定年延長を受け入れる前に、黒川検事長がやるべきふたつのこと

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、黒川弘務東京高検検事長の定年延長について提言する。(この記事は、3月30日発売の『週刊プレイボーイ15号』に掲載されたものです)

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安倍政権が検察官の定年を段階的に引き上げる検察庁法の改正案を国会に提出した。

改正案は63歳になったら最高検察庁の次長検事や高等検察庁の検事長などに就けないとしつつも、内閣が特別な事情があると判断すればそのポストにとどまれると規定している。

政府は、この法改正がなされる前に、閣議決定によって黒川弘務東京高検検事長の定年(63歳)を無理やり延長した。同氏は、安倍政権の「守護神」として知られる。だから、違法と知りつつ定年延長して彼を検察のトップ、検事総長に任命しようとしたのだ。

今回の改正で、この違法な措置は事実上「合法化」される。黒川氏は今夏までの検察人事で「堂々と」検事総長に就任できるというわけだ。検事総長はほかの検察官と違い、定年が65歳だから、それまでは引き続き桜スキャンダルなどの疑惑追及を封じ込める役割を、安倍政権から期待されることになる。

しかし、それは黒川氏にとって幸せなことだろうか。彼の定年延長にはほとんどの検察官が憤りを感じているという。検察官は汚職事件なども捜査するので、政治からの独立は至上命題だ。なのに、政権の恣意(しい)的な人事で定年が延長され、検事総長に就任したとなれば、どうなるか。

いくら黒川氏が自分の検事総長就任が合法だと叫んでも、時の政権に媚(こ)びて検察トップの座を手に入れた検察官として侮蔑され、権威は失墜、求心力は保てない。多くの検察官は面従腹背を決め込む。国民も検察を信用しないだろう。そんなことは、黒川氏自身もよくわかっているはずだ。

ならば、黒川氏が今後なすべきことはハッキリしている。安倍政権から検事総長就任を打診される前に、潔く辞表を提出することである。もともと黒川氏は63歳になった今年2月の時点で定年を迎えるはずだった。今、辞職してもなんの支障もない。

また、検察官は親元の省庁に従属して天下り先を探してもらうしかないほかの省庁の官僚と違い、定年後は高度な法曹知識・経験と広い人脈を持つ有能な弁護士として自立することが可能だ。退職後の食いぶちは自力で稼げるわけで、時の政権や出身官庁の意向に振り回される必要もない。だったら、さっさと職を辞すればいいではないか。

しかも、黒川氏の目の前には汚名返上のチャンスが転がっている。森友学園事件で公文書改竄(かいざん)を強要され、自ら命を絶った近畿財務局の赤木俊夫上席国有財産管理官(当時)の遺族が、国と佐川宣寿(のぶひさ)元財務省理財局長を相手取り、国家賠償請求訴訟を起こしたのだ。

注目すべきは訴訟にあたり、遺族が公開した赤木管理官の遺書だ。そこには改竄は「佐川局長の指示」という文言が書かれている。さらに、財務省による会計検査院の検査妨害の詳細な経緯もつづられている。この遺書は森友学園事件を再捜査する端緒として十分な価値がある。

そこで提言である。黒川氏は赤木さんの遺書を手がかりに東京地検特捜部の検事に再捜査を指示してみてはどうだろうか? そうすれば、検察庁はおろか、多くの国民から「黒川検事長は政権の守護神などではない。正義を貫く検察官だ」と再評価されるだろう。さらにその上で辞表を提出すれば、これまでの汚名を返上できるはずだ。

これは「男の花道」である。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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