「台湾有事」では優位に攻撃を進められる中国の現状〜国防費を増額するバイデン政権の本気度

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月31日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。バイデン政権が初の予算教書を発表したというニュースについて解説した。

台湾の蔡英文総統(台湾・台北)=2020年8月12日 EPA=時事 写真提供:時事通信

バイデン政権が初の予算教書を発表

アメリカのバイデン政権は5月28日、予算編成の指針にあたる「予算教書」を議会に提出した。歳出総額は6兆110億ドル(約660兆円)規模で、国防費については、前年度から1.6%増額の7530億ドル(約83兆円)を議会で求めている。

飯田)バイデン政権としては初めてとなる、2022会計年度の予算教書です。国防費に注目が集まっていますが、どのようにご覧になりますか?

太平洋抑止イニシアチブ〜中距離ミサイルの問題

峯村)バイデン政権として、「本気で中国と闘って行くぞ」という姿勢が打ち出された予算だな、というのが私の印象です。特に気になったのは、「太平洋抑止イニシアチブ」という、2021年の頭につくった基金です。いままさに中国とアメリカの軍事バランスが太平洋のなかで崩れて来ているので、「太平洋に力を入れて中国に負けないようにしよう」というプログラムです。ここで最も注目しているのは、中距離ミサイルの問題です。いま、日本の近辺だけで見ると、中国は日本を射程に収めるミサイルを約1500発〜2000発持っています。

飯田)1500発〜2000発。

峯村)一方で日本やアメリカは、地上に配備する中距離ミサイルは持っていません。2000対0というのは、安全保障上、アンバランスで非常に危険な状況です。中国側からすると、「戦争しても勝ててしまうのではないか」という誘惑に駆られてしまうので、早急にミサイルをつくって配備しようという動きが加速すると思います。

台湾有事、尖閣有事が起きた場合、戦争を優位に進められる中国の現状

飯田)中距離核戦力の場合、日本やグアム、ハワイまでは届くけれども、アメリカ本土までは届かない。アメリカ側がこれに対抗するには大陸間弾道ミサイルを撃つのか、という話になります。

峯村)そうですね。

飯田)核の抑止力というのは、中国からすると「有利なのではないか」と思ってしまっている可能性が高い。

峯村)いまの状況だと思ってしまっていますよね。長距離ミサイルは、ほぼアメリカの方が優勢なのですが、中国は中距離弾道ミサイルの開発に力を入れています。動いているアメリカの空母を追いかけて命中させる、「DF21D」というミサイルも実戦配備されています。先ほども言ったような、グアムも射程に収めるミサイルも持っていることを考えると、もし台湾有事、尖閣有事になった際は、まず米軍基地や自衛隊基地をミサイルで木っ端微塵にするということで、中国が戦争を優勢に進める状況にあるというのが、残念ながらいまの現状です。

飯田)中国は一方で大陸間弾道ミサイルも持っているので、アメリカとしては、例えば東京がやられたときに報復として出すと。しかし、それによって今度はロサンゼルスなどを狙われるとなったときに、果たしてアメリカは撃てるのか。この問題について、日本にとってはまったく人ごとではないわけです。

峯村)本当にそうです。特に台湾有事などの場合は、真っ先に日本の米軍基地や自衛隊基地が狙われます。よく中国軍の幹部などが、「もしアメリカが台湾に手を出して来たら、ロサンゼルスを火の海にするぞ」というようなことを言っているので、あながちあり得ない話ではありません。かなり難しい状況に追い込まれることになります。

アメリカの中距離ミサイルは日本に配備するしかない〜日本は自前で持つのか

飯田)それに対抗するためのアメリカ側の中距離ミサイルとなると、配備する先はどこになりますか?

峯村)私もアメリカ政府の当局者や専門家らといろいろ議論をしていますが、消去法で行くと日本しかないのです。

飯田)そうなりますよね。

峯村)日本のどこに配備するのか。そもそも、日本が自前で持つのか、ということをこれから考えて行かなければいけない状況になっています。

ホワイトハウスで記者会見するバイデン米大統領(アメリカ・ワシントン)=2021年3月25日 AFP=時事 写真提供:時事通信

「戦争を起こさないためにミサイルを配備する」という議論が必要

飯田)この話題になると引き合いに出されるのが、1980年代初頭のヨーロッパにおける状況です。旧ソ連が中距離ミサイルを配備しようとしたところで、焦ったドイツが動いて、最終的にはアメリカの政権に中距離ミサイルを配備するという確約を取ったわけです。しかも、自分たちでも共同管理をするという話にまで持って行った。

峯村)あれはドイツの方がイニシアチブを取って、「私の方が置くよ」という形でアメリカ側を引き込んだのです。このミサイルの議論は、私も以前から取材して書いているのですが、日本で語るとタブーになってしまうのです。「そんな怖いことを言っていたら、戦争になってしまうではないか」となるのですが、これはまったく逆の発想で、「戦争を起こさないためにミサイルを配備するのだ」というところが大事だと思います。

アメリカのミサイルを置くときには「核の持ち込みを許すのか」ということも議論するときが来た

峯村)さらに「アメリカのミサイルを置くのか置かないのか。置いたら地元の人が反対するのではないか」という議論ではなく、どのように中国との戦争を避けるのか。そのためにどのくらいのミサイルがいるのか、そのミサイルはアメリカのものなのか、自衛隊のものなのか、共同管理のものなのか。そのようなことを日本がまず率先して考えるべきだと思います。

飯田)ミサイルの弾頭には何が乗るのか。当然、核だってアメリカは選択肢としてきちんと並べて来ますよね。

峯村)並べて来ますね。そこは線引きとして、「核兵器をもたない、つくらない、もちこまない」という3つの原則が日本にはあります。通常型で核を積まないものにするのかどうか。もしくはその核を許すのか。そこも含めて国を挙げた議論をするときが来ているのだと思います。

戦略的な曖昧性

飯田)他方、戦略的に考えると、そこが曖昧である方が、より相手に対しての抑止になるのか、というところもありますよね。

峯村)そこはありますね。アメリカ側もいま相当危機感を持っていて、昔はわかりやすくグアムに爆撃機を置き、何かあったらその爆撃機を南シナ海に飛ばす、ということをやっていました。しかし、いまはグアムには置かず、ローテーションでいろいろなところに回すような形を取っています。あえて「戦略的な曖昧性」という形にして見えないようにする。2020年8月には爆撃機が、いろいろなところから計6機も飛んで来たということがありました。

飯田)「やるときはどこからでもやれるぞ」と。

峯村)インド洋からも2機飛んで、グアムからも飛ぶ。さらに米国本土からも飛ぶということで、中国を包囲するような形で飛んでいるため、かなり緊迫して来ています。

「台湾有事の危機」に世界中の注目が集まっている

飯田)そのようにして、「動くなよ」というメッセージをいろいろな形で送ろうとしている。

峯村)そういうことですね。私も2020年、ある月刊誌に「中国軍による台湾有事シナリオ」というものを書きました。そのときには、「お前は何を言っているのだ」、「朝日新聞のネオコン」などと、散々言われました。しかし、いまようやく時代が追い付いて来て、アメリカの高官などからも「台湾は危ない」という話が出て来ました。僅か1年弱で危機が高まって来ているということが言えると思います。

飯田)世界中の注目が集まって来ている。

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