「ポストコロナ」のビジョンが見えない日本政府の"意識の低さ"

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、「ポストコロナ」のビジョンが見えない安倍政権を批判する。(この記事は、6月1日発売の『週刊プレイボーイ24号』に掲載されたものです)

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新型コロナ禍で日本のIT環境整備の遅れが鮮明になった。典型例が、経済支援策の実施が遅いという批判に応えるための「ネット申請手続き」の頓挫だ。

5月20日、厚労省は休業などで経営にダメージを負った事業者などに、雇用維持を目的に給付金を支給する「雇用調整助成金」のオンライン申請システムの一時停止を発表した。複数の登録者に同一のIDが付与されたため、他人の申請情報を閲覧できるという、とんでもないミスが発生していたのだ。

また、香川県高松市は政府が国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」のネット申請受け付けを5月24日で中止した。申請内容の住民基本台帳との照合が職員による手作業で、審査や事務処理に膨大な時間がかかるのが要因だという。

東京都はしばしば新型コロナの感染者数を大幅に修正するが、驚いたことに患者集計をいまだに電話とファクスによる手作業で行なっていたという。

そのほか、ネットを使った施策でいえば、遠隔授業はほとんどの学校で実施できず、初診からの遠隔診療もやっと解禁されたが、医療機関の電子カルテ導入率はわずか4割と遅れている。

以前からひとり当たりのGDPや国際競争力ランキング後退など日本の国力低下は顕著だが、今後、さらに先進国から後れを取るのは必至だ。コロナ禍における日本のITトラブルを見ると、そんな不安に駆られる。

新型コロナによって、各国の社会や経済は深刻なダメージを受けた。今後もウイルスとの闘いが続く以上、経済・社会の構造は世界中の国々を巻き込んで大きく変容するのは確実だ。そんななかで今、各国に問われているのは、「ポストコロナ」のパラダイムシフトをどう進めていくのかという大きなビジョンだ。

実際、世界の国々はすでにポストコロナに向けて走りだしている。その柱は大きくふたつ。IT化と温暖化対策だ。

中国は今回のコロナ禍を社会変革の好機ととらえ、5GなどのITインフラの整備に巨額の投資を始めている。その額は2020年12月期の5G関連だけでも約1000億元(約1兆5000億円)だが、この動きはさらに加速するだろう。

また、痛手を被った自動車産業支援にも電気自動車(EV)購入補助金を使い、温暖化対策との一石二鳥を狙っている。

EUも気候変動がパンデミックと並ぶ人類への重大な脅威だとして温暖化対策に注力する。フランスがEV購入に80万円、ガソリン車スクラップにも60万円の補助金を出す。ほかの加盟国も温暖化対策でコロナ禍からの経済復興を狙っている。

一方、日本はどうだろうか。政府は国民に新しい生活様式の必要性を訴えているが、その内容は「3密回避」などの感染拡大防止策が中心で、ポストコロナの新しい日本のあり方の提案ではない。

リモートワーク、遠隔医療、遠隔授業、週休3日制の促進などもちまちましたメニューの羅列にすぎず、中国、EUのようなポストコロナの次世代型社会を目指す政治のビジョン、変革への意思が不明確だ。

政府は「新しい生活様式」を喧伝(けんでん)するが、その基盤となる「新しい社会」を構築するための明快なビジョンと力強いリーダーシップが決定的に欠けている。今の政権のままでは、IT化も温暖化対策もさらに遅れ、ポストコロナの世界における二流国転落はほぼ確実だろう。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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