アメリカが中東をやめても、中東はアメリカをやめない 〜バイデン大統領「アフガン駐留米軍撤退に変更なし」も

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月12日放送)に神戸大学大学院法学研究科教授でNPO法人インド太平洋問題研究所理事長の簑原俊洋が出演。「アフガニスタン駐留米軍の8月中の撤退に変更なし」というバイデン大統領の発言について解説した。

米上下両院合同会議で演説するバイデン大統領(中央)(アメリカ・ワシントン)=2021年4月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

バイデン大統領、アフガニスタン駐留米軍の8月中撤退に変更なしと発言

アメリカのバイデン大統領は現地8月10日の記者会見のなかで、アフガニスタンでのアメリカ軍の撤退について、「アフガンの指導者たちは結束し、自らの国家のために戦わなければならない」と述べ、8月末としているアフガニスタン駐留アメリカ軍の撤収方針に変更はないとの考えを示した。

飯田)反政府武装勢力のタリバンが攻勢を強めていて、複数の州都を落としたということが日本でも報じられていますが、ここは変わらずということですか?

簑原)9つの州都を支配下に置いたと報道されています。これは今後、広がって行くのではないでしょうか。タリバンは極めてタフで、戦い慣れていますよね。

タフで戦い慣れているアフガニスタン

飯田)9.11同時多発テロが起こってから、今年(2021年)で20年ということになると、その節目のようなものをバイデン政権は意識していますか?

簑原)おそらく中間選挙の意識もあるのではないでしょうか。このような状況において勝ち目がないと判断し、言葉は悪いのですが、アフガニスタンを完全に切ってしまったのだと私は理解しています。映画の『ランボー3』で、ランボーがソ連と戦ったではないですか。

飯田)『ランボー3/怒りのアフガン』、ものすごく覚えています。

簑原)台詞のなかの1つで、「絶対にアフガン人は負けない、彼らはタフだ」というものがあります。「ソ連が入って来ても必ず勝つし、将来、アメリカが入って来ることがあっても絶対に負けない」という。これが予言めいていますよね。

飯田)確かにそうですね。

簑原)アメリカの政治家のトップたちは、『ランボー3』から決断をするべきだったのではないかと思います。

飯田)イギリスがかつて大英帝国だった時代にやはり統治しきれず、ソ連もダメ、アメリカもダメ。そのような土地でもあると。

簑原)山岳地帯という地形もあります。ゲリラ戦に近い戦い方をしますので、どこにいるのかわからない。敵味方の区別もつかないということもあるため、大国にとっては戦いづらい場所でもあるのではないでしょうか。

アメリカが中東をやめても、中東がアメリカをやめない

飯田)アメリカとしてはここを退き、シフトとして東アジアに重心を変えて行くという流れにあるのは間違いないと思いますか?

簑原)おっしゃる通りだと思います。中東へのいままでのコミットメントを減らして行って、リソースが少なくなって来たということもあるのだとは思いますが、やはり中国に対して、より専念して行くということではないかと思います。ただし、アメリカが中東をやめるという選択をしたとしても、中東がアメリカをやめないのではないかなと思います。

飯田)中東がアメリカをやめない。

簑原)結局、アメリカの意思で中東へのコミットメントは変えることができない。イランもライシさんという新しい反米の大統領が誕生しましたし、問題がまた爆発してアメリカが介入せざるを得ない状況というのは考えられます。この辺りを、どこまでアメリカの政策決定者たちが織り込んでいるのかということは、個人的に関心があります。

バイデン大統領の最大の役目はトランプ政権という悪夢を終わらせたこと〜対峙するだけでは中国の行動を抑制できない

飯田)その辺のアメリカ外交全体の取り仕切りというか、大統領も当然、権限はあると思いますが、その中心は誰になるのでしょうか? 国務長官のブリンケンさんがいろいろなところを回っています。

簑原)ブリンケンさんはとても目立っていますし、オースティン国防長官も東南アジアを訪問しましたが、この辺りだと思います。

飯田)この辺りの人たちは、中国と対峙するという路線で行くことに変わりはありませんか?

簑原)対峙するということには変わりないですが、対峙するだけでは、中国の行動を抑制できないと思います。ここがバイデン外交の物足りなさというか、次の大統領がより若い大統領になれば、よりアグレッシブに行動して行く可能性はあるので、そこが求められるのではないでしょうか。バイデン大統領の最大の役割は、トランプ政権という悪夢を終わらせたことです。そこで彼の仕事の大部分は終わったのではないかと思います。

ホワイトハウスで指名受諾演説に臨むトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年8月27日 AFP=時事 写真提供:時事通信

実は反中ではなかったトランプ前大統領〜周りが反中姿勢しか取れなくなるように持って行った

飯田)東アジアに住んでいる我々としては、トランプさんの中国に対してのファイティングポーズを取るという姿勢は頼もしく見えた部分がありましたが、全体として考えると、というところですか?

簑原)どこまでがトランプさんだったのかということですよね。トランプさんの取り巻きは、いまのバイデンさんの取り巻きよりも、はるかに反中なのです。よりアグレッシブな姿勢で臨んでいました。ボルトン元大統領補佐官の本を読むと、トランプさんは台湾に対しての武器売却にも非常に慎重だったと。「なぜそのようなことをしなければいけないのか」と言ったというようなエピソードもありましたし、習近平さんに対しても尊敬していて、「お前のようになりたいよ」と言ったという情報もあります。世間一般に思われているほど、トランプさんは反中ではなかったのではないかと思います。むしろビジネスチャンスとして、中国を見ていたのではないでしょうか。

飯田)圧力をかけるところも、譲歩を引き出すための。

簑原)それもありますし、トランプさんが反中姿勢しか取れなくなるように、周りがうまく持って行ったのではないかと思います。

バイデン政権における左派の存在

飯田)基本的にその路線がいまのバイデン政権でも引き継がれている。他方、民主党政権では左派の人たちを含め、核の先制不使用についてもいろいろと議論が出て来ています。日本からすると、それでは抑止力が薄くなってしまうのではないかと心配する議論も出て来がちですが、全体の流れとしてはどうでしょうか?

簑原)いまのところアメリカ国内の選挙を見ますと、左派は勝っていないですよね。やはり民主党は中道が強いということは、いまのところ言えるのではないかと思います。左派は左派でいろいろと問題点があるのですが、他方では人権を重視していますので、中国への批判も、人権問題に関してはたくさんあります。この辺りは左派であっても、中国に対しては厳しい姿勢で臨むのではないでしょうか。

飯田)左派であっても。

簑原)問題は、左派はあまりにも人権を主張するので、ベトナムのような、対中国としては非常に大事なパートナーの国なのですが、自由がない国ですし、人権問題も多々あります。そこで人権問題を押して行ってしまうと、仲間にしたい国も離れて行く可能性があるので、このような人権を中心とした外交は、慎重にしなければいけないと思います。

今後、アメリカの中国への反発はエスカレートして行く

飯田)その辺を日本としては、地域がわかっているから調整しようということになって来るのですか?

簑原)日本のスタンスとしては、米中の間にうまく入り込んで、経済的には中国と関係を持ちたい。これはバイデン政権においては可能だと思います。しかし、この先は難しくなって行くでしょう。大統領も中国に対しては極めて強い態度で臨み、取り巻きも反中の姿勢を取って行くと、アメリカが一枚岩になって中国に対峙して行くことになります。いろいろな意味で中国に手を出して行きます。その最大のところが台湾です。台湾へのエンゲージメントをより強化して行く。これはバイデン政権でもやっているのですが、今回の武器売却も金額的には大したものではありません。自走砲を40両ほどです。これらのバランスは変えないので、おそらく将来の大統領はもっとしっかりとした兵器システムを大量に台湾に売却するでしょう。今度はそれに中国が反発する。そのような形でエスカレートして行くのではないかと思います。

飯田)その姿勢は、民主党も共和党もどちらも変わりませんか?

簑原)とにかくいまアメリカにおいて、反中が政治的にも最もセーフなスタンスですので、どちらも変わりません。

飯田)なるほど。論争も生まないし、党派対立もしないし、内輪揉めもしない。

簑原)ですが、中国と歴史的な和解をしたのはニクソン氏ということもあります。

飯田)共和党の。

簑原)共和党政権ですからね。いまの連邦議員を見ますと、「中国タカ派」は共和党の人が多いですね。ただ、彼らはトランプさんにかなりなびいていますので、この辺りをアメリカの有権者がどのように判断するのかというところです。

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