小島慶子の今週の気になるコト――ダイヤモンド・プリンセス号対応に重なる75年前の"玉砕精神"

現場の人は極限状態で頑張っている、ケチをつけずにたたえよ!と政治家が言うのは無責任です

2月23日、加藤勝信厚生労働大臣が新型コロナウイルスの国内での感染が拡大していることを認め、感染者が急増する危険がある感染拡大の移行期であると発表。政府の後手後手の対応に世論の厳しい目が注がれている。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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危険な環境で働かされている人たちがいると世に知らしめるのは、彼らをおとしめることなのか?

そうです、ダイヤモンド・プリンセス号の話です。同船に一時乗船した神戸大学教授の岩田健太郎医師が船内の感染防止対策が十分でないとYouTubeで告発したことに対して「最前線の方々に敬意と思いを致して頂きたい」と反論した政治家がいましたが、果たして本当にそうでしょうか。

それはかつて無謀な作戦で勝ち目のない戦争を戦って命を落とした人たちを英霊とたたえ、国家の過ちへの批判を封じるのと同じ論法ではないのか。現場の人々の安全を議論するよりも、彼らの奮闘をたたえよと? たたえて戦わせて、最後は自己責任にするのでしょうか。それでは玉砕作戦と同じです。

また、船内で業務に当たった厚生労働省の職員たちが検査を受けずに職場に戻っていたことが判明しました。省内で一度は検査が検討されたものの、「陽性者が多く出た場合の業務への影響などを考慮し見送られた」というのです。

疫学的な見地から検査は不要と判断したならともかく、報道によれば、もし陽性だったら職場が回らなくなるから検査しないことにしたと。この報道が事実なら、そんな組織に果たして感染拡大を食い止めることができるのか、疑問です。

私の知人も霞が関で働いていますから、彼らがどれほど懸命に、文字どおり命を削るような働き方をしているかは知っています。世の中のためにと、まじめに頑張っている人たちもいます。

こういうときに「官僚は無能だ、ダメだ」と叩くのは彼らを追いつめることになります。問題は、国がそうした現場で身をていして働いている人たちの安全を守る姿勢を示さないことです。

現場の人は極限状態で頑張っている、ケチをつけずにたたえよ!と政治家が言うのは無責任です。ほかの人が行けないような過酷な現場で働く人々の安全を確保し、効率的に力を発揮できるような環境をつくるのが政治家の仕事でしょう。

日本の学校や職場には、根性論や美談の押しつけがいまだにはびこっています。どんなに理不尽な任務でも、忠実に全力を尽くすのが正義であると刷り込まれます。その理不尽な環境を疑ったり批判したりすることは、わがままや非礼として糾弾されるのです。では、その"美談"は誰のためのものか?

昨年末、沖縄の平和祈念資料館とひめゆりの塔を訪れました。そうとは知らされずに激戦地に送られ、国のためにと心身を捧(ささ)げて任務に当たり、危険が迫ったら「解散するからあとは自力で生き延びろ」と言われた人々が大勢命を落としました。

これは美談なのか。非常時の国の姿を見るにつけ、75年前と何も変わっていないのではと思わないではいられません。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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