核合意復活なければイラン大統領選にも大きな影響が

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月24日放送)に東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が出演。アメリカとイランの核合意の修復について解説した。

26日、米ニューヨーク市内のホテルで記者会見するイランのロウハニ大統領=2019年9月27日 写真提供:産経新聞社

アメリカとイランの核合意の修復〜最終段階へ

イラン核合意の再建に向けたアメリカとイランの間接協議が5月25日、ウィーンで開催される当事国の全体会合で再開する見通しとなったことがわかった。アメリカとイランの間接協議は4月上旬から断続的に行われていて、仲介役のEU代表は交渉締結に向けて「大きな前進があった」と評価している。

飯田)イランの核兵器開発を制限するため、2015年にイラン核合意が締結されましたが、その後アメリカは離脱をしたという経緯があります。これはどういう流れになりますか?

鈴木)今回25日に再開されるものは、最後の最後になると思います。最終的にこれでいいということで妥結して、アメリカは制裁を解除する。イランはこれまでの核合意違反でたくさんつくっていた濃縮ウランを減らし、遠心分離機を減らすということを、これから進めて行くことになるのだろうと思います。

アメリカもイランも大筋は同意

飯田)鈴木さんは国連安保理イラン制裁委員会専門家パネルのメンバーもされていらっしゃいました。イランとアメリカ双方の思惑というのは、どういうところがありますか?

鈴木)イラン核合意は、2015年のオバマ政権のときにできたものです。狙いはイランの核開発を一定程度認める代わりに、爆弾をつくるまでの時間をできるだけ長く取ろうというものです。新しく爆弾をつくろうと思ったら1年以上かかるので、その間にコントロールするというのがオバマ政権の考え方だったのです。ところが、トランプ政権は「こんなものはオバマがやったことだからダメだ」というのもありますし、アメリカとイランの関係が悪く、イランはイスラエルや中東で悪さをするから制裁をしなくてはいけない。しかし、イラン核合意があると制裁しにくいので、イラン核合意から離脱すると言って、一方的に最大限の制裁、圧力をかけて行ったのです。

飯田)トランプ政権が。

鈴木)それで、イランはアメリカが勝手に離脱して圧力をかけて来ているから、自分たちも対抗しなくてはいけないと。1年間は耐えたのですが、2019年から「そんなに圧力をかけるなら自分たちも核兵器をつくる」というステップを踏み始めて、遠心分離機を増やした。濃縮ウランに関しては、イラン核合意では3.67%という低い濃縮度だったものを、60%まで上げた。兵器になるのが90%ですから、兵器に近いレベルのウラン濃縮を始めたのです。

飯田)そうですね。

鈴木)これはまずいということになって、バイデン大統領になったときに、これをやめさせなければならないと。バイデンさんはオバマ政権時に副大統領だったのですが、この核合意に戻るのだということで、「アメリカは制裁をやめるからイランも核開発をやめましょう」ということが、それぞれの思惑です。イランも制裁を受けていますから、とにかく制裁を解除して欲しい。そのために核兵器を諦めるという思いでいるので、実は双方とも核合意に戻るということに関して、大筋は同意しているのです。しかし、細かいところでいろいろトラブルがあって、今回で5回目の会議になるのですが、細かいところを詰めて行き、ようやく決着するところまで来たということだと思います。

核と関係ないところでの制裁については解決されていない

飯田)そうすると、アメリカとしても、やめさせるために何か譲歩をするという感じではなかったということですか?

鈴木)イラン核合意の水準まで制裁を解除するというところは、一応合意しているのですが、アメリカは2018年からいままで3年間、トランプ政権時代に新たな制裁を1600件くらいかけていて、そのなかには容易に解除できない制裁があるのです。「イランがテロ支援をした」という部分でかけた制裁などは、核と関係ないので解除できないとアメリカ側が言うと、イランがそれはおかしいと。「トランプが勝手にやったことはすべて解除しろ」とイランは求めているので、それが未だ解決できない問題の1つとしてあります。

15日、パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の空爆により負傷した子どもたち(ゲッティ=共同)=2021年5月15日 写真提供:共同通信社

アメリカから見れば、ハマスを支援するということは「イランはテロを支援した」ということになる

飯田)その辺りはイランが後ろでヒズボラという組織や、フーシ派と呼ばれる組織など、いろいろなところでやっていますよね。こういうことが起こって来るというのは、アメリカにプレッシャーをかける面もあるのですか?

鈴木)それはそれで別ですね。レバノンのヒズボラや、また停戦になったガザ地区のハマスという組織もイランは支援しています。ハマスはパレスチナ人の組織で、イランはシーア派というイスラム教の宗派ですが、ハマスはスンニ派で宗派も違うけれど支援をして来た。しかし、それは「イスラエルと戦うパレスチナ人を支援する」という名目でやっていたわけですが、イスラエルやアメリカから見たら、ハマスはテロ組織なので、テロを支援していたということになるわけです。

飯田)なるほど。

鈴木)中東はテロリストと言っても、結局、誰かにとってはテロリストでも、誰かにとっては自由の闘士なのです。立場の違いで考え方が変わるので、イランとしては追い詰められた、抑圧されたパレスチナ人を助けているだけだとしても、アメリカ側からすると「テロリストを支援しているではないか」ということになる。こういうところで話がずれているのです。

今回のイスラエルとハマスの争いはイラン核合意とは関係がない

飯田)今度イランで大統領選があります。その辺りと核交渉や、今回のイスラエルとハマスの争いは、あまりリンクしないと考えた方がいいですか?

鈴木)そうですね。今回の核交渉は、まさにイランの大統領選挙が6月18日にあるのですが、大統領候補が決まるのは5月27日〜28日ごろです。ここで大統領候補が決まって、3週間ほどの選挙期間があって、大統領選挙になります。そこまでには決めたいというのが両者の思惑なので、5月25日に再開して、ここでまとまるのではないかという期待が高まっているのです。

飯田)大統領選までに。

鈴木)これと、イスラエルとハマスの話は少し違っていて、今回ガザからミサイルを撃ったのは、東エルサレムという、もともとパレスチナの人たちの首都と言われているところを、イスラエルが占拠しています。国際法的にここはパレスチナ人の土地であるはずなのですが、イスラエルは「ここは自分たちの土地だ」と言って追い出そうとした。これがきっかけでパレスチナとイスラエルの間のもめごとが東エルサレムで激しくなったのです。また、ラマダンの最中で、ラマダンの終わりになったときに、エルサレムのなかのアルアクサー・モスクという、イスラム教にとってみると非常に重要な聖地なのですが、「ここに入るな」ということで揉めました。それを見てハマスがミサイルを撃ったということなので、これはイランの大統領選や核合意とはあまり関係のないできごとです。

合意ができなければ保守派が大統領選で勝つ

飯田)現職イラン大統領のロウハニさんは穏健派と言われています。これは、穏健派にとっては追い風になりますか?

鈴木)もし合意できなければ保守派が勝ちます。ライシ師という人が出ているのですが、この人が勝つでしょう。しかし、合意ができたとしても、必ずしも穏健派が強いわけではありません。強い候補がいるわけではないので、必ず勝つということにはならないと思います。ただ、合意ができなければ確実に穏健派が負けるので、ようやく五分に戻る感じですね。

飯田)ではここで保守派が勝てば、また強硬なことを西側諸国に対して言って来るということですか?

鈴木)保守派になると、核開発がより積極的になる可能性があるので、ここできちんとルールをつくっておかないと、保守派になれば歯止めが効かなくなるという怖さはあります。

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