EV化で失われる雇用をどうするのか、への答え。「リスキリング」に力を入れよ!

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、日本国内でもGX(グリーン・トランスフォーメーション)が進めば、自動車産業や石油産業などから多くの雇用が失われるため、予算や人員を抜本的に強化することを提案する。

(この記事は、8月1日発売の『週刊プレイボーイ33号』に掲載されたものです)

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ILO(国際労働機関)によれば、世界的なカーボンニュートラルへの移行で、石油や石炭などを利用した化石燃料ビジネスから約600万人もの雇用が失われるという。

そこで欧米などで注目されているのが「リスキリング」(学び直し)への取り組みだ。リスキリングとはデジタル化やIT化などの進展により発生する新しい課題や業務に対応するスキルを働きながら身につけるため人材の再教育や再開発を行なうこと。

働きながら≠ェポイントで、休職して個人の自己啓発やスキルアップを目指す従来の「リカレント教育」とは異なる。

欧州ではこのリスキリングをDXだけでなく、GX(グリーン・トランスフォーメーション。企業の化石燃料の使用を、再生可能エネルギーや脱炭素ガスに転換させ社会経済を変革すること)にも活用しようとしている。

脱炭素化によって化石燃料産業から生じる大量の失業者を、雇用増の見込まれる再エネ関連ビジネスへ労働転換させようと官民が動いているのだ。

その典型が2021年にイギリス政府と北海油田の石油ガス産業が結んだ「北海移行協定」だ。今後10年間にイギリスでは石油ガスの雇用が5万人減るが、洋上風力は7万人の雇用が増えると予測されている。

そこで両者は石油採掘プラントの技術者らに再エネのスキルを身につけさせるリスキリング事業をスタート。産業間の労働移動をたやすくするため、24年までに石油ガスと洋上風力の技能資格の共通化も行なうという。

EUはすでに化石エネルギー産業からグリーンビジネスへの労働移動のため、175億ユーロ(約2兆4000億円)もの資金を基金として積んでおり、こうした官民一体となったリスキリングの取り組みはすでに多くの国で始まっている。

日本国内でもGXが進めば、自動車産業や石油産業などから多くの雇用が失われる。特に裾野が広い自動車産業の受ける影響は深刻で、部品産業を中心に70万から100万人の雇用が消えるという予測もあるほどだ。

実は、日本でもリスキリングの取り組みは始まっている。経産省と厚労省がタッグを組んでスタートさせた「リスキル講座」(第四次産業革命スキル習得講座認定制度・全114講座)だ。

しかし、これは主にDX人材の開発を念頭に置き、受講費用の50%(上限40万円)を6ヵ月ごとに支給する制度で、欧州の取り組みに比べてもあまりにも小粒だ。しかも、目的は単なる人材育成にすぎない。

そこで、これをDXに伴う大々的な産業構造転換の一環にするために、大規模な労働移動を目的とする制度に衣替えし、予算や人員を抜本的に強化することを提案したい。

例えば、今後の急成長が見込まれる洋上風力発電は部品点数が2万点以上と多い。自動車部品メーカーが参入すれば大きな雇用が生まれる。これを政府が手厚いリスキリングの仕組みで支援することが考えられる。

今、日本のEV市場は、韓国のヒョンデや中国のBYDがEVで参入を発表し、三菱、日産が今夏に投入した軽EVがヒットするなど、一気に活気づいている。リスキリングの支援があれば、自動車メーカーは思い切ってEV化に舵(かじ)を切れる。

日本の自動車産業の国際競争力維持と脱炭素化の推進を後押しするため、リスキリング制度を抜本的に強化すべきだ。

●古賀茂明 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著『官邸の暴走』(角川新書)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。古賀茂明『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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