建省にちなみ、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が自ら命名する力の入れようだ。

動力こそ原子力ではなく通常型だが、注目すべきは世界でも米海軍のフォード級空母にしかないリニアモーター使用の電磁式カタパルトを装備していること。これにより、従来のスキージャンプ式空母と比べ、より重い艦載機を素早く効率的に発艦させることができる。

遼寧で運用実績がある艦載戦闘機J−15の電磁カタパルト対応型、J−15Tが「福建」に搭載される見込み

元航空自衛隊空将補で、那覇(なは)基地302飛行隊隊長を務めた杉山政樹氏が解説する。

「1997年に発表された中国の海軍発展戦略の中で、当時の海軍司令官・石雲生(せき・うんせい)氏は『50年後にアメリカと肩を並べる』計画を詳述しています。

2000年までに沿海防御、2010年までに『第1列島線』までの東シナ海を掌握、2020年までに『第2列島線』まで進出し、そして2030〜40年にハワイまでの海域でアメリカと互角に太平洋を奪い合う。この計画のカギとなるのが空母です」

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中国は1980年代から90年代にかけてオーストラリア、ロシア、ウクライナから退役した(もしくは未完成の)空母の船体を購入し、その技術を研究。ウクライナからスクラップとして購入したワリヤーグを再建した中国海軍初の空母「遼寧(りょうねい)」を2012年に、純国産空母「山東(さんとう)」を19年に就役させ、第1列島線までの海域を事実上掌握した。

近年は「遼寧」艦隊が日本の宮古(みやこ)海峡を抜け、西太平洋の入り口で発着艦などの演習を行なっている。

001型空母「遼寧」。2012年就役。満載排水量約6万トン。すでに艦隊を伴って日本の宮古海峡を通過し、西太平洋で発着艦などの訓練を行なう能力を獲得

002型空母「山東」。2019年就役。満載排水量約6万トン。遼寧の改良型で初の純国産空母。南シナ海をベースに活動しており、今年3月には台湾海峡を通過した

そして、今回満を持して進水した「福建」は、軽空母に近かった前の2隻からサイズップし、電磁式カタパルトも搭載した初の"ガチ空母"だ。「福建」が各種試験を終えて2024年頃に就役すると、中国の空母は作戦・訓練・メンテナンスのローテーションが組める3隻体制となり、1隻は常に作戦行動に出られることになる。

「『福建』は尖閣(せんかく)諸島がどうこうというスケールではなく、西太平洋の第2列島線までの日本の排他的経済水域(EEZ)を確実に脅かす存在となります」

■東京大空襲と同じコースで威嚇

公表されているスペックや各種情報から推定すると、「福建」の艦載機の陣容は戦闘機が計3個飛行隊(ステルス戦闘機FC−31が13機、戦闘攻撃機J−15Tが26機)、電子作戦機J−15Dが3、4機、早期警戒機KJ−600が3機といったところ。中国海軍の空母を何度も現地で撮影した経験のあるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏が解説する。

「電磁カタパルト式の『福建』なら、J−15Tは射程120qのYJ−91超音速空対艦ミサイル2発をはじめ、各種ミサイルや燃料をフル搭載して発艦できる。一方、FC−31はステルス性能を生かして空に潜み、アウトレンジ(相手の防空網の外側)から攻撃を行なうミサイルキャリアーとしての役割を担います。

さらに、新たな脅威となるのが電子戦を専門とする最新鋭機J−15D。敵のレーダーをジャミング(妨害)し、対レーダーミサイルを撃ち込めます。これらの航空機を、KJ−600が空中で指揮統制するという陣容です。

ちなみに、米空母はカタパルト4基を運用し、57機の艦載機を20分以内に発艦させることができます。カタパルトが3基の『福建』はもう少し時間がかかると思われますが、それでも訓練を重ねればかなり迅速な発着艦が可能になるでしょう」

ステルス戦闘機FC−31(13機)。米軍のステルス機F‐35Aの情報を盗んで開発されたといわれ、艦載型が昨年初飛行。無人機の母機になる可能性も?

戦闘攻撃機J−15T(26機)&電子作戦機J−15D(3、4機)。「T」は第4.5世代多用途戦闘攻撃機。その電子戦型で、敵レーダーを無力化できる「D」は空自にとって大きな脅威だ

では、この「福建」を中国はどう使うのか?

まずは平時のケース。「遼寧」はすでに日本の南西諸島周辺を動き回っているが、本格空母の「福建」はどこまで進出してくるのか。

海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長や第2潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏はこう語る。

「すでに中国海軍は恒常的に第1列島線を抜けて太平洋に進出しているわけですから、『福建』は護衛艦隊を伴い、第2列島線上の硫黄島の横辺りに常にいて、艦載機をバンバン飛ばして訓練を行なうようなプレゼンスの見せつけ方をしてくるでしょうね。ここから北に向けて発艦すれば、第2次世界大戦での米軍による東京大空襲の飛行コースと同じです。

しかし、もちろん日本としては、中国にそこまで自由にされては困ります。領空侵犯をさせないように、本州の空自基地からは空自戦闘機がスクランブルで飛んで対応し、海自は護衛艦『いずも』を本州と『福建』艦隊の間に出す。空自機にトラブルがあったときに背中を貸す(緊急着陸や救助を行なう)ためです」

東京から南にわずか数百qの空海域が、自衛隊と中国軍のにらみ合いの最前線になるということだ。

■戦闘機編隊に紛れ込む電子作戦機の役割

一方、有事の際に「福建」率いる空母艦隊と自衛隊が正面から戦ったらどうなる? 

例えば、「福建」が沖縄の南海上の西太平洋上に陣取り、そこから飛来する艦載機群に空自がスクランブルで対応するケース。やっかいなのは、同時に尖閣諸島周辺にも中国本土から戦闘機編隊が飛来すると、空自は南(福建)と西(尖閣)との二正面作戦を強いられることだ。

「尖閣では、空自は中国戦闘機に対し、常に多数で対処するスクランブルをしています。しかし、そこに南の空母からも来たら、沖縄・那覇基地の陣容だけでは足りない。宮崎・新田原(にゅうたばる)基地からもF−15飛行隊を上げて対応することになります。

しかも、福建から発艦するJ−15T編隊の中には、J−15D電子作戦機が『何機いるかわからない』という形で紛れ込んでくる可能性があります。空戦の最初に空自戦闘機のレーダーを潰(つぶ)すためです。空自は十分に対処できる電子作戦機を持っていませんから、これをやられるとお手上げです。

しかも、その背後にはステルス戦闘機FC−31も潜んでいる。第1列島線上で二正面作戦を空自に強いながらさまざまな陽動を仕掛けることができるという意味で、中国はものすごく強力なカードを持ったことになります」(前出・杉山氏)

では、「福建」の艦隊と、海自のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」率いる艦隊が激突した場合は?

「福建」を護衛する空母艦隊の陣容は、055型駆逐艦(1隻)、052D型駆逐艦(3隻)、054A型フリゲート(6隻)と予想される。10隻で合計900基のミサイル発射基を有しているが、前出の伊藤氏はこう言う。

「『福建』が従来型の空母艦隊的な戦い方をしてくるなら、そこまで怖くはありません。海自の装備や能力は米軍に準じるもので、米軍との訓練も重ねてきた。アメリカの能力は中国よりずっと上です。

中国の対艦ミサイルは海自のイージス艦なら迎撃できるでしょうし、逆に海自が発射する対艦ミサイルは当たる可能性は高い。射程内まで肉薄した状態なら、海自が中国艦を撃沈することも可能だと思います」

052D型駆逐艦(3隻)。対空ミサイルシステムを搭載し、艦隊の防空を担う通称W中華イージスW。近年、猛烈な勢いで艦数を増やしている

054A型フリゲート(6隻)。1番艦が2008年に就役して以来、30隻以上が建造されている中国海軍の主力フリゲート。形状はステルス性を考慮■ステルス機と無人機のハイブリッド編隊

ただし、伊藤氏はさらにこう続ける。

「それよりも怖いのは、例えばミサイル発射基から小型の無人機が飛び出してくるといった、従来型の戦術にないことを中国がやってくるケースです。これは日米が想定していない事態で、現時点では対処法がわかりませんから、不気味ですね」

この懸念は空戦に関しても同じだという。前出の杉山氏はこう指摘する。

「『福建』に搭載される最新鋭のステルス戦闘機FC−31は戦域全体のネットワークをコントロールしていく能力があるので、無人機の母機として使うことも可能です。

例えば、福建艦隊に空母『山東』を随伴させ、そこから無人機52機を発艦させて、13機のFC−31にそれぞれ4機ずつの無人機をコントロールさせれば、ステルス戦闘機と無人機による計65機の大編隊が出来上がります。

しかも、世界最高の無人機技術を持つ中国は、その無人機からさらに小さな自爆型無人機を発射して巡航ミサイルのように使うといった戦術も考えているでしょう。従来のレーダーでは対処できない大量のステルス性飛行物体の来襲への対応策は、空自がこれから考えなければならない大きな宿題です」

こうした事態を考えると、やはり自衛隊としては「福建」そのものをなんとかして撃沈するしかないが、それも決して簡単ではない。

「中国空母艦隊の基本的な防空能力は出来上がっているので、空から仕留めるなら正面から行っても無理です。また、仮に将来、海自『いずも』を改修してステルス戦闘機F−35Bを搭載できる"軽空母"になったとしても、電磁カタパルトから発艦するフル兵装のJ−15Tと、FC−31を母機とする無人機編隊の戦力にはかなわず、ぶつかり合っても勝てません。

ですから、『福建』を沈めるには射程の長い空対艦ミサイルを撃ち込むか、あるいは艦隊の防空体制のどこかに穴をあけて、そこに集中して何かを仕掛ける必要があります」(杉山氏)

空自機がアウトレンジから攻撃するために「福建」の位置を正確に把握したり、艦隊の防空担当艦を仕留めたりする切り札となるのが、海自潜水艦だ。

「軍事的な観点からすれば、機動力のある原子力潜水艦で中国空母艦隊を『迎えに行く』、つまり先手で仕留める戦力を保有することが必要だと私は考えます。海自の現有戦力である通常型潜水艦の場合は、チョークポイント(航路上の要衝)で待ち受け、中国空母艦隊が通過する際に仕留める形になります。

中国艦隊は、静音性の高い海自潜水艦を見つけることはできません。艦隊がそこを通ったら、護衛する艦艇をかいくぐり、空母を直接狙い魚雷で仕留めます。8万トンの『福建』が相手ですから、魚雷4発による集中攻撃が必要でしょう」(前出・伊藤氏)

最後の切り札、潜水艦に関してはまだ日本側の優位がある。しかし、「福建」やいずれ開発されるであろう原子力動力型の空母が、無人機を搭載して太平洋を好き放題に動き回る未来は、日本にとってかつてなく厳しいものになりそうだ。

取材・文/小峯隆生 撮影/柿谷哲也 写真/Getty Images 時事通信社

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