中東から南シナ海、インド太平洋へ軍事資源を集中したいアメリカの意図

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月30日放送)にエコノミストで複眼経済塾塾頭のエミン・ユルマズが出演。バイデン大統領がイスラエルのベネット首相と首脳会談を行うというニュースについて解説した。

米上下両院合同会議で演説するバイデン大統領(中央)(アメリカ・ワシントン)=2021年4月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

バイデン大統領〜イスラエル首相とホワイトハウスで会談へ

アメリカのバイデン大統領は、12年ぶりに政権が交代したイスラエルのベネット首相を近くホワイトハウスに招いて首脳会談を行う考えを示した。アメリカはイランとの核合意の立て直しを目指しているが、核合意に反対の立場のベネット首相との間で、どのような議論が行われるかが焦点となる。

飯田)イスラエルの外相がUAEを訪問するなど、イランとの核合意に関して、牽制球を投げ来ているという感じがします。イランとの核合意はどうなりそうですか?

ユルマズ)核合意は結ばれて、復活するのではないかと思います。もともとオバマ政権時代にバイデンさんが主導していた話でもあります。もう1つ、イランではタカ派の大統領が当選しましたが、「彼が就任するまでにはまとめたい」という意向があります。

飯田)政権交代してタカ派になったから、これで核合意が潰れる可能性があるので、その前にということですか?

自分が大統領に就任する前に核合意を復活させたいイランのライシ新大統領

ユルマズ)逆です。新大統領のライシ師としては、自分が就任する前にまとめてもらった方が助かるのです。

飯田)「前任者がやってしまったのだから仕方ない」と言いたい。

ユルマズ)核合意が復活して制裁が解除されれば、日量150万バレルのイラン産原油の輸出が再開されるので、相当経済にとっては助けになるのです。彼もそういう人の不満が溜まっているから当選したわけです。経済的な理由は大きいですからね。

飯田)そうすると、イランは経済的にも苦境だから、何とかそこで凍結した資産も取り戻したい。

ユルマズ)口では「反対」と言いながらも、できれば自分が就任する前にまとめて欲しいという強い意志が動いていて、「この話はまとまるのではないか」という観測が強いのです。28日、イラン支援の武装勢力とアメリカ軍が中東でやり合っているにも関わらず、原油価格が反発していないということは、「まとまるのではないか」という観測が一部ではあるのだと思います。

アメリカにとって重要なのは中国との対立であって、中東ではないアメリカ

飯田)これでまとまる流れになって行くと、中東情勢は全体的に落ち着く方向になる。

ユルマズ)そうですね。アメリカにとって、中東の重要性は後退したのです。重要なのは中東ではなく、もしくはテロとの戦争、イスラム過激派との戦争ではなく、中国との対立、冷戦なのです。そちらに軍事資源を集中させたいのです。

飯田)中国に。

ユルマズ)そうなると、そこに力を使いたくないから、できればもう中東は落ち着いて欲しいのです。その意味では、イスラエルにもイランにもちょっと落ち着けと。そういうことを言いたいのではないでしょうか。アフガニスタンから撤退するのも同じ話です。もうアメリカはインド太平洋に力を置きたい。そちらにすべてのリソースを使いたいので、他のところで争いごとが起きて欲しくないのですよ。

イスラエル、イランの次にはトルコの長期政権が変わるか

飯田)アメリカが東アジアにシフトして行き、中東におけるプレゼンスが減って来ると、そこにイランやロシア、トルコなどが出て来るということにはならないのですか?

ユルマズ)実際に出て来ています。シリアの内戦にロシアが介入したので、アサド政権がそのまま存在維持できているではないですか。イランもそこに入っていますし、イラクではシーア派が強いです。サウジはサウジで、今度はイエメンと戦っています。トルコはいろいろなところに手出ししていますが、私はイスラエルの政権が代わり、イランの政権が代わったので、次はトルコの政権が変わるのではないかと思っています。トルコも2002年からやっているので、もう代わって欲しい。

「国交を正常化して喧嘩しないで欲しい」アメリカ

飯田)そうなると、アメリカとしては、「地域覇権は地域の国々に任せる」くらいの感じになって来ているのでしょうか?

ユルマズ)そうですね。アメリカの中東政策は、イスラエルの安全保障という観点に立っていました。その意味で、強引ではありましたが、トランプ政権はサウジのムハンマド・ビン・サルマンさんと仲がよかったから、アラブ世界とイスラエルを結び付けたのです。その流れはトランプさんだけの話ではなく、アメリカの国家政策としては、「国交を正常化して、喧嘩しないで欲しい」というのが本音だと思います。

今後は陸路作戦はやらず、海に注力するアメリカ〜中国を見据えて南シナ海、インド太平洋に

飯田)確かにここ最近のアゼルバイジャンとアルメニアのときも、昔であればアルメニアの人たちは、一定のプレゼンスがアメリカ国内でもあるので介入するかと思いきや、静観でしたものね。

ユルマズ)アルメニア人は、アメリカでのロビー(活動)を積極的にしているので、強いのですよ。おっしゃる通り、アメリカとしては中東、例えばアフガニスタンなどにも軍事リソースを置きたくない。2020年につくったアメリカ海軍の今後10年間の計画でも、戦車などは、10年以内になくそうと。今後は陸路作戦はやらず、海に注力すると言っています。つまり南シナ海、インド太平洋に注力するということで、戦略上は、中国をけん制するということです。

飯田)かつて戦車を強化して、「強力なソ連の戦車にヨーロッパ大陸でどう向き合うか」ということがあったけれども、まさに軸が変わった。

陸路の部分は、トルコとドイツの陸軍に任せたいアメリカ

ユルマズ)それがアメリカ海軍の今後10年間の計画では明らかに出ているので、できれば戦車などの戦力は他の国に任せたい。ドイツは冷戦終結後の東西ドイツ統一後に、軍を縮小しました。ですが、「もう1回、自分の防衛は自分でやれ」と。また、トルコはNATOではアメリカの次に大きい軍隊を持っています。

飯田)NATOの主要国ですものね。

ユルマズ)いまの政権はアメリカと対立して来たので、政権が代わってよりアメリカ寄りの政権が来れば、そういう陸路の部分は、トルコとドイツの陸軍に任せようということになるのではないかと思います。

飯田)トルコはどちらかと言うと、ロシアの兵器を入れたりしていますよね。

ユルマズ)それも多分変わるのではないかと思います。

飯田)トルコはロシアや中国というところと、アメリカをはじめ西側諸国のいいとこ取りをしようという戦略ですか?

ユルマズ)その通りです。だからNATO加盟国でありながらも、ロシアからの観光客はたくさん来るし、天然ガスも買っているので、ロシアとも仲よくしようと。一方では、中国に投資して欲しいから、中国ともうまくやろうと。それでトルコもパキスタンも、「ウイグル人のジェノサイド」とアメリカが言っているのに、何も言わないのです。

お金のために中国に何も言えないパキスタン、イスラム諸国、トルコ〜そういう国々を中国の借金の束縛から救うのも、日米のミッション

飯田)同じトルコ系民族のはずですよね。もともと「東トルキスタン」と言って、国をつくったのだから。

ユルマズ)それなのに、人権問題に対して何も言っていません。それは中国とお金でつながっているからです。パキスタンも何も言いません。アラブ諸国も中国批判をしないのです。中国がいちばん大きいお客さんだからです。

飯田)イムラン・カーン首相がインタビューで聞かれていましたが、答えなかったですね。

ユルマズ)パキスタンは対インドで中国の支援を必要としていて、お金もたくさん借りているから、中国には文句を言えない。でも、ある意味で恥ですよね。イスラム諸国がそうやって中国に、同じイスラム教徒が、トルコの場合は同じ民族がそういう迫害を受けているのに、何も言えないということは、本来であればあり得ない話です。

飯田)そうですね。

ユルマズ)そういう国々を中国の借金の束縛から救うというのも、日米の今後のミッションです。お金を貸すので、借金を中国に返せと。今後、そういう方向で動くと思います。

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