「ミサイル阻止能力の保有」を日本はどう議論するのか

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月19日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。10月19日に公示された第49回衆議院選挙について解説した。

28日午前、慈江道竜林郡都陽里で行われた極超音速ミサイル「火星8」型の試射 朝鮮通信=時事 写真提供:時事通信

衆院選が公示

第49回衆議院選挙が10月19日に公示され、10月31日の投開票に向けて選挙戦が始まった。連立政権を組む自民、公明の与党両党に対し、立憲民主、共産両党を軸とする「野党共闘」の枠組みと、日本維新の会が挑む3つどもえの構図となる。

飯田)きょう(10月19日)衆院選がいよいよ公示となります。峯村さんに前回ご出演いただいたのが、自民党総裁選挙の直後でした。

峯村)直後でしたね。生々しい感じでしたが。

飯田)あの当時は、選挙はもう1週あとではないか、もう2週あとではないかとも言われていましたけれども、急転直下のような感じですね。

前倒し解散にこだわった岸田首相

峯村)電撃解散に近いかなという気はします。でも、コロナ感染がかなり収まって来ている現状を考えると、与党としてはいいタイミングだったのではないでしょうか。

飯田)「内閣支持率とコロナ感染者数の増減はリンクする」と言われますからね。

峯村)いちばんのマターだと思いますし、閣僚の立ち上がりも早かったので、そういう意味でも、スピーディにやられたのだろうなとは感じます。政権幹部の話を聞くと、やはり岸田首相が前倒しの解散にこだわっていらっしゃったという話でした。「勝ちに行く」という思いがあるのではないでしょうか。

「終わった状態」から復活した岸田総理のパワー

飯田)「最後は1人で決めた」というような報道もあります。

峯村)あれは本当だったようですね。外務大臣のときの岸田さんは、ご本人もおっしゃる通り、聞く耳はあるのですが、聞くだけで終わるような印象でした。しかし、今回の総裁選を経て、1度「終わった」と言われていた方が総裁選で復活し、「岸田さんは変わった」と評価する方が多いのです。

飯田)安倍さんが「第1次政権の失敗で一念発起した、それが原動力になった」と言われますが、岸田さんも周りの冷たい評価から一念発起したところがあったのですか?

峯村)特に広島の選挙区でゴタゴタがありましたよね。自分の足元であのようなことがあり、政治生命が終わりに近かった。そこから這い上がったという意味では、「安倍さんと似たようなパワーが出た」というところはあると思います。

幹事長が二階氏から甘利氏に代わったことによって外交・安全保障が正常化される

飯田)総裁選の直後に峯村さんが指摘されていましたが、幹事長が二階さんから甘利さんに代わった。選挙の司令塔という以上の意味がありますか?

峯村)私は外交・安全保障が正常化されるのではないかとみています。今回は2つポイントがあって、高市さんや甘利さんという政策通が党内に入り、党が政府をコントロールするという形になっています。

飯田)党が政府をコントロール。

峯村)もう1つは、これまでのいろいろな節目を見ていても、外交、特に対中関係で二階前幹事長の存在が大きかった。例えば先日の日米首脳会談では、共同宣言に「台湾海峡」と入れるか入れないかという議論がありました。政権幹部の話を聞いていると、当時の二階幹事長が「入れるな」と外務省に圧力をかけて来たそうです。二階氏の秘書が「そのようなことをしたら中国との関係はどうなるのだ」と怒鳴り込んで来たという話もあります。そのために、この数年は本来やるべき対中政策が先送りされて来た感が否めません。これまでの不健全とも言える状況から、「いちばんのマターは中国である」と考えて、議論できる体制に変わることを期待したいと思います。

飯田)外務・防衛の大臣は変えずに党の布陣が変わるというのは、外交を強くして行こうということですか?

峯村)そうですね。いま日本周辺の国際情勢は動いていますので、2大臣を留任するという形で、継続性を担保する。けれども、党の方でそれをサポートする。むしろ「引っ張って行く」というような構図ができると、強い布陣になるかも知れません。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

高市氏や甘利氏という政策通を党に置いた布陣

飯田)霞が関と永田町、全体の関係性からすると、ここ20〜30年間ずっと官邸を強くするということをやって来た。穿った見方の人に言わせると、「党の方に全部押し込めておいて、霞が関でいいようにできる形にしているのだ」という見方もあるのですが、これはどうですか?

峯村)私はそうは思わないですね。特にいまの政権と、この間までの政権は、たった17日ほどの選挙管理内閣だと思っています。閣僚人事よりも、選挙を担う党人事が重要なのです。昨日(18日)の討論会を見ていても、各政調会長が議論したり、党首が議論したりするわけで、大臣が出る場面は多くありません。ですので、この次の選挙までは、党にしっかりと政策議論できる人が居さえすればいいのではないかと。むしろ選挙後に、きちんとした内閣組閣ができるのではないかとみています。

飯田)なるほど。公約づくりのために、そこにリソースを集中させたような。

峯村)そうですね。高市さんが先日のインタビューで答えていましたけれども、ほとんど不眠不休で政策案を書いていたと言っていましたが、そういうことができる人でないと持たないですよね。お飾りの政調会長ではできません。党の層を厚くした「党高政低」の布陣と言えます。

「ミサイル阻止能力の保有」をどのように議論するのか 〜日本全土を射程に収める中国のミサイルは千数百発ある状況

飯田)外交安全保障政策等々を見ても、高市さんの色が出ているということも報道されています。どこに注目していますか?

峯村)やはり「ミサイル阻止能力の保有」ですね。ここをどのように議論するのか、非常に注目しています。私は2〜3年前から記事だけではなく、この番組でもお話ししていますけれども、北朝鮮だけではなく、中国のミサイル能力がこれだけアップしているなかで、日本全土を射程に収めるミサイルは千数百発ある状況です。しかし、日本および日本にある米軍が持っている地上配備型中距離ミサイルは0という、極めて危ない状況が続いているわけです。

飯田)極めて危ない状況が。

峯村)お互いに、同じくらいのミサイルを持っているということがいちばんの抑止です。「抑止をどのように取り戻すのか」というところをしっかり考えて議論してもらう。いままでは議論すらもしていなかったわけです。

飯田)そうですね。

峯村)2年前に「ミサイル保有を考えるべきではないか」という記事を書いたときも、「朝日新聞はどうした」とか、「峯村さん大丈夫ですか」などと言われました。大丈夫も何も、私は現実を書いただけなのです。「いまこれだけアンバランスなのです。やられたらどうするのですか」ということを書いただけで、「朝日のネオコン」などと言われました。ネオコンでも何でもいいのですけれども、「考えましょうよ」というところですよね。

飯田)この状況を。

峯村)「議論しない状況がこの国は本当に多い」ということを、ワシントンから帰って来て思いました。台湾有事もそうです。講師に呼ばれた自民党の議連ですら、「台湾有事」という言葉は強いですよね、と事務局に言われて呆れたことがあります。台湾有事の話をしに来ているのに、「台湾有事という言葉を使わないでくれ」というのはどういうことですかと。たった1年くらい前のことです。

飯田)当時よりも状況は厳しくなっていますよね。

峯村)いまでこそ、そのようなことは言われなくなりましたが、日本以外では当たり前の話なのですよ。アメリカのメディアでも当然、「台湾有事」という言葉が出て来ています。どこの国でも出て来ているのに、日本だけ「台湾有事」となぜ言えないのか。

台湾有事が起これば、真っ先に被害を受けるのは日本

飯田)確かにこれは外交安全保障の範疇というよりも、目の前で起こっていることだから、外交で括ってはいけないところですよね。

峯村)そう思います。もう「よその話だね」という状況ではありません。真っ先に巻き込まれ、真っ先に被害を受けるのは日本ですから、まさに国内の問題なのです。

飯田)立憲民主党は「健全な日米同盟を基軸にして、敵基地攻撃能力の保有については慎重に検討」、一方で共産党は「日米安全保障条約を廃棄し、日米友好条約を締結して軍縮へ転換して行く」と。日本維新の会は「日米同盟を基軸に、領域内阻止能力の構築を検討」。国民民主党は「日米同盟の堅持・強化、自立的な安全保障体制」と。これまで外交安全保障は票にならないと言われていましたけれども、ここは議論しなくてはいけないですよね。

峯村)本当に関心を持つべきです。冷戦時代はある意味、米ソ両大国による核抑止が機能しており、日本国内でも外交・安保に「あまり興味がない」ということも許されたのかも知れません。しかし、いまはもう安全保障は、我々の生命・財産に関わることです。例えばサイバー攻撃もそうですよね。「あなたのお金がハッキングされてなくなったりするのですよ」という時代なのです。グレーゾーンと言いますが、こういうなかで「興味を持たない」ということはあり得ない時代に入っていると思います。

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