"右派ビジネス"に熱狂するのは「普通の善良な人々」

"右派ビジネス"に熱狂するのは「普通の善良な人々」

「ポピュリストたちはあなたを一時的に気持ちよくしてくれることはあっても、結局のところ問題を解決してくれることはない」と語るモーリー氏


『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、「普通の善良な人々」が"右派ビジネス"に熱狂する現象について語る。

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少し前の話になりますが、ニューズウィーク日本版の『特集・百田尚樹現象』が話題となりました。

〈日本のリベラル派にとって、最も「不可視」な存在のひとつが「百田尚樹」とその読者である〉という一文から始まるライター・石戸諭(さとる)さんの論考は、百田氏や彼の周りのメディア関係者、そして彼の読者らの思考を理解し、「現象」を可視化しようとするものです(この特集は現在、ウェブでも公開されています)。

百田現象を支えているのが「ごく普通の人々」であるとの論旨に違和感を覚えた方もいるようです。しかし、僕の意見を言わせてもらえれば、百田氏をはじめとする"右派ビジネス"に熱狂するのは至って普通、かつ善良な人々だと感じます。

戦後、長らく日本社会(とりわけメディア)のメインストリームは「愛国心」に触れないよう腐心してきました。メディアもさまざまな批判を見越し、ある意味でインスタントに保守的な言論を封じ込めたため、昭和の時代において愛国心が遠慮なく発露されたのはスポーツの国際大会くらいのもの。

その"ウルトラ・コンプラ状態"に窮屈さを感じた一部の人たちは、不満をマグマのようにため込んでいったのだと思います。

その後、1990年代のインターネット黎明(れいめい)期に入ると、ごく一部の"先進的な選ばれし者"だけが集うネット空間では、公に言ってはいけない悪態をつくことが「クールである」と見なされるようになります。そのクールさは、実に右翼的・排外的で、かつアンチ・エスタブリッシュメント(反権威主義)的でした。

個人個人が持つ不満はバラバラでも、社会に対するなんらかのルサンチマンを共有し、閉じた世界で互いに共鳴し合う。その主たる敵のひとつが、日本の言論界をリードする朝日新聞でした。

やがてそのムーブメントは小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言』のヒットなど目に見える形で表れ始め、2000年頃には『2ちゃんねる』で極右エクスプロージョンが起きたのです。

ただ、当時の盛り上がりと、現在の百田現象は似て非なるものです。当時は秩序を壊すことがクールなんだというパンキッシュな精神が根底にありましたが、今はもっとテレビ的・ワイドショー的――つまり、大衆寄りです。だからこそ「普通の人々」が熱を上げるのでしょう。

善良な人が"ゼロイチ"で極論に振り切れるという現象は、福島原発事故の後に「命が危ない!」と東電をひたすら攻撃したムーブメントとも通じる部分があります。

自分が"敵認定"した組織や人を、複雑な背景や事情をすっ飛ばし、悪気なく、徹底的に叩く。アジテーターが示した"突破口"に多くの人がなだれ込み、気づけばかなり極端な意見も支持されるようになっていく......。

現在の社会問題のほとんどは、さまざまな利害が絡んでおり、簡単に解決できるものではありません。しかし、世界が不安定化するなかで、左右両極のポピュリストたちは人々の虚を突いてアジる。

「善良な人々」がその魔力から逃れるには、まず"自分にとって心地いい声"を疑う習慣をつけることしかありません。ポピュリストたちはあなたを一時的に気持ちよくしてくれることはあっても、結局のところ問題を解決してくれることはないのですから。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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