ワクチン接種が成功しているところは民間のサポートがうまく行っている〜新しい公共を考える

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月25日放送)に元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が出演。「新しい公共」について解説した。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

「新しい公共」とは何か

この時間はコメンテーターの松井孝治氏に、「新しい公共」というテーマについて訊く。

飯田)松井さんは、PHPから刊行されている「Voice」7月号に寄稿されていますが、このコロナ禍でさまざまな面が浮き彫りになりました。行政がどういう仕事をするべきなのか、あるいは我々にとって、どういう位置づけなのかということも議論になっています。そのなかで、政治家との関係等々でも疲弊している官僚の方々の苦境などが伝わって来ました。そこで「全体をどう変えて行くべきなのか」ということが議論されて来ましたが、松井さんは民主党が政権を担っていた時代、その前の野党側から政策を提言されていたころも含めて、ずっとこの問題に関わっていらっしゃいます。

阪神淡路大震災のときに出会ったボランティアの存在

松井)阪神淡路大震災のときに私は官邸に勤務していたのですけれど、初動が悪くて、皆さん一生懸命やるのだけれど、うまく立ち行かない。そのとき、学生がリュックを背負って来て、長靴を履いて現地に入り、救命救援活動を一生懸命やってくれたのです。反社会的勢力の方々ですら炊き出しをしていました。

飯田)そうでした。

松井)そのとき、私は官邸という権力の中枢にいて思ったのですけれど、国民の生命や財産を守るのは政治の役割だと言います。しかし、それですら人々の力を借りた方がいいし、人々は自分の行動が世の中の役に立っていると、しんどいけれども生き生きするのです。震災対応や災害ボランティアもそうですけれど、それだけではないですよね。

「あるときは支えてもらうけれども、あるときは支える側に回る」ということを上手にオーガナイズする

松井)学校の教育でコミュニティ・スクールというものがあります。学校と地域の人たちが、一定の権限を持って運営に参加するものですが、「先生方や教育委員会、文科省が悪い」と言っているだけではなくて、学校教育に自分たちができることで協力して行く。親御さんだけではなく、自分の子どもはとっくの昔に卒業してしまったというおじいちゃん、おばあちゃんもそうだし、若い夫婦でまだ子どもがいないという人もいらっしゃいます。そういうところで総合学習の手伝いをする。あるいは防犯ネットワークをつくって見守りをして、警察官のパトロールを補助するなど、自分たちができることをやろうとする動きが全国的にあるのです。

飯田)防犯のネットワーク。

松井)今回のワクチンもそうです。もちろん医師会の先生方は公共的な仕事ですが、うまく行っているところは、自衛官のご家族の方々が大規模接種会場の整備にボランティアで参加されるなどしています。官だけが社会のために役立つということではなく、人々は、「あるときは支えてもらうけれども、あるときは支える側に回る」ということを上手にオーガナイズできているところが、町で言うと栄えている。行政サービスや公共サービスが豊かになっているのです。

民間の人のサポートがうまく行っている学校は進学成績までよくなる

松井)行政や公務員だけが行政サービスや公共サービスをつくるということではなく、公共輸送も株式会社、または地域の第三セクターなどが一生懸命やっているわけですから、それを少し捉えなおす。「人の役に立つということが、自分のある種の充足感になるような社会をどうつくって行くか」。それがうまく行っている学校などは、進学成績までよくなっているのです。うまく行っている地域では、荒れている部分がなくなって行くのです。

飯田)人の役に立つということが。

松井)私がそうでしたけれど、22歳で大学を卒業して試験に受かった公務員の人たちが、一生支えるということではなく、一部の野党議員がしているように、その人たちだけに重しを全部被せていじめるということではなく、もっと民間の知恵のようなものをサポートして行く。そのような社会における公務員のあり方も、変えて行かなければいけない時期に来ているのだと思います。

いろいろな方々が協力して「何ができるのか」を考える〜行政を提供する側と受ける側の垣根をなくす

松井)フルタイムの公務員だけがお役所仕事をやるのではなく、ワクチン接種がうまく行っている自治体のように、いろいろな方々が協力して「何ができるのか」を考えて行く。行政を提供する側と受ける側の垣根をなくすことが必要なのです。受ける側は提供する側に文句ばかり言っているのではなく、自分たちに何ができるかを考える。そして行政マンは、謙虚になって自分たちの仲間として受け入れて行く。

飯田)垣根をなくす。

松井)そこの感覚を変えて行くべきなのです。役人だけを叩いたり、一生懸命汗をかいている方を叩くだけではなくて、「自分たちに何ができるのか」という、ケネディ大統領の話と一緒ですよ。

コロナワクチン接種を機に、公共のあり方を考えるべき

飯田)まさにそれを思いました。自分たちに何ができるのか、してもらうのではなくてという。

松井)アメリカで、ドラッグストアの人などが集中的に研修を受けてワクチンを打つ側に回っているのは、彼らのよさがあるわけです。我々もいま、うまく回り始めているのはいいことですから、これを機に、公共のあり方を考えて行くべきです。「官を開く」という言い方を私はするのですが、「お役所を開いて行く」という感じで、もっと人々の協力を得るべきなのです。

毎日株主総会で吊し上げられるような国会対応をしていては、有能な人は来ない

飯田)野党などの国会対応で、「民間の人を入れる」ということは過去も検討されています。官僚や内閣人事局にいた人などと議論したりすることがあるのですが、国会対応で、ある程度の地位まで行くと答弁もしなければいけない。しかし、ここは民間の人にできるかというと難しいかも知れないと。松井さんが前にこの番組にご出演されたとき、国会対応は毎日株主総会で吊し上げられるようなものだとおっしゃいました。民間の人たちがそれに耐えられますか?

松井)なかなか耐えられない。あんなことをやっていたら有能な人は来てくれないですよ。誰かを叩いて溜飲を下げるようなことをやったって、それで人々が幸せになるならいいですけれど、なりません。「私は国会に出て答弁するようなことはできないけれど、自分のできる知恵を出せます」という人、「世界の情勢を知っているから、それをインプットします」という形で知恵を出してくれる人がいてもいいと思います。行政の現場で最近、PPP(官民連携)という概念もありますけれど、街づくりなどでは、お役所の人よりも地域の人の方が、実際の街づくりで商店街を再活性化することができるかも知れません。

かせぎができて半人前、つとめができて半人前、両方合わせて一人前

松井)大阪の上方落語専門の寄席「天満天神繁昌亭」をつくったのは、天神橋筋商店街の理事長で瀬戸物屋さんをやっている、土居さんという方です。「かせぎができて半人前、つとめができて半人前、両方合わせて一人前」、要するに難波の商人は稼ぐだけではなく、「務め」を果たさなくてはいけないというのは、土居さんから教えてもらったことです。

飯田)務めというのは仕事の話ではなくて。

松井)そうです。例えば街づくりのために、何か役に立つようなことまでやらないといけない。自分の商売だけやればいいというものではない、それは野暮というものですよと。日本人には本来、その感覚があるのです。

飯田)近江商人にも世間よしというのがありますものね。

松井)そうです。三方よし。それをみんな持っているのです。近代国家を形成して、官僚を養成した人たちが国家を担うというのは、それ自体はいいことです。いいことだけれども、いま官僚だけに重荷を背負わせてしまって、ほとんど死にそうになっている。『ブラック霞が関』という本を書いて、役所を辞めてしまった千正くんという、とても素敵な相撲部出身の男がいるのですけれど、本当に繊細で優しい男で、彼は自分の身を投げうって役所の人たちがもっと生き生きと働ける環境をつくりたいと、自分の生涯をそれに捧げるという人です。

役所の人はみんな寄席に行け

飯田)成功や光の芽のようなものを、1個1個大切にして行かないと、それをまた批判で潰すことをして行くとこの先は暗いですね。

松井)それと同時に役所の人たちも、もっと人々に交わるということをしないといけないですよね。もちろん高額接待は論外ですが、「みんな寄席に行け」と言いたい。人々がどこで笑い、どんな毒舌に頷いているのか、もう少し世間を知らないとダメだし、彼らに世間を知るだけの余裕を与えてあげないといけません。週末もなく、昼も夜もなく働きづめで叩かれて、心を病んで辞めて行く人をつくるような社会は幸せにならないですよ。

飯田)まさに千正さんもインタビューで答えていらっしゃったと思いますけれども、厚労省はソーシャルワーカーなどの現場の人たちのところに行って話を聞いて来て、それを政策に活かすという役所だから面白かったのに、いまはそれができないと。

松井)「それができるなら、いくら残業しても私たちは平気です」と彼は言います。そうではなく、叩かれて、ミス探しを徹夜でして、みんな心を病んで行くのです。「現場の悩みを聞いたり、相談に乗ったりするのであれば、私たちは休日だって働きますよ」と。あまり働かせ過ぎてもよくないけれど、そういう心意気を引き出すような社会や国をつくらないとダメだと思います。

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