市長自ら"数字のトリック"を使って市民を印象操作する、横浜市カジノ誘致の悪質すぎる手口

市長自ら"数字のトリック"を使って市民を印象操作する、横浜市カジノ誘致の悪質すぎる手口

市民向け説明会の資料で示された山下ふ頭でのIRのコンセプトイメージ図

大本命の横浜市がなりふり構わず強引な手口でカジノ誘致を進めようとしている。

現職の国会議員による汚職事件という逆風もどこ吹く風、市民向けの説明会では、どう考えても恣意的で印象操作としか言えないデータのオンパレードでIRの必要性を訴えているが、さすがに無理ありすぎだよ!

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■市民の声を聞いて決めるはウソだった?

昨年12月25日、自民党所属でIR(カジノを含む統合型リゾート)担当の内閣府副大臣を務めていた秋元 司(あきもと・つかさ)衆議院議員が、カジノ事業参入を目指す中国企業からの収賄容疑で逮捕されて以来、暗雲が立ち込めているIR導入。

この疑惑をめぐっては、贈賄側の中国企業が、秋元氏以外にも自民と日本維新の会に所属する5人の国会議員に現金を渡していたと証言。すでに維新の下地幹郎(しもじ・みきお)議員(1月8日除名)が100万円の現金授領を認めている。

安倍政権が「成長戦略のひとつ」として強力に推進するIR導入だが、その裏側に渦巻く「カジノ利権」の実態が早くも露呈した格好だ。

そして、この事件も影響したのか、昨年11月末にIR誘致レースからの撤退を決めた北海道に続いて、1月7日には千葉市の熊谷俊人(くまがい・としひと)市長も誘致の見送りを表明。

1月20日に召集された通常国会では、野党4党が共同で「カジノ廃止法案」を提出し、秋元氏らの疑惑に関しても、国会で追及する構えを見せるなど、IR推進派に対する逆風は一気に強まっているように見える。

しかし、そんな逆風などどこ吹く風で、IR誘致に向けて一直線に突き進むのが、現在、大阪府・大阪市と共に「大本命」と目されている神奈川県横浜市だ。

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昨年8月、横浜市の林 文子(はやし・ふみこ)市長は、それまで「白紙」としていた姿勢から一転、IRの誘致を積極的に進める方針を発表。しかし、それは市民の声を半ば無視する形で行なわれたものだった。

なぜなら一昨年の春、市が実施した「横浜市中期4か年計画2018〜2020」(素案)へのパブリックコメント(意見募集)では、最も多かったIRに関する意見のうち、94%がIRに否定的だったからだ。

当然、林市長の発表に対して、市民からは「IR誘致は白紙。その是非は市民の皆さまの声を聞いて決める」と語っていた言葉はウソだったのか?との批判が噴出。

その横浜では今、市長のリコール(解職請求)やIR誘致の是非を問う住民投票条例の制定を提案する署名運動の動きが本格化するなど、市民によるカジノ反対運動が起きている。また朝日新聞の横浜市民を対象にした世論調査(昨年9月実施)でも、IR誘致の反対は64%で賛成の26%を大きく上回っている。

ところが、肝心の林市長は、こうした声にも動じることはない。昨年末から開始した横浜市の全18区を市長自ら回る市民説明会の場では、「私が市民の皆さまに丁寧にご説明することで、必ずやご理解をいただけると信じています」と繰り返す。

「問題なのは、市長が説明するIR誘致に関する資料の中身です」と指摘するのは、経済学的な立場からカジノ問題に取り組み『カジノ幻想』(ベスト新書)の著書がある静岡大学の鳥畑与一(とりはた・よいち)教授だ。

「特に説明会で使っている統計などデータの見せ方はあまりに恣意的でひどすぎる。これでは市民をだましているに等しい」

具体的に「林市長の説明」のどこが問題なのか? 鳥畑教授と検証してみよう。

■現状をネガティブに見せる数字のトリック

市民説明会で配布された「IR(統合型リゾート)の実現に向けて」と題された資料には、ざっくりと次のようなことが書かれている。

(1)横浜市では将来、少子高齢化による生産年齢人口の減少が予想される。市内に本社を置く上場企業数も東京などと比べると少ないため、法人市民税が少なく、今後の財政に大きな課題を抱えている。

(2)横浜市の観光は日帰り客の比率が多く、観光消費額の伸びや、訪日外国人観光客の取り込みも不十分で、横浜の観光ブランド力は低下している。

(3)こうしたなか、横浜市の観光都市としての魅力を高め、地域経済を活性化し、市の財政を改善するためには大規模な国際会議場・国際展示場などのMICE(マイス)施設や高級ホテル、劇場などの娯楽施設などを含むIRの誘致が必要で、大規模な投資を可能にするカジノの収益力が欠かせない。

(4)依存症や治安悪化の対策については、当然、国と市でしっかりやるので心配ない。

これらを裏づけるものとして、資料には統計やグラフが示されている。しかし、それらを検証していくと、横浜市の現状をネガティブに見せるための"数字のトリック"が隠されていることがわかるのだ。

まずは、林市長が横浜市の課題として示した「日帰り観光客の割合が約8割以上」というデータ(図表2)に注目してみよう。

この資料の前ページ(図表1)には、全国と東京都の日帰り観光客の割合が、それぞれ50.1%、53%とあり、これらと比較すれば80%を超える横浜の日帰り率が突出して高いように思えるが......。鳥畑教授が解説する。

「全国と東京都のデータが観光庁の『観光消費動向調査』に基づくのに対して、横浜市の『日帰り率8割以上』は市の独自調査に基づく『観光集客実人員』が出典となっています。ふたつの図は元データも調査手法も異なります。

そこで同じ観光庁のデータで、神奈川県の日帰り率を見てみると、東京都と同じ5割程度ですし、逆に横浜市と同じ手法で計算すると東京都の宿泊率はわずか8.4%にすぎず、日帰り率は90%超と、横浜よりも多くなるのです。

市長自ら、出典の異なる数字を並べ『横浜市は日帰り客が際立って多い』とネガティブな方向に市民をミスリードするのは、非常に悪質な印象操作だと言わざるをえません」

また、横浜市の「観光消費額」(図表3)と大阪府の「訪日外国人の観光消費額のみで1兆円超え」(図表4)というグラフを比較するのも、問題だと鳥畑教授は指摘する。

「まず、横浜『市』と大阪『府』を並べ、一般的な観光消費額と訪日外国人の観光消費額という、それぞれ出典が異なる、別の項目を比べるだけで論外ですが、問題はそれだけではありません。

横浜市の観光消費額3633億円という数字ですが、これは市独自の調査に基づくもので、観光客の多いハイシーズンが調査に含まれないほか、横浜を訪れるまでの交通費が除外されるなど、観光庁が行なう同様の調査と比較しても、消費額を過少に評価している傾向があります」

さらに、一方の大阪府観光局の資料に基づく訪日外国人の観光消費額1兆2984億円という数字も疑わしい。

「2018年の訪日外国人の旅行消費額が約4兆5000億円ですから、仮にこれが本当なら大阪府だけで全体の3割近くを占めることになります。なぜそんな大きな数字になるのか?

大阪府の推計方法は不明ですが、試しに観光庁がまとめた訪日外国人の『都道府県別の消費額』(ひとり当たり)に、大阪府の『訪問外国人観光客数』をかけてみると、ほぼ同じような額になります。

ただし、都道府県別の『訪問外国人客数』は延べ人数のため、東京、千葉、大阪など、大きな国際空港のある場所は突出して高くなる。これを基にした『1兆円超え』という推計ならば、過大な数字になるのも当然です。

それを過小な『横浜市独自調査』と比較して、『インバウンドを取り込めていない』『観光客が十分にお金を落としていない』と訴え、『横浜の観光ブランド力が低下している』とIRの必要性につなげる論理は、前提の部分で完全に破綻しています」

ちなみに、林市長が訴えるIRの「経済波及効果・最大1兆2000億円」や「税収増最大1200億円」という皮算用(図表5)についても、鳥畑教授は疑問を呈する。

「これらの数字はIR事業者側の情報に基づく推計にすぎません。横浜市はその根拠となる元データの詳細を『事業者の守秘義務』を理由に明らかにしません。そして市長が、『IR施設敷地面積の3%以下にすぎない』と強調するカジノが、実際にはIRの収益の大半を稼ぎ出すという実態を説明しないのも問題だと思います」

市長をはじめ資料を作成した市の職員は、日頃から統計データの扱いを熟知しているはず。その彼らが、不適切で恣意的なデータの比較を論拠に「IRの必要性」を訴えるのは、もはや卑怯(ひきょう)としか言いようがない。

■市民説明会が市長のアリバイに利用される

そこで、これらの指摘について横浜市都市整備局IR推進課の担当者に直接、疑問をぶつけてみた。

――市長が説明会で市民に示した統計データの扱いが不適切との指摘があります。例えば、観光客の「日帰り率」を示す数字の出典や調査方法が、全国や東京都と横浜市で異なるのは問題では?

「横浜市は独自調査に基づいて『日帰り率が高い』と認識しており、全国と比較してどうなのかということで、信頼性の高いデータとして、東京都と全国については、観光庁の調査を引用しました。ただし、これは実数を比較するためではなく、傾向の分析のためという意図です」

――でも、市長は「全国、東京都は約5割が日帰りで横浜の日帰り率は8割以上」と説明し、根拠の異なる数字を比較していますよね?

また、横浜市の観光消費額も、市の独自調査とは手法が異なる大阪府の「訪日外国人の観光消費額のみで1兆円超え」という数字を引き合いに「横浜はインバウンド需要を十分取り込めていない」と主張するのも問題では?

「こちらも『大阪は外国人の観光消費額のみで1兆円を超えていると、かなりの規模感があるものを公式に発表していますよ』と、参考としてお伝えしているだけです」

――出典の異なるデータの不適切な比較や、観光に関する横浜市の独自調査に「ハイシーズン」が含まれていないなどの問題点は、すでに昨年9月の市会でも指摘されていますが、なぜ市民説明会の資料でも改めないのですか?

「昨年の市会でも同様のご指摘を受け、市民説明会の資料では、出典の異なるデータは横並びではなく別表とし、注釈をつけるなどの改善を行なっており、誤解なくご理解いただけると考えております」

――横並びを「別表の上下縦並び」に変えても、市長がそれを比較して説明しているなら同じでは?

「市長も、市民説明会では数字の出典の違いなどについてはご説明しているはずです」

ちなみに林市長は、昨年12月に行なわれた金沢区での説明会で、市がIR誘致を決めた昨年8月の時点で「市民の多くの方が反対だという認識はありませんでした」などと発言。会場が「それはないだろう!」と怒号に包まれるシーンもあったという。

このように、市民の声に真摯(しんし)に向き合わず、市長自ら恣意的なデータで市の現状をミスリードする説明を繰り返すのでは、この先、どんなに説明を重ねても「市民皆さまのご理解をいただく」ことは不可能ではないだろうか。

一方で、説明会がこの先、「説明は尽くした」という市長のアリバイとして利用され、自民・公明が過半数を占める横浜市会の議決を勝ち取って、「民意の支持を得た」と市がIR誘致を強引に進めるのなら、いったい誰のための地方自治なのか?

鳥畑教授によれば、IRで1000億円近い税収増を実現するには、カジノの収益が5000億から7000億円は必要だという。これは、日本型IRのモデルとされるシンガポールのマリーナベイ・サンズの収益の実に約3倍にあたる。

横浜へのIR導入が、それほど巨額の収益と増収が見込まれる以上、「IRを何がなんでも誘致したい人たち」がいるのは、間違いなさそうである。

取材・文・撮影/川喜田 研

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