畠山理仁×常井健一、ふたりの選挙取材の達人が「地方選の面白さ」を語り合う!

コロナ対応で注目を集める地方自治。選挙取材の達人である常井健一氏(左)と畠山理仁氏が、「地方選の面白さ」を語り合う!

各自治体の首長が独自のコロナ対策で話題になるなど、今年は地方政治が注目されることが増えている。そんななか、市区町村の選挙現場を追いかけたルポ『地方選 無風王国の「変人」を追う』が9月末に発刊。

マニアックだけど政治の本質がギッシリ詰まった地方選の面白さを、この本の著者・常井健一(とこい・けんいち)氏と、変人候補を追いかけ続けるライター・畠山理仁(はたけやま・みちよし)氏がガッツリ語る!

■地方選の取材は野球帽とTシャツで

畠山理仁(以下、畠山) 常井さんはこれまでに小泉純一郎氏や進次郎氏をはじめとして、誰もが知っているような国政の政治家を中心に追いかけてきましたよね。その常井さんが「地方選」の本を書いたのはなぜですか。

常井健一(以下、常井) 最大の理由はコロナ禍の国政にがっかりしたからです。危機のときこそ「選良」とか「エリート」といわれている政治家たちの知性や手腕が発揮されると思っていたのに、永田町の政治家は右往左往するばかりでした。

その一方で、熊谷俊人(くまがい・としひと)千葉市長や五十嵐立青(たつお)つくば市長など、地方自治体のリーダーが顔の見える形で浮上してきた。地方政治家のほうがよっぽどカラフルで魅力的なんですよね。

畠山 永田町目線だと、国政の下に地方自治みたいな構図を作りがちですよね。

常井 それは間違っていると思います。地方のリーダーは国が決めた政策に対して「それでは社会が維持できない」とストップをかけたり、国政があけた穴を埋めたりする。

定額給付金も自治体ごとに給付スピードが全然違ったけれど、政治は私たちの生活に一番身近な地方のリーダーによって変わるし、ちゃんとした人を選んでおかないと自分たちの命に関わる。地方選こそが市民の命綱と痛感しました。

畠山 取材者の目線で言うと、地方選の取材は、思いもよらない人物に出会える楽しさがある。例えば、私が出会った候補者には、立候補届出会場でいきなりオモチャのピストルを向けてきた人もいたし、演説中に叫びながらイチモツをあらわにした人もいました。

常井 国政選挙ではありえない面白いことに遭遇しますよね(笑)。でも、そのためには現地に溶け込むことが大事です。僕は地方選の取材の際は、スーツのような正装ではなく、野球帽にTシャツといったラフな格好で臨んでいます。

現地になじむと、地元新聞や郷土史にも載っていないような生々しい政治の言葉が聞こえてくることもある。それがものすごく面白いです。

畠山 常井さんの新刊に収録された、北海道・えりも町長選のルポは最高です。現役町長が、対立候補の応援演説をしている役場OBを見ながら「現役の頃に今くらいの情熱で仕事をしてくれていたらもっと違っただろうに」なんて愚痴るシーンには思わず笑ってしまいました。

常井 その役場OBの方に町長の愚痴を伝えたら、「そんなこと言ったの?」とショックを受けていましたね。村の秘め事でもありながら、村の人でさえ知らない陰口まで書いてしまいました。

畠山 選挙は人間の本質が見えるから面白い。特に地方の小さな選挙だと、顔見知り同士の選挙だから、濃ゆい。

常井 「この人に逆らうと地元の老人ホームに入れなくなる」とまで言われていた土建屋のボスも、選挙に出ると落ちちゃったりする。面と向かって文句を言うと暮らしにくくなるけれど、選挙なら落とせるから。「みんなどこかで彼のことを面白くないと思ってたんだな」ということが「票」で明らかになるんです。

畠山 同じく新刊に収録された北海道・中札内(なかさつない)村長選のエピソードも面白かったです。40代の若い新人候補が、村長選に落選した後に、その当時、村にふたつしかなかったコンビニでバイトを続けて、4年後の村長選(2017年)で初当選を果たすという、ある意味で夢のある話です。

常井 お辞儀の仕方も知らなかった人が、コンビニで働くことで村民に顔を覚えられて、「子供が4人もいるのに大丈夫か」と心配されるまでになり、それが当選につながった。これも人間関係が狭い村長選ならではの話ですよね。

畠山氏は、常井氏の著作『無敗の男 中村喜四郎 全告白』(文藝春秋)を激賞。一方、常井氏は『地方選』の執筆にあたり「畠山さんの『黙殺』に大いに刺激された」という

■選挙ツーリズムのススメ

常井 町村選挙の現場って、吉田類の『酒場放浪記』やヨネスケの「突撃!隣の晩ごはん」と同じようなノリなんです。家庭の中で政治が行なわれている感覚。冷蔵庫の中まで見える身近さがあります。

畠山 常井さんは各地の選挙を訪ねて土地の言葉に触れたり、現地ならではの食を楽しんだりする「選挙ツーリズム」を提唱していますよね。これは、選挙を取材する記者じゃない人でも楽しめる。自分の地元の選挙だと周りの目が気になるけれど、しがらみがない土地なら気軽に回れるし、意外と歓待されます。

常井 えりも町の選挙事務所を訪ねたときには「おー、食べていきな」っていきなりタラバガニが出てきました(笑)。「家族が漁に出て、取ってきたものだから」と。

畠山 そういえば私も福島県のある村の選挙を取材したときに、おにぎり、味噌汁、煮物や山盛りの漬物がどっさり出てきたし、群馬県ではすし、茨城県では酒も出たなあ。

常井 誰が来てもウエルカムという姿勢の候補者は強い。候補者自身がよその土地から来る場合もありますし。

畠山 市町村長などの首長はどこに住んでいる人でも立候補できますからね。

常井 実は田舎では選挙は話題の中心です。これは投票率にも表れていて、投票率8割以上の選挙が普通にあります。

畠山 ただ、2019年の統一地方選挙では、町村長選挙全体の45.5%にあたる55町村が無投票当選でした。15年の町村長選挙の再選率は84.2%となっており、国政選挙よりもずっと現職が有利な構図になっている。選挙で負けたらその土地で暮らしにくくなるから、なかなか新しい挑戦者が現れません。

常井 選挙に負けて離婚する人や、その土地から引っ越していく人もいますからね。

畠山 無投票が多くなると、選挙のやり方自体が継承されないという問題もあります。群馬県の昭和村は、立候補者が少なすぎて再選挙になったことがあるのですが、再選挙も候補者が定数ピッタリで、選挙運動をしなくても全員が無投票当選でした。

でも、取材に行ったら街宣車が走っていた。「このままだと若者が選挙のやり方を知らないままになる」と村の長老が危機感を募らせて、若い候補者に選挙のやり方を教えていたんです。もはや、選挙は無形文化財みたいに保護して継承しないといけないものになったのか、と驚きました。

常井 「平成の大合併」(99年〜10年まで実施された全国市町村の廃置分合)により全国の小さな町や村の議会は大きな市の議会にのみ込まれました。

でも、それらの町村は選挙戦という伝統が引き継がれていないから、いざ市議会議員選挙になると戦い方がわからず、旧村、旧町出身の議員をひとりも出せなくなるケースが相次ぎました。結果、そういった地域では政治が機能せず、行政サービスの劣化などの問題が起きている。

畠山 本当に死活問題です。

常井 一方で、たとえ住人が2000人いるかいないかの小さな自治体でも、無投票ではないキチンとした選挙が実施されれば、その地域には"いいこと"が起きます。

たとえ大差で負けても、違う政策を掲げた候補が出ると、村長が相手の政策を取り込むといったことがザラにある。それは住民にとってもメリットをもたらします。無駄な地方選挙はひとつもないんです。

「地方の小さな選挙は候補者も有権者も顔見知りだから、とにかく濃い」(畠山)「たとえ現職が8割再選しても、無駄な地方選はひとつもないんです」(常井)

■等身大の政治家を育てる

常井 国政でも地方政治でも、今の選挙は「結婚式の引き出物のカタログギフト」みたいな状態になっていますよね。

畠山 数はそろっていても意外と欲しいものがない。カタログに載るのが60歳を超えた人に偏っていて、高齢者向けの出会い系サイトみたいだから若者は興味を持たない。

常井 自分たちの代わりになりうる「等身大の政治家」がいない状態です。そういう人をもっとつくらないといけない。

畠山 腰を落ち着けてやってくれる人を有権者が育てていかないといけないですね。

常井 挑戦者は「今、そのときの選挙で当選しなくちゃいけない」って全力で走るから、負けると疲弊して一回で終わる。でも、実は落選した後の4年間をどう過ごすかが、新しい首長を生み出せるかどうかの分かれ道なんですよ。

畠山 今は選挙のノウハウをまったく知らず立候補して惨敗する新人候補も多いんです。逆に、当選し続ける人たちはノウハウをどんどん蓄積して、より強くなっていく。

常井 「選挙に出たい」という人から相談を受けることがあるんですが、私は「一度選挙の手伝いをしてみなよ」と勧めています。選挙は2週間でやり方がだいたいわかるし、人脈もできる。「出たい人より出したい人」というのが選挙の鉄則ですから、「この人は政治家にしたい」と思えるような人を身近で探してほしいですね。

畠山 地方は特に同調圧力が強いので、地元に住んでいる普通の人はなかなか選挙に出られない。だから選挙に出てくれるのは「ちょっと変わった人」。その人を自分たちの代表として育てるのが近道かもしれません。

常井 「ふたり目」と呼ばれる候補者は落選しても地域にとって必要な存在。これからUターン、Iターンで、地方で暮らす人も増えるかもしれない。そのとき、ひとつの生き方として地方の政治家を目指すのもありだと思います。

●常井健一(とこい・けんいち)
1979年生まれ、茨城県出身。ノンフィクションライター。月刊誌『文藝春秋』にて発表した「小泉純一郎独白録」で「第23回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」受賞。著書に『保守の肖像』(小学館)、『無敗の男』(文藝春秋)など

●畠山理仁(はたけやま・みちよし)
1973年生まれ、愛知県出身。フリーランスライター。著書に第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社文庫)、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)など

■『地方選 無風王国の「変人」を追う』
(常井健一著 角川書店 本体1700円+税)
"選挙を旅する"異色ノンフィクション。北海道で一番高い出生率を誇る町に起きた混乱、地域にふたつしかないコンビニでの4年間のバイトが当選につながった村長選の逆転劇、「国道ファースト主義」の村で名乗りを上げた「発明家」など、国政選挙ではお目にかかれない「変人」を追うことで地方選の魅力をつづる著者入魂の一冊
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■『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』
(畠山理仁著 集英社文庫 本体780円+税)
政党の後ろ盾がない泡沫候補(=無頼系独立候補)の戦いを追い続けた20年間の記録。落選に次ぐ落選、供託金没収で金もない。それでもめげずに何度も挑戦。マック赤坂、後藤輝樹、立花孝志など、選挙の魔力に取りつかれた者たちに密着し、日本における選挙の問題の核心をえぐり出す。笑えてやがて考えさせる選挙本の決定版
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撮影/榊 智朗

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