今後の経済成長で岸田政権に求められる「いくつかのこと」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月5日放送)に経済アナリストのジョセフ・クラフトが出演。香港市場で中国恒大集団の取引が一部停止されたというニュースについて解説した。

2021年10月5日、会見する岸田総理〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/actions/202110/05bura.html)

香港市場で中国恒大集団の取引停止

香港証券取引所は10月4日、中国の不動産会社「恒大集団」と、不動産管理を行う子会社「恒大物業集団」について、株式の売買を一時停止すると発表した。

飯田)中国メディアは、別の不動産会社が恒大物業集団の株式51%を買収する予定と報じていますが、それもあって取引が停止されたということですか?

来年に向けて大きな成長は望めない中国 〜世界経済にも影響が

クラフト)はい。いよいよ政府が救済に乗り出したということだと思います。「共同富裕」を掲げている習近平体制では、政府が直接、資本注入して救済するというのは難しいので、中国系の会社が救済するということです。ここから少し落ち着いて来ると思います。習近平政権が企業全般に行っている締め付けについては、引き続き行われており、中国経済に重くのしかかる。したがって中国経済は来年(2022年)に向けて、大きな成長はできない。そうなると世界経済にも影響して来ますので、来年の株価がどこまで伸びるのかという不安はあります。

飯田)かつてのリーマンショックのときなどは、中国の成長が全体を引っ張った。

クラフト)その通りです。

コロナ禍で負債を抱える各国 〜どこかの時点で緊縮財政に切り替えなくてはならない

飯田)そのエンジンがいま、世界中のどこにもないということですか?

クラフト)そういうことです。さらに世界中がコロナ禍で負債を大きく抱えているので、どこかの時点で増税など、緊縮財政に切り替えて行かなければいけない。非常に難しい。リーマンのときは、金融機関の破綻に対して政府がバックアップしたけれど、「では、政府のバックアップは誰がするのだ」という問題もあります。今後、数年間は不安定材料が多いのではないかと思いますね。

恒大集団=2021年9月17日 Wang Gang / Costfoto/Sipa USA 写真提供:時事通信

アメリカもイギリスも引き締めに入ろうとしている 〜日本は黒田総裁の任期が終わる2023年4月が転換期に

飯田)中央銀行は「政府の銀行」などと社会の教科書でも教えていますが、ここがある意味お金を刷って、ファイナンスしていた部分です。それがどこまで続くのかというところで、各国そろそろ見極める時期に来ているのですか?

クラフト)そうだと思います。これ以上、今後もお金を刷って行くとインフレになる可能性もあり、最悪の場合はハイパーインフレになりかねない。そうすると、コロナ禍で生じた負債等をどのように消化して行くか。それが今後、数年に渡って問われて行くのだと思います。

飯田)インフレ等を見極めるなかで、売り上げをどうするかという話があります。アメリカの中央銀行は、そこにいま突き当たっているという。

クラフト)もうすでに足を入れていますし、イギリスもカナダも各国、引き締めに入ろうとしているところです。日本は遅れていますが、今後、日本も問われるでしょう。再来年(2023年)の4月で黒田総裁の任期も終わりますので、そこが1つの転換期になるかも知れません。

5G、6Gのような新たなインフラ構築への投資が必要 〜いい方向への岸田政権の舵取りが重要になる

飯田)経済史の専門家であるトマ・ピケティさんなどが指摘していますが、かつて政府が負債を膨らませたタイミングというのは、第二次大戦のときもそうだったけれど、何十年もかけてインフレで返済して来たというイギリスやフランスの例なども引いています。マイルドなインフレとともに経済成長で、ということがどこまでできるのかということですか?

クラフト)その通りで、コロナ禍を戦争のような有事だと仮定すると、負債や支出があるのは仕方がない。ただ過去には2桁、あるいは高成長のなかで負債を返して来た。しかし、いまは世界中が低成長期です。そのなかで、どこまで多額の負債を返して行けるのか、非常に難しくなっています。

飯田)戦争によって物理的に破壊されたものを直さなくてはならないような、需要が旺盛にあったころとは違い、インフラの部分はまったく毀損していない。

クラフト)ただ、アメリカのようにインフラは毀損していないのだけれども、古くなってしまい、新しいインフラをつくらなければならない。あるいは近年サイバーなど最先端テクノロジーに基づく5G、6Gのようなインフラが必要になっていますので、昔以上に投資が必要になって来る。そのなかで、財政をどう運営して行くかということが問われると思います。

飯田)いいシナリオだと、投資でうまく回って行って、経済も浮揚するし、マイルドなインフレとともに経済成長する。そのナローパスもないことはないですか?

クラフト)もちろん、いい方向で循環して行く場合もあるけれど、悪い方向に行くリスクも充分にありますので、岸田政権の舵取りが重要になって来る。岸田首相と甘利幹事長がどう道筋をつけて行くか、お手並み拝見というところです。

3日、米ホワイトハウスで演説するバイデン大統領(ロイター=共同)=2021年8月3日 写真提供:共同通信社

問われる「現実的なエネルギー政策の構築」

飯田)米中のリスクという部分では、恒大集団の話以外にも停電が続いていたり、米中の貿易協議が再開されるという発表など、いろいろ出て来ています。

クラフト)中国のエネルギー問題が経済に及ぼす影響は大きい。エネルギーに対して「環境を守るべき」だと言っていたのが、ここで急に「石炭だ、ガソリンだ。エネルギーを確保するのだ」となり、そこで競争し始めると逆に行ってしまいかねないので、気を付けたいですね。

飯田)その辺りは10月末のCOPで議題になりますかね。

クラフト)世論的には、「環境は大事ですよね」と、「そうです、大事です」と言っている。でも「停電が起きても環境問題をやるべきですか」と問われると、少し考えますよね。

飯田)そうですね。

クラフト)DX化でさらに電力需要が増える。このなかで安定した電力供給をどうするのか。なおかつ環境問題にも対処しなければならないとなると、非常に難しいですよね。

飯田)ある意味、エネルギーの安全保障にも関わって来る。

クラフト)おっしゃる通りです。今後はエネルギー政策をどうして行くのか。「原発ゼロ」が望ましいのだけれど、「では、電力供給できなくてもいいのか」などと、いろいろな問題があります。そこはバランスよく、うまくやって行かなければいけない。現実的なエネルギー政策の構築も問われると思います。

中間選挙を前に通商政策を大きく変えられないバイデン政権

飯田)米中の貿易協議ですが、「再開へ」ということで、「バイデン政権は腰砕けになってしまうの?」というように見る動きもありますが。

クラフト)私も「腰砕けだな」という印象があります。ファーウェイの副会長を解放してしまい、そのあとレモンド商務長官が中国で商談をしたいとか、バイデンさんが電話会談で対面協議をやりたいと言ったところ、断られたり。バイデン政権はアフガン問題以降、腰砕けになってしまっている。そこは危惧するところですね。

飯田)そうですね。

クラフト)今回の貿易交渉についても、少し関税を見直して、強化するところは強化し、必要ないところは外すのかなと、もう少し踏み込んだバイデン政権の通商政策を打ち出すのかと思ったら、「お話しをしましょう」と。もちろんお話しは重要ですけれども、もう少し政策を打ち出して、方向感を示して欲しかったなというのが正直なところですね。

飯田)中間選挙をにらみながら、「人気が落ちて来ているぞ」という思いがあるのですか?

クラフト)それはあります。中間選挙前で、通商政策を大きく変えることは難しいのです。中国になびくと国内の製造業が怒る。あまり強硬になると、農産品を買ってもらえなくなって、農耕票を失う。どちらにも動けない状況なので、この時点で、通商問題を再開させたのも面白いなと思うのですけれども、中国も足元を見ていますので、なかなかアメリカの思い通りにはならないと思います。

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