台湾有事の際、アメリカは中国の「第一列島線」のなかで戦えるのか〜そのとき日本は

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月6日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の神保謙が出演。米バイデン政権が820億円の武器を台湾に売却することを決めたニュースについて解説した。

台湾の蔡英文総統(台湾・台北)=2020年8月12日 EPA=時事 写真提供:時事通信

バイデン政権が台湾への武器売却を決定

アメリカのバイデン政権は、日本円でおよそ820億円にのぼる武器を台湾に売却することを決めた。台湾への軍事的な圧力を強める中国に対抗するため、武器の売却を通じて関与を続ける姿勢を示している。

台湾への武器売却はトランプ政権からの既定路線〜今回の決定は小規模

飯田)「自走砲」と呼ばれる車両に搭載された大砲、その関連の装備品などということです。米中の関係というと、トランプ政権から構図が変わっていないように見えますが、どうご覧になりますか?

神保)今回の武器売却の決定も、おそらくこの問題を見ている人にとっては既定路線で、想定内なのだと思います。武器売却に関しては2018年、トランプ政権のときの議会で、「アジア再保証推進法」という法律がほぼ全会一致で決まっています。アメリカ議会は民主・共和両方なので、「超党派の推進」という性格が強くあります。トランプ政権も、台湾に対する武器の売却は、累計で11回くらい行っています。前回の規模は2500億円ほどで、空対艦ミサイルなどの華々しい装備を移転していたので、今回の決定は極めて小規模だと思います。

台湾を防衛する体制をアメリカがどうつくって行くか

飯田)これは姿勢を示すというメッセージの意味の方が大きいのですか?

神保)もちろんです。台湾に対する武器売却はこれからも承認を続けて行くということなので、台湾関係法に基づき、「台湾自身が国防の任務を果たせるような能力を台湾と協議し、提供して行く」というのがアメリカの重要な役割です。同時にアメリカの台湾に対する防衛コミットメント、「もし有事になったとき、台湾を防衛する体制をアメリカがどうつくり上げて行くか」ということが、もう1つの大きな問題ということになります。

中国が台湾を重要視する2つの見方

飯田)インド太平洋軍の新旧の司令官が「6年以内に何か起こるかも知れない」ということを議会で証言しています。その辺も含めて、いままでは曖昧戦略と言われていましたけれども、だいぶ明確化して来ているのか、それとも姿勢は変わらないのですか?

神保)問題意識が高まっていることは間違いないと思います。デービッドソン前インド太平洋軍司令官の議会証言は衝撃的でしたが、いろいろな解釈があります。1つは中国の政治サイクルで、仮に習近平国家主席が3期目、4期目を狙って行くとすれば、台湾問題を解決しながら国内の正当性を固めることをしなければなりません。あとは人民解放軍が重要な記念を迎えるので、そのときまでに台湾を回収するという政治的な解釈はし得るものなのです。

第一列島線のなかでアメリカ軍が本当に戦えるのかどうか

神保)しかし、軍ですから、やはり能力を見ていると思います。これから中国軍が台湾に対して揚陸作戦を行えるだけの輸送能力、展開能力、継戦能力、そして制空権、制海権の維持というところを総合パッケージとして、徐々に本格的にできるようになっているのか。「ここを見定めなくてはいけない」というのが、デービッドソン前司令官の問題意識だったと思います。アメリカが「それはさせませんよ」というだけの抑止力を維持できるかどうかが大きなポイントです。中国はたくさんのミサイルを持って、アメリカ軍を台湾に近付けさせないための能力を高めていますから、アメリカ軍にとっては、第一列島線と呼ばれる日本の南西諸島から台湾、フィリピンにかけての線のなかで、本当に軍を展開させて戦えるのかということを証明して行かなければいけないわけです。この厳しい環境のなかでそこを確立するのが、今後の国防戦略のなかの最大の論点だと思います。

米上下両院合同会議で演説するバイデン大統領(中央)(アメリカ・ワシントン)=2021年4月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

総合作戦で進める、または長射程ミサイルなどで外側から攻める

飯田)中国側はA2ADと言われているような、第一列島線のなかに入って来るなという戦略をずっと取っていたり、空母キラーと呼ばれるような弾道ミサイルなども装備していると言われていて、なかに入って行くことが難しくなっています。どういう手を打つのでしょうか?

神保)いくつか方法はあると思うのですけれども、それでもなかで戦うというのが1つです。同じ土俵で戦闘機や艦船などで押し合いの相撲をするのではなく、土俵を変えて行くのです。よく統合作戦とか、マルチドメイン作戦などと言われますけれども、宇宙、サイバー、電磁波というような領域を総合的に進めて行けば、中国に対して優位性を獲得しながら戦域のなかで戦えるかも知れない。もちろん中国もそういう対抗策を考えているわけですけれども。そういう総合作戦のなかで考えて行くというのが1つ。

飯田)総合的に進めて行く。

神保)2つ目は外側から戦うということです。長射程のミサイルや極超音速兵器、ハイパーソニックというようなミサイルによって、近付いて来る部隊や発進拠点となるような基地を叩いて行く能力を付ければ、「そう簡単に作戦ができないでしょう」ということになります。仮に「接近阻止・領域拒否(A2AD)」と言っても、その外側にいる戦力が万全であるならば、しっかりと抑止を発揮できるということです。この2つくらいの能力と作戦コンセプトを整えることが大事だと思います。

日本が基地や施設をどれだけ強靭化できるか、分散できるか

飯田)アメリカは自分たちの本土ではない、前進したところでやっているから、それができると思うのですが、他方、日本はいま直面する国土があるというなかで、どう日米で連携するべきですか?

神保)台湾とフィリピンもそうですけれども、日本は真正面なのです。もし危機が高まり、数時間以内に有事になった場合、即応できる体制を整えなくてはいけません。仮に攻撃を受けたとしても、すぐに復旧できる能力や別のファシリティ、空港や港湾を使えるようにしておくなど、さまざまな準備をしておかないと、アメリカ軍が「アクセスできなくなってしまったな」となれば、もしかすると「戦域内戦闘などはできないかも知れない」という形で、アメリカ軍が退いて行く誘因になってしまうわけです。

アメリカが東南アジアの国と一緒になって安全保障秩序を守って行こうという体制をどれだけ整えられるか

神保)従って、日本も基地や施設をどれだけ強靭化できるか、そして分散できるかということが大事になります。先日、オースティン国防長官が東南アジアを訪問しました。最後にフィリピンへ行った際、ドゥテルテ大統領が「訪問米軍に関する地位協定」の破棄を撤回しました。まだ軌道に乗ったとは言えない状況ですけれども、アメリカのなかには、分散配置を日本だけに負担させるのはきついという発想は必ずあると思うのです。だとすると、残された場所というのは、フィリピンやグアムしかないわけです。アメリカは、「グローバルな米軍の態勢見直し」を別途やっていますが、その際に「アジア、西太平洋の米軍の配置をどれだけ確保できるのか」ということが重要になります。アメリカ国防総省には、東南アジアを大事にして欲しいと思いますね。どれだけ彼らが米軍を受け入れることに対する、政治的なセンシティビティが高いかということを考えて付き合って行かないと、結局、アメリカが目指す「グローバル・ポスチャー・レビュー」はできないし、日本が便利だから全部日本にやらせようとなると、日本の心情も悪くなります。「一緒になって安全保障秩序を守って行こうという体制をどれだけ整えられるか」ということが、これからのキーポイントになると思います。

飯田)フィリピンに返還されたクラーク空軍基地やスービック海軍基地から出るというような、ああいう展開にしてはいけない。

神保)そうですね。すでにフィリピンは常駐できない状態になっているのですけれども、それでも2015年のアキノ政権のときには、フィリピンのなかの5ヵ所の基地において、アメリカ軍のまさにフリークエント、頻繁な部隊の展開ができるのです。

飯田)ローテーションで。

神保)これを通してやれば、必ずしも常駐しなくても動的に彼らが前方展開して行くことができるのです。このような拠点をたくさんつくることができるかどうかは、大事なポイントだと思います。

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