コロナ収束の切り札だが......どうしても心配になる「ワクチン差別」の危険性

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、新型コロナウイルスの「ワクチン差別」の危険性について語る。

(この記事は、2月1日発売の『週刊プレイボーイ7号』に掲載されたものです)

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コロナとの戦いでカギとなるワクチン。日本でも厚労省がまずは高齢者向けに3月中旬以降、「接種券」を配布すると公表した。私も接種が順調に進むことを期待しているが、ここにきて新たな不安材料が出てきた。

英国や南アフリカが起源とされる変異ウイルスが世界的に拡大し始めたことだ。ファイザー社とモデルナ社ともにふたつの変異ウイルスにも有効性は失われないと公表したことで、胸をなで下ろしたいのだが、そう単純ではない。

なぜなら、南ア株に対しては有効性が落ちることもわかったからだ。今後もウイルスの変異は進む。近い将来、現在のワクチンが効かないウイルスが生まれるのはほぼ確実だ。そうなると、元のもくあみになる。

さらに困るのは、そうした事態が予想されるとなれば、ワクチン接種は無駄だと考えて接種を受けない人が増えることだろう。その結果、集団免疫ができるのに時間を要することになり、その間にウイルスの変異が進むという悪循環になりかねない。その場合、かなりの長期間、接種済みの人と未接種の人が混在することになる。 

こうした事態は複雑な問題を引き起こす。ワクチンの未接種者に対する差別の問題だ。ワクチン接種は義務ではない。個人の自由だ。アレルギーなどにより接種できない人や、もともと接種をしたくない人もいる。

しかし、企業経営者はすべての従業員に接種させたいと考える。経営上は合理的な判断だ。今、アメリカではさまざまな特典(レストランの朝食券、テレビが当たる抽選券など)を提供して労働者に接種を勧める企業が増えている。自治体の消防署が署員にタクシー配車の無料券を配るという例まであるそうだ。

しかし、この動きは要注意だ。この先には、ワクチン接種が雇用の前提とされたり、劇場や美術館、さらにはホテルなどの入場の条件とされたりする事態も予想される。そうなれば、ワクチン接種は事実上の義務と化す。

今、EUでは「ワクチン接種済み」の証明書である"ワクチンパスポート"導入の議論が盛んだ。所持者は自主隔離やPCR検査なしでEU域内を自由に移動できるという制度で、観光やビジネスの移動を容易化して経済を活性化させる狙いがある。

一方、ワクチンを接種したくない人や健康上の理由で接種できない人の自由な移動や就労が制限されるという弊害もある。それを理由にフランスのマクロン大統領は導入に消極的だ。

日本でも同様の心配がある。菅政権は接種に関する情報をマイナンバーに紐(ひも)づけようとしている。そうなると、マイナンバーカードの提示が社会生活のさまざまなシーンで要求されるようになる可能性がある。

例えば、企業の採用条件とされるかもしれない。また、「当店のスタッフは全員、マイナンバーカードでワクチン接種確認済み」と宣伝して、客を安心させようとする企業も出るだろう。

さらに、菅総理が固執する「Go Toキャンペーン」とワクチン接種、マイナンバーカードの3つをセットにして、観光宿泊や公的施設入場で大盤振る舞いする大キャンペーンまでやるかもしれない。

「感染防止」の切り札であるはずのワクチンが、一部企業経営者を利する道具、さらにはワクチン非接種者への差別の手段となりえることも今からしっかり認識しておくべきだと思う。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中

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