出水期に向けて……防災情報が新たな体制に【みんなの防災】

「報道部畑中デスクの独り言」(第247回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、新たな防災情報のガイドラインについて—

2018年の西日本豪雨 広島県熊野町で壊滅した住宅

今年(2021年)は各地の梅雨入りが例年より早そうですが、これから本格的な梅雨のシーズンに入り、そして台風と、大雨が降りやすい時期になって行きます。

この時期を気象用語では「出水期」と言います。地球温暖化の影響も指摘されるなかで、毎年のように日本では豪雨災害が起きています。3年前は西日本豪雨、2年前には首都圏などを台風19号が襲いました。昨年(2020年)は熊本県を中心とする豪雨災害がありました。

そのたびに、被害を食い止めるためのさまざまな検討がなされていますが、今年は情報発信の面で大きな変化がありました。

1つは市町村長=自治体が出す避難情報です。これまでは「避難指示(緊急)」「避難勧告」がありましたが、このうちの「避難勧告」が廃止され、「避難指示」に一本化されます。これはまさに5月20日から運用が始まりました。

この避難情報のルーツは、1961年(昭和36年)に施行された災害対策基本法にさかのぼります。この法律は死者・行方不明者5000人以上を出した1959年(昭和34年)の伊勢湾台風を機に制定されました。第60条にはこのように記されていました。

「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる」

2018年の西日本豪雨 岡山県真備町 小田川の決壊現場

この災害対策基本法に基づいてガイドラインが制定され、「避難勧告」「避難指示」という表現ができました。この2段階の避難情報ができた背景について、内閣府防災担当の菅良一・風水害対策調整官は、先人から聞いた話としてこのように話します。

「“避難指示”が行政的にも強い言葉であり、もう少し前の安全に避難できる段階で、住民に避難を促すことが必要ではないかということで、指示の前の段階に勧告を設けた」

しかし最近になって、両者の違いがわかりにくいという指摘が後を絶ちませんでした。西日本豪雨が起きた2018年、東京都内で聞いたインタビューでは、「避難勧告の方が上ではないか」「避難勧告は“まだ避難しなくてもいい”」など、誤った認識を持っている人もいました。

さらに、西日本豪雨をきっかけに導入された「大雨警戒レベル」で、危険度が5段階に「レベル化」されましたが、ここで避難勧告と避難指示は同じ「レベル4」に分類されたため、その違いがますますあいまいになっていました。そうしたこともあり、災害対策基本法が改正され、勧告の部分が削除されたというわけです。

加えて「警戒レベル3」にある「避難準備・高齢者等避難開始」は、「高齢者等避難」に改められました。これは高齢者や体の不自由な方に、早めの避難を促すものです。さらに、警戒レベルで最高の「レベル5」にある「災害発生情報」は「緊急安全確保」へと、より切迫感のある表現に変更となっています。高齢者等避難はレベル3、避難指示はレベル4、緊急安全確保はレベル5と、情報体系として整理された形です。

2018年の西日本豪雨 被害を大きくした”コアストーン”(広島市安芸区)

一方、「避難指示」という言葉については、いまにもお役所言葉、「避難命令」や「すぐ逃げろ情報」にした方がいいという意見もあります。内閣府の菅調整官はそうした意見があることは認めながらも、「避難命令で、例えば逃げなかったら罰則ということになると、ハレーションが起きる。また、住民に対して“上から目線”になるという話も聞く」と話します。

また強制性については、警察官職務執行法という法律があり、本当に避難すべきときは、警察官による強制が担保されているということです。

内閣府ではこれらの情報の意味を理解した上で、「警戒レベル5」で逃げるのではなく、必ず「レベル4」、避難指示の時点で避難をするよう呼びかけています。

新しい情報発信、もう1つは「線状降水帯」です。気象庁では今回、この「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報を提供することになりました。

線状降水帯は、次々と発生する発達した雨雲が列となり、数時間ほぼ同じ場所を通過または停滞することでつくり出されるものです。いまから7年前、2014年に広島に土砂災害をもたらした豪雨以降、この言葉がよく聞かれるようになりました。

この「線状」という言葉、気象用語では長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度とされています。例えば長さ50kmは、東京都心から直線距離で神奈川県の茅ヶ崎市辺りに相当します。これほどの範囲でどういうときに発生するのか、予測が難しいことから、情報としては積極的に扱っていませんでした。

2019年の台風19号、多摩川では流木が濁流に流されていた

しかし、線状降水帯という言葉が社会的に浸透しつつあるということから、今回の措置となりました。気象庁ではこんな形の伝え方を想定しています。

「●●地方では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や、洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています」

情報は「大雨警戒レベル」で「レベル4相当以上」の状況で発表されます。あわせて気象庁では、今後も予測精度の向上に努めて行くということです。

ただ、この線状降水帯という言葉の使用については、「防災気象情報の伝え方に関する検討会」でも慎重な議論が交わされました。

「線状降水帯に起因しない大雨が隠されてしまうのではないか。線状降水帯という“パワーアイテム”がもたらす効果と、副作用に対する議論がなされて行った。議論は尽くしたが、これが最終形態ではない」

こう述べるのは、検討会の座長で東京大学大学院の田中淳特任教授です。情報が多様化することによって、感覚がマヒしてしまうことに対しての懸念がにじんでいます。私どもメディアも、こうした状況に陥らないように報じ方に配慮する必要があります。

2019年の台風19号の影響で川崎市内では「内水氾濫」により、多くの住宅が浸水した

最近は大雨に関するさまざまな防災情報があります。いくつかおさらいをしておきます。

「大雨特別警報」は、2013年に設けられました。台風や集中豪雨により、数十年に一度の量となる大雨が予想されるときに発表されます。「大雨警戒レベル5」に相当する情報です。

次に「土砂災害警戒情報」ですが、これは「レベル4」に相当する情報です。大雨警報発表中に土砂災害の危険性が高まった場合、気象台と都道府県から共同で発表されます。実は市町村長の出す避難情報は、この「土砂災害警戒情報」が判断の参考になっています。

「記録的短時間大雨情報」は、大雨警報発表中に出されます。数年に1回程度しか起こらないような、1時間に100ミリ前後の猛烈な雨……「息苦しくなるような圧迫感のある降り方」と表現されますが、これが観測・解析された場合に気象台から発表される情報です。いまから39年前、1982年に起きた「長崎大水害」をきっかけに設けられました。

さらに、河川に関わる情報は下から「氾濫注意情報」「氾濫警戒情報」「氾濫危険情報」で、いちばん上は「氾濫発生情報」です。ちなみにこれは河川に関わる情報ですので、管轄によって「国土交通省と気象庁」もしくは「都道府県と気象庁」が共同で発表することになっています。

気象庁の記者会見(2021年4月28日撮影)

このように、情報は大災害が起きるたびに多様になって行きました。しかし、受け手にとってはどう映るのでしょうか。

以前、西日本豪雨の被災地で話を聞いた際は、「携帯に(情報の)警告音がひっきりなしに鳴るので、無視してしまった」という声が聞かれました。避難のきっかけは「長男から電話があった」「防災無線の声がただならぬ状況だった」など、口コミや肌感覚という人が多かったのが現状です。

きめ細かい情報は、それ自体は大変有用なものです。ただ、逆に重要な情報が、多くの情報のなかに埋もれてしまう可能性もはらんでいます。気象庁でもこうした情報の多様化によるデメリットに悩みながらも、不断の見直しは必要と話します。

「情報体系はシンプルにするのは大事。現象に関しての解説はして行かなくてはいけない。情報体系の改善には取り組んで行きたい」(気象庁大気海洋部・中本能久業務課長)

以前小欄でも述べましたが、重要なのは、情報というものはあくまでも“人間の物差し”で決めているということ。自然に人間の都合は関係ありません。“想定外”という形で、時に自然は牙をむいて来ます。

避難勧告の廃止を広報する内閣府のポスター

情報の意味を理解した上で、自らの“五感”を研ぎ澄ませ、危険な状況を察知することに尽きるのでしょう。雨が降ってどのような状態になると危険なのか、いつもより違う雨音を聞いたら危ないと感じることができるか。川の水が濁って来たら、斜面から石が転がって来たら、それは避難のサインなのか……。

日ごろからイメージトレーニングをし、その土地土地の、自分自身の「災害マニュアル」をカスタマイズすることが必要だと思います。(了)

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