中国の人権問題が「日本の利」となる理由〜日米「2プラス2」開催

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月17日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。日米の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)が東京都内で行われたというニュースについて解説した。

習近平国家主席=2020年6月22日 Avalon/時事通信フォト 写真提供:時事通信

日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催

茂木外相)中国による、海警法に関する深刻な懸念を共有いたしました。尖閣諸島に対する日米安全保障条約第5条の適用を再確認するとともに、同諸島に対する日本の施政を損なおうとする一方的な行動に、引き続き反対することを確認しました。

 

日本とアメリカの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)が、3月16日に東京都内で行われた。日米両政府は協議後に発表した共同文書で、「中国の行動は既存の国際秩序に合致せず、日米同盟や国際社会にさまざまな課題を提起している」と中国を名指しで批判。中国の海警法にも「深刻な懸念」を表明した。

飯田)アメリカのバイデン政権が発足してから初めてとなる日米2プラス2です。

佐々木)思ったよりバイデン政権は対中国政策を重視して、アジアに目を向けています。そのことは、日本にとってはよかったと思います。大統領選のときにバイデンさんの息子のハンター・バイデンさんが、中国企業からダイヤモンドをもらっていたという話もありましたし、バイデンさんは中国寄りで、習近平さんとも仲がいいという話があったので、民主党政権ですし、中国とは宥和政策を取って、東シナ海・南シナ海問題にもあまりコミットしないのではないかと心配されていたのですけれど、逆だった。

2021年3月16日、表敬を受ける菅総理〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202103/16hyokei.html)

アメリカ人の7割が人権重視だと言い、中国には冷たいイメージを持っている

佐々木)「ピュー・リサーチ・センター」というアメリカの有名な世論調査の会社がありますが、「中国と経済関係を重視するのか、それとも人権を促進する方を重視するのか」ということを聞いたら、7割以上のアメリカ人は「人権でしょう」と。経済より人権だと言っているのです。しかもこれは、共和党支持者、保守系の人たちが言っているのならわかるのですけれど、民主党支持者のリベラル系の人も、共和党支持者と同じ7割くらいの人が人権重視だと言っています。しかも、中国に対してどういうイメージを持つかというと、大半の人がよくないイメージを持っていると。「中国に対してどういうイメージかを温度計で例えるとどうなのですか?」と聞くと、「非常に冷たい」と「冷たい」が合計67%で、これは3年前の2018年の調査では両方合わせて46%だったのです。この3年の間に20%近く上がっている。これは何なのかと言うと、海警法ではなくて、明らかに、香港とウイグルの問題ですね。

2021年3月16日、ブリンケン米国務長官及びオースティン米国防長官による表敬〜出典:首相官邸HP(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202103/16hyokei.html)

ヨーロッパ各国も中国の人権問題に批判的〜日本にとっては好機に

佐々木)これによってイギリスやフランス、ドイツも世論が転び、こちらに来たということになります。イギリスは空母「クイーン・エリザベス」を日本近海に派遣し、ドイツもフリゲート艦をインド・太平洋地域に8月から派遣する予定です。ヨーロッパのリベラル系の国がこぞって中国と向き合う方向にやって来つつあります。

飯田)そうですね。

佐々木)香港の人も大変だし、ウイグルの人も本当に悲惨な状況なのだけれど、この2つの問題があったおかげで、日本にとっては、ある意味好機になってしまったのです。申し訳ないのですけれども、結果的に日本にとって利になっている状況なのだと思います。

飯田)世界中の目が、この地域に集まってくれたと。いままでであれば中東などが注目されるところでしたね。

北京から世界経済フォーラム(WEF)のオンライン会合に参加する中国の習近平国家主席=WEFのウェブサイトより=2021年1月25日 AFP=時事 写真提供:時事通信

世界中が「米中露」の関係に注目〜真ん中に位置する日本

佐々木)そうなのです。「フォーリン・アフェアーズ・リポート」というアメリカの外交問題評議会が毎月出している雑誌の日本語版を購読していますが、3年ぐらい前までは、毎回中東の話ばかりで、「もうシリアの話は飽きたよ」と思っていたのだけれど、ここ1年くらいは毎号中国の話ばかりです。東南アジアと中国、またはロシアに関する話ばかりが載っています。もはやアメリカと中国とロシアの関係、この太平洋を挟んだ地域が世界中の注目の的になっているのです。そしてその真ん中に我々日本がある。

飯田)日本が。

佐々木)いいのか悪いのかわかりませんが、大変な状況になって来ているという感じです。ただ、「この先どうなるのか、どういう落としどころがあるのか」ということは考えなければいけない。対立が進んで戦争になるのかと言うと、まあ、ならないですよね。中国は当然、アメリカに戦争で勝てるとは思っていないでしょう。GDPに関して言うと、2025年くらいにはアメリカを抜くと言われていて、世界最大の経済大国になることは間違いないでしょうけれど、軍事的にはどうなのか。艦船や飛行機の数はアメリカを抜くかも知れませんが、テクノロジーや軍隊の習熟度なども含めれば、相変わらずアメリカは圧倒的なわけです。

飯田)そうですね。

ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ)=2020年7月1日 写真提供:時事通信

米中が拮抗して米ソ時代のように米中時代になれば平和な状態は保たれる

佐々木)かつてのソ連のように、中国はアメリカと対峙する存在にはなるのだと思います。トランプさんのときにはデカップリングで、中国が太平洋の西側を支配して、トランプさんは北米だけでいいと言っていたので、日本としては危ないところがあったのですが、バイデンさんはもう少し世界秩序にコミットしようという、いわゆる伝統的なアメリカの外交を再現しようとしているので、デカップリングには行かないでしょう。では、どうなるのだろうか。リアリズム系のジョン・J・ミアシャイマーという政治学者がいます。

飯田)ジョン・J・ミアシャイマーさん。

佐々木)あの人が『大国政治の悲劇』という有名な本を出していますが、そのなかで冷戦時代の米ソ、アメリカとソ連は意外と悪くなかったと書いているのです。戦争が核の抑止で向き合っているから、アメリカとソ連が対峙していて、戦争が起きていない状態というのは、意外と平和だった。もちろんベトナム戦争のような代理戦争はありましたけれど、総じて大きな戦争は起きていなかった。逆に言うと、米ソの冷戦が終わったいまの方が、国際社会は不安定になって来ているわけです。ロシアがクリミアを落としたり、中国が南シナ海へ進出したりして。

飯田)冷戦が終わって。

佐々木)逆に言うと、2つの勢力が拮抗して向き合っているときの方が、手を出しにくくなるので平和であるということを考えると、米ソ時代のような米中時代がやって来て、それが拮抗して常に対決していれば、案外平和な状態は保たれるのではないでしょうか。不安は不安ですけれど。

飯田)全体的に。

佐々木)というところに戻って行く可能性が、もしかしたらあるのかなと、個人的には期待しています。

中国は2020年10月14日午前、広東省深セン市で深セン経済特区〈SEZ〉設置40周年を祝う盛大な大会を開いた。習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委員会主席がこれに出席し、重要演説を行った。〔新華社=中国通信〕写真提供:時事通信社

米中対立のなかで最もホットなスポットとなる台湾と南西諸島の日本

飯田)そのときに、先ほどご指摘のベトナム戦争やアフガニスタンなど、周縁部で代理戦争的なものが起こるというところが、いちばん気を付けなければならないところかなと。

佐々木)そうなのですよね。案外、主戦場のメインのところでは戦争が起きないということを考えると、「この環太平洋のアメリカと中国に接しているところで、どこがいちばん危ないのか」ということを考えなければいけないですよね。

飯田)最近議論になっているのが、台湾がどうなるのだという辺りの話。

佐々木)そうですよね。

飯田)台湾と南西諸島の日本は、最もホットなスポットになりつつありますよね。

台北市の総統府で記者会見する蔡英文総統=2020年1月15日(共同) 写真提供:共同通信社

朝鮮半島や台湾で有事が起きた場合に日本はどうするか

佐々木)台湾と中国は全面戦争をする気はなくても、勃発的に砲艦が火を噴くということが起こり得るわけです。そうなれば当然、アメリカは出るでしょう。そのときに日本はどうするかという問題があります。ここで日本が台湾側に立って、自衛隊を出すなりしないと、日米安全保障条約に傷が入るのです。「日本は出ないのか、だったら尖閣に中国が来たとき俺たちは何もやらないぞ」とアメリカが言い出しかねないので、そのときに自衛隊をどうするのか。防衛出動はするのかどうか。これはかなり重要な問題になって来ます。

飯田)日本の行動というのが、より求められる時代になって来ていると。

佐々木)そうなのです。こんなに火薬庫のど真ん中にある国で、すべてアメリカに頼っていて、朝鮮半島や台湾で有事が起きても何もしないというのは、さすがにあり得ないと思います。湾岸戦争のときに自衛隊を出さなくていろいろ揉めましたけれど、あのときとはまったく距離が違うということを、我々はもう少し認識しなければいけなくなって来ているということです。

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