「努力する生産者」にとっての未来は〜廃止決定のコメ先物

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月11日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。廃止が決定したコメ先物取引について解説した。

コメ先物取引を扱う大阪堂島商品取引所=2021年2月19日、大阪市西区 写真提供:産経新聞社

廃止決定のコメ先物、取引激減

コメ先物取引の廃止が決まった堂島取引所の8月10日の取引は、国内のコメ先物市場がなくなることから積極的な売買を控える動きが広がった。出来高は109枚で、2021年6月の1日平均6016枚の2%程度まで激減している。

飯田)コメ先物は、生産者や卸売業者らが事前に決めた価格で、最長1年先にお米を売買することを約束するという取引です。収穫量による価格の変動を、ある意味でヘッジするという。

コメの先物がなぜあるか

高橋)先物がなぜあるかと言うと、いろいろな先物が多いのですが、将来、価格が変動するかも知れないし、いくらかわからないから、先に予約しておくということなのです。先に予約しておけば、それは確定するでしょう。コストや、ある意味で収入も確定するので、みんなが安心すると。そういうものが先物なのです。堂島自体は江戸時代のときからやっていて、世界最初の先物市場です。先物の歴史では、必ず教科書に出て来ます。堂島というのは、世界的なブランドでもあるのです。

飯田)江戸時代からずっと、先物も含めてコメの取引をやっていて、一時停止になったのが先の大戦の戦時下であり、統制経済をつくるためになくなったという。

自由市場であるから先物がある〜共産圏では成立しない

高橋)統制経済というのがまさしくそうで、将来の価格がわからないというのは、自由市場はすべてそうなのです。

飯田)相場で変動するからですね。

高橋)だから先物というのは、いろいろな商品であるのです。要するに自由市場だから。むしろ自由市場ではなかったら、先物の意味がないではないですか。逆に、そういうことなのです。

飯田)成立しないわけですね。

高橋)ある意味で共産圏では成立しないものなのです。自由市場ではなく、全部が管理市場であれば、先物はいらないでしょう。

飯田)政府が全部フィックスしてしまうのであれば。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

参加する生産者が少ないのは農水省が補助金をたくさん配るから

高橋)先物はある意味で資本市場の裏側のような話で、自由市場があるということの証なのです。今回もコメ先物がダメだというのは、農水省の方が「参加する生産者が少ない」という理由なのだけれども、補助金を配ればそうなりますよ。補助金を配れば安定するでしょう。先の価格が読めてしまうから、先物がいらなくなってしまうのです。だからある意味で「参加者が少ないでしょう」と言うのは、農水省がたくさん補助金を配るからということになってしまうのです。

飯田)参加者が少ない条件をつくっておきながら、参加者が少ないことを理由に廃止させるというのは、何かマッチポンプのように思いますね。

多額の補助金のために、品質改良の努力をせずに普通の米をつくって補助金をもらった方がお金が多く入る〜農政の歪みがここにすべて出ている

高橋)ある意味で補助金もメリハリをつけて配ればいいのですが、今回のようにコロナ禍になって、3千何百億という多額の補助金になったのだけれども、これを一律で配ってしまうから、普通のお米で補助金をもらった方が、コシヒカリを一生懸命つくるより入って来るお金が高くなってしまうのです。そうすると、生産者からすれば、「これは何なの?」という感じになるのです。

飯田)市場で競争があれば、当然ながら品質改良しようと努力する。品質をよくすればお金もたくさん入る、というような努力が……。

高橋)いらなくなってしまう。ある意味で補助金のマイナス効果なのですけれどね。補助金をたくさん出して、それに群がっている人も多いから、「先物なんかけしからん」と言う議員も出るのです。先物は将来の価格を先取りするところがあって、コメの自由な価格形成にはなるのだけれども、それに反対する人もいる。「先物なんかやってけしからん、俺たちの価格でやれ」と言う農協のようなところもある。そういうものがたくさん絡んでいて、今回の先物廃止というのは、農政の歪みがここにすべて出ているのだと私は思います。

補助金を出し過ぎることによって生産者のインセンティブを奪ってしまう

飯田)補助金について考えると、補助金を出す側、農水省などは食料自給率の維持のためとか、食料安全保障のためだと言いますが、これは補助金だけでやるものではない。

高橋)ないでしょうね。補助金というのは、インセンティブを与えることは重要なのだけれども、一生懸命コシヒカリをつくるよりも、普通のお米で補助金をもらって、何もしなくても普通のお米をつくった方が得というのはどうなのでしょうか。一部を補助するのは悪くないと思いますが、やり過ぎると、生産者の「新しい品種で美味しいお米をつくってたくさん稼ぐ」というインセンティブを奪ってしまいますよね。

飯田)市場を歪ませることになってしまう。

高橋)だから価格を歪ませるというか、価格について金融業者がやるのはけしからんと思っている自営の人は反対するし、補助金をたくさん貰っている人から見ても、「先物を活かすということは、将来の価格を安定させてしまうから、補助金の減収につながるかも知れない」ということで、いろいろな人が反対している。それで今回、このような結果になってしまっているのです。

なくなってしまうと、そのときの政府の価格支持頼みになってしまう

飯田)「金融の人がやるのはけしからん」という論調のなかに、コメ先物は戦前にやっていたから、戦前のイメージしか残っていない部分がありますが、錬金術のようにお金を安く買い、高く売り抜けるという、投機的なイメージがまだ残っている向きもあるようですね。

高橋)すぐ「投機」と言ってしまうのだけれども、「投資」と「投機」の区別ははっきり言って難しいのですがね。どこの国でも先物はあるし、どんな商品にもあるということを考えてもらえば、お米だけなくすというのは変でしょう。

飯田)そもそもの成り立ちとして、リスクを少なくさせたり、確定させることに意味があるのだけれども。

高橋)これがなくなってしまうと、将来の価格が本当にわからなくて、そのときの政府の価格支持頼みになってしまいますよね。

飯田)かつては夏辺りに米価をどうするかということで、農水省の前でさまざまなデモや陳情などがあった、あの形。

高橋)そこに戻って行ってしまう。介入を少なくして、減反政策をなくして行っているのでしょう。いい方向なのに、これは少し違いますね。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

JAが流通を抑えてしまっている〜農家を企業的にやろうとする人には先物があった方が楽

飯田)JA以外の流通経路でやろうとするような、さまざまな業者や米卸業者などもありますけれども、そこのシェアが広がって行かないというところがありますか?

高橋)JAが流通を抑えてしまっているところがあります。農家を企業的にやろうとしている人にとってはJAも余計だし、そういう人は先物があった方が楽なのです。企業的にやるような人のための政策にはなっていないのですよ。

JAは独禁法違反にはならないのか〜企業的にやりたい農家にはネックに

飯田)高橋さんは公正取引委員会にもいらっしゃいましたよね。これは独占禁止法違反にはならないのですか?

高橋)微妙なのです。確かに流通独占というものがあって、激しいのです。ただ、農協自体が組合組織だから、独禁法の適用除外になるわけです。だからやりにくくて仕方がない。

飯田)それこそ流通だけでなく、斡旋や金銭面も含めてやっていますよね。

高橋)完全に独占ですよね。企業的な農家経営を阻害する存在であることは間違いありません。

飯田)いまとなっては。

高橋)かつては零細農家だけが集まるのだから、その意味があったけれども、いま企業的にやろうという人にしてみれば、農協もすごく障害ですよ。

飯田)その辺は立場によって見方もいろいろと変わるかも知れませんが、ただ、いま成り手不足であるということが現場では言われているなかで考えると。

高橋)企業的にネット通販などでやる方がスッキリするのです。農協はそれとまったく対極でしょう。企業的にネット通販で海外輸出するという人から見たら、「農協なんて、なぜあるの」と思いますよ。

飯田)むしろ地方の農協のなかには、頑張って海外にも売って行こうと、企業的な活動をやるような生産者も出て来ているなかで。

高橋)一般的にはやはり協同組織だから、もたれ合いというか、助け合いの精神でやりますからね。協同組織のなかに企業的な要素は入りにくいですよね。

農業で必要な分野を育む体制になっていない農水省

飯田)なるほど。これを全体的に変えて行くということはできますか?

高橋)大変ですよね。大きい企業をつくろうと思うと、農地の話などでいろいろな制約があるでしょう。だから特区をつくって養父市でやろうとしたのです。うまく行っているのに、農水省の方は、「あれはうまく行っていません」と逆のことを言うのです。企業的にやろうとしているところも潰すし、今回の先物のような資本主義の最先端を行くものも潰すし、という感じですよ。

飯田)なかなかそこが変わって行かない。

高橋)そうです。企業のようにやれば、海外輸出もできるのです。それで種苗法も改正しているから、いい品質でたくさん外に出せるのです。

飯田)きちんと著作権的な権利は保持した上で、外に出すことができると。

高橋)でもそれに反対する人もたくさんいて、今回の種苗法改正のときも随分反対していたでしょう。でもこの間、韓国で似たようなぶどうが出てしまったという話ですからね。種苗法をうまくやらないから、こういうことになってしまったのです。

飯田)当時はまだ種苗法がなかった時代に出てしまったものですかね。

高橋)どうなのでしょう。権利を保護して、著作権を守って企業的にやるというのは、これからの農業で必要な分野なのに、農水省はその体制になっていないですね。

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