権力闘争始まる……自民党は「風」を頼りにする政党だったか?

「報道部畑中デスクの独り言」(第262回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自民党総裁選の行方について—

自民党本部

「新型コロナウイルス対策に専念をしたいという思いのなかで、党総裁選挙は出馬をしない、こうしたことを申し上げた」

9月3日、自民党総裁の菅義偉総理大臣は、総裁選への不出馬を表明しました。事実上の“退陣表明”です。この日、私は午前のニュースデスク、昼のニュースでは自民党臨時役員会が始まったことを伝えるべく準備をしていましたが、まさにニュースの放送中に一報が入り、一部のニュースを割愛し、速報として放送しました。

それまで菅総理は総裁選出馬の考えを崩していませんでしたが、この間、総裁選前の衆議院解散検討、役員人事の意向が伝えられました。党ナンバー2の二階俊博幹事長との会談が相次ぐなど、不穏な動きも続きました。1日1日と目まぐるしく変わる状況に、永田町界隈は「何が起きてもおかしくない」空気ではありました。

ニュースのあと、私は国会へ。周辺取材を進めていたところに、午後1時をめどに総理が記者団の取材に応じるとの一報。取材を中断して官邸へ。急きょ、本社から中継機材が搬送され、ニッポン放送でこのもようを生中継しました。冒頭はそこで発せられた菅総理の発言であり、不出馬の意向を臨時役員会で述べたということです。

「コロナ対策と総裁選の選挙活動、こうしたことを考えたときに、実際、莫大なエネルギーが必要であった。やはり両立はできない……」

菅総理はコロナ対策に専念する意向を示した上で、このように述べました。莫大なエネルギーというより、党内の「菅おろしのエネルギー」に気圧されたというのが偽らざるところでしょう。総裁選前の解散の検討、役員人事などという“小細工”が不発に終わり、もはや、万策尽きた形です。

自民党本部

「ぶら下がり」の場所に現れた総理は伏し目がちで、すっかり精気がなくなっていましたが、同時に何か憑き物が落ちた表情にも見えました。総理は「来週にでも改めて記者会見をしたいと思う」と述べて、記者の質問は受け付けず、2分足らずで取材を打ち切りました。記者からは「答えて下さい!」と激しい声が飛び交いました。

菅総理の政権運営は十分であったとは言えません。新型コロナウイルス感染拡大は、「デルタ株」の出現で収束の見通しはいまだ見えません。多くの人が自宅療養を強いられ、重症に苦しみ、医療現場は苦境に耐え、経済では飲食・観光業を中心に厳しい状況が続いていることは事実です。

一方、政権としての実績はどうでしょう。「国民のために働く内閣」を目指して打ち出した政策は少なくありません。デジタル庁の創設については、上手に育てれば、日本を大きく変える可能性があります。その基礎を約1年でつくり上げたというのは、菅総理でなければできなかったと思います。

その他、携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用という身近な生活の改革にも取り組みました。原発処理水の海洋放出決定、改正国民投票法成立、最低賃金引き上げ、重要土地利用規制法など……節目となる事項を処理して行きました。

コロナ対応にしても、「ワクチン接種の加速」については評価すべきでしょう。厳しい状況も、他の人だったらうまく処理できたのか……物事に「たら・れば」は禁物ですが、「運」も左右したと思えます。

菅総理の失策はやはり、「政局観のなさ」だったのではないでしょうか。総裁選前の解散の検討、役員人事などは最後の「あがき」にしか見えませんでした。

昨年(2020年)、菅内閣が発足したとき、さまざまな解散のシミュレーションをお伝えしたことがありますが、国民に新内閣の評価を問う意味でも発足直後に解散を断行すべきだった……そんな声も聞かれます。

自民党のポスター 「国民のために働く内閣」を目指したが……

菅総理は無派閥でした。しがらみがなく、さまざまな派閥を味方につけて昨年の総裁選を勝ち抜きましたが、求心力がなくなったとたん、周囲がくもの子を散らすように離れて行ったのも、無派閥ゆえのことでしょう。私は内閣発足当時、「現状維持、権力維持、したたか内閣」と名付けましたが、権力のもろさを改めて感じます。

今回の事実上の退陣劇には違和感をぬぐえません。所属議員たちが自民党総裁として1年前、民主的に選んだ人に対し、手のひら返しに砂をかけているように写るからです。

いつか来た道、権力闘争の過酷さと言えばそれまでですが、「組織とは何だろう」と改めて感じます。党内にはこういう事態に喜々としている人もいると言いますから、まさに「魑魅魍魎」ここに極まれりです。

この権力闘争は1ヵ月ほど続くのでしょう。候補と目される人たちは、派閥の領袖や党の実力者詣でに余念がありません。こうした流れで新総裁が決まっても、結局は“実力者”の思うまま、「首のすげ替え」で終わる可能性があります。

「党内の若手は自分の選挙をしっかりやりなさい。総理の支持率がどうだとか、そんなことだけで選挙が決まるわけではない」

「菅総理では選挙は戦えない」……そうした若手の声に対する二階幹事長のコメントです。何かと評判の悪い二階氏ですが、これに関しては「正論」と言えます。「選挙の顔」や「風」に頼る……自民党はそんな政党だったでしょうか?

今回の総裁選は、各派閥も誰を支持すべきか模索している状況です。派閥の締め付けに屈しない人たちが出て来るのか、選挙の顔に頼る人たちがどこまで自分を貫くことができるのか……。国民に投票権はありませんが、総裁選の決まり方は我々もしっかり見ておきたいと思います。(了)

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