財務省の政策によってノーベル賞を受賞する「日本人研究者」がいなくなる 〜ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月6日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎氏が2021年のノーベル物理学賞を受賞したニュースについて解説した。

ノーベル物理学賞の受賞が決まり、記者会見で笑顔を見せる米プリンストン大上席研究員の真鍋淑郎さん=2021年10月5日、米ニュージャージー州(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

ノーベル物理学賞に二酸化炭素の温暖化影響を予測した真鍋淑郎氏

2021年のノーベル物理学賞にアメリカ・プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さん(90)ら3人が選ばれた。真鍋さんは地球温暖化研究の先駆者的存在で、1950年代末からアメリカに渡り、気候の変動を分析する研究分野を開拓した。日本のノーベル物理学賞の受賞者は2015年の梶田隆章さん以来、12人目となる。

飯田)真鍋さんはアメリカ国籍を既に取得されているということで、報道によっては「日本出身者」ですね。

佐々木)でも、同じ日本人の血を引くものとしては嬉しいですよね。日本人という国籍にあまりこだわらない方がいいのではないかなと思います。

海外への頭脳流出

佐々木)真鍋さんは1950年代の終わりに渡米して、1960年代からずっとアメリカにいらっしゃる。海外への頭脳流出というのは、以前からアメリカやヨーロッパにはあるのだけれど、最近はこれが中国に流出し始めています。

飯田)中国に。

佐々木)2030年くらいになったら、「中国在住で日本出身の○○さんがノーベル賞受賞」などということがあるかも知れません。

財務省の「選択と集中」政策によって物理化学分野の論文の数、引用の数が急激に減少した日本

佐々木)日本はノーベル賞受賞者が多いではないですか。真鍋さんは90歳で、20世紀後半の業績の人が多いのですが、いま事情が変わって来ているのです。最大の問題は何かと言うと、財務省の「選択と集中」政策です。

飯田)財務省の「選択と集中」政策。

佐々木)いままでは地方大学にも研究者がたくさんいて、毎年、何十万円や百万円くらいの研究費をばら撒いていたのです。しかし、それをもうやめて、選択を集中させようと。要するに優秀な研究をする人だけにお金をあげて、「田舎でぼんやり遊んでいるような研究者にはお金をやらない」と財務省が決めたのです。これが2000年代半ば、2004年くらいから始まったのですが、その結果、何が起きたのかと言うと、ある研究者がまとめていたのだけれども。

飯田)その結果。

佐々木)2004年以降、物理化学分野の論文の数、論文のシェアが日本は急に下がり始めたのです。

飯田)急に、ですか?

佐々木)他国では増えているのに。中国はもう急上昇です。同時に、論文というのは、「どれだけ引用されるかが論文の価値を示す」とよく言われますが、引用されている数、シェアも日本だけ2004年から一気に落ち始めている。要するに優秀な論文の数が急激に減っているということなのです。

財務省は「儲かる研究にだけ金を出す」と言っているのと同じ 〜このままでは尻すぼみに

佐々木)明らかに財務省が「選択と集中」政策を行った結果です。どういうことかと言うと、例えば事業で考えるとわかります。「絶対に儲かるビジネスをやる人にだけお金を配りましょう」と言っても、うまく行くわけがないではないですか。やっている時点でわからないのだから。

飯田)そうですよね。

佐々木)そうなると結局、先行事例でやっている、ビジネスを真似しているところしかお金をもらえないことになる。それでは先行きは厳しくなります。日本の産業界がダメになっているのは、そこの原因が大きいですよね。売れている商品を真似して売るという。

飯田)真似をして。

佐々木)出版業界でもよくあるのだけれど、「本を出しましょう」ということになっても、いままでにないテーマで本を出そうとすると、出版社が出してくれない。「先行の類書はありますか」と必ず聞かれる。売れている作家の本しか出さず、売れない作家の本は出してくれないというように。これでは必ず尻すぼみになります。

地方の名もない研究者が突然、ノーベル賞を受賞するような研究結果を出す場合もある

佐々木)それと同じことが論文や研究の世界でも起きているのです。地方の名もない研究室で研究している人でも、そこでやっていることが、地味で馬鹿げているように見えても、突然すごい研究成果が生まれたりするケースもあるのです。

飯田)青色発光ダイオードがそうですよね。

佐々木)まさにそうです。多様性が大事だということなのです。生物の進化は多様性があるからこそ、どんなに状況が変化しても生き残る可能性が生まれることがあるではないですか。パンダだって笹を食べる個体が出て来たから生き残ったわけで、笹を食べなければパンダは絶滅していたのですよ。

飯田)パンダは。

佐々木)それと同じで、研究というのはマイナーな、名も知れない研究が無数にあって、そのなかで突然ノーベル賞を獲るような研究が生まれて来るという構造をつくるのが大事なのです。財務省のように、「儲かる研究にだけ金を出す」などと言ったら、すべて尻すぼみになるのは当たり前ですよね。

岸田内閣には政治判断で新しい資本主義をつくって欲しい

佐々木)これをやり始めたのは2004年です。まだ17年しか経っていないので、まだまだ後戻りは効く状況にある。

飯田)まだ戻れる。

佐々木)これを今後半世紀やったら、日本の研究は壊滅してしまうと思います。岸田内閣には財務省のよくわからないデフレマインドの尻すぼみ政策を一気にやめさせて、これこそ政治主導、政治判断で新しい資本主義をぜひつくって欲しいと思います。

飯田)新しい資本主義。

佐々木)新しい資本主義というのは、「財務省のない資本主義」なのではないかと思うのですけれどね。

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