「石炭火力廃止」に最後に異を唱えたインドのメンタリティ

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月16日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。COP26が閉幕したというニュースについて解説した。

ドイツ西部ダッテルンの石炭火力発電所 EPA=時事 写真提供:時事通信

COP26が閉幕

イギリスで開催されていた、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は11月13日、石炭火力発電の段階的削減努力を加速することなどを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。

飯田)「石炭火力が廃止から削減になったのは後退だ」という向きもありますが。

経済が絡んだ国際会議で合意することは奇跡的なこと 〜理想を世界が共有することは難しい

奥山)こういう国際会議で、しかも世界的に経済が絡んだもので合意するということは、ある意味、奇跡的な部分ではあるのです。そもそも、1つの理想のようなものを世界が共有するのは、とても難しいことなのです。

飯田)理想を共有することは。

奥山)例えば「世界平和」という目標があるではないですか。当然なのですけれども、どの国も世界平和を目指しているわけです。戦争がない方がいいのは当然です。ただ、各国それぞれの平和の姿、色は違うではないですか。

飯田)各国によって。

奥山)北朝鮮にとっての平和のスタイルと、日本にとっての平和な状況、ロシアにとっての平和な状況は、結局、「自国に都合のいい状態での平和を目指している」ということです。総論では賛成なのですけれども、みんな各論では反対になるということです。

飯田)各論は反対になる。

総論は合意できるが、具体的な話になると争ってしまう

奥山)COPの場合もまったく同じような形です。「自分に都合のいいCOPの合意」をみんな勝手に求めたがる部分がある。世界平和の実現が難しいのと同様に、COPなども総論では合意できるのだけれど、具体的な話になると、そこで争ってしまう傾向があります。

飯田)具体的になると。

奥山)特に私が注目しているのはインドです。今回、イギリスなどは「石炭火力廃止」まで踏み込んでいるのです。ところが採択直前の土壇場で、インドが修正を求めた。その結果、「段階的な削減に向けた努力を加速する」という文言が盛り込まれた。だから廃止までは行っていないのです。それを最後にインドが言ったということは、インドのメンタリティを我々は知らなければならないのかなと思います。日本では報道を見ていても、「インドが反対した」という言葉は出て来ますけれど。

飯田)確かにそこまでですよね。

新手の植民地支配である

奥山)「なぜ反対しているのか」というところの部分までは、あまり報道されていません。インド側の論説や記事を読むと、彼らが何に怒っているのかがわかります。「二酸化炭素を削減する」ということは、西洋から押し付けられた帝国主義だと怒っているのです。

飯田)西洋から押し付けられた。

奥山)「これは新手の植民地支配だろう」と見ているのです。彼らのなかには、イギリスに200年近くも植民地支配されていたというメンタリティもありますし、自分たちがこれから経済成長して行こうというときに、先進国の方から「石炭を使うな」と言って来るわけではないですか。成長を妨げるようなことを言っている。また西洋が勝手に新しいロジックを持ち出して、自分たちのことを押さえ付けようとしているのではないかと。

飯田)きれいごとや建前で、結局は邪魔しようとしているだけではないかと。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

インドのメンタリティを理解するべきところはある

奥山)それが「新しい植民地支配だ」と、彼らが思ってしまう理由なのです。彼らのそういうメンタリティは、日本では報道に出て来ないのですけれども、「わかってあげなければいけないのかな」という部分もあるのではないでしょうか。このままだと「インドが悪いよね」ということになりがちなのですけれども、インドとしてはかつていろいろやられて来たという言い分のような、メンタリティがあるのです。それに対して、「廃止などと言うな」と。「我々にも70年間くらい時間の猶予をくれよ」ということです。

飯田)先進国は石炭火力を使い倒して、電気を使い、環境汚染しながら成長して来たのに、自分たちはダメなのかという。

奥山)そう思いますよね。ですので、廃止まで踏み込んでいたのですけれども、土壇場でインドが修正を求めるというのは、その通りだろうなと思うのです。彼らも、世界の温暖化に対する危惧について、個人としては大事だとわかっているはずなのですけれども。

飯田)総論では賛成と。

奥山)総論では賛成です。ただ各論としては、メンタリティにおいて「先進国が押し付けてコントロールしたいからだろう」と、「だったら反発するぞ」という思いがあるということは、見過ごしてはいけない部分なのだと思います。

欧州が電気自動車を進める本当の理由

奥山)こういう問題が出て、インドの考え方がわかると、逆に日本も含めた先進国の環境主義には矛盾点もあるのではないかと思うのです。

飯田)矛盾するところが。

奥山)例えば、欧州が電気自動車を強力に進めています。ですが、電気自動車はつくるときに二酸化炭素を大量に排出する部分もありますし、電気を使うということは原発に頼ることでもあるのです。原発の話はそれほど出て来ないですし、ドイツはクリーンエネルギーでやって行くと言っていますが。

飯田)再生可能エネルギーで。

奥山)しかし、実はフランスから原発でつくった電気を融通してもらっているのです。そういう偽善や矛盾が見えてしまうところがあって、日本としては電気自動車をつくるよりも、ハイブリッドや水素でやって行く方がいいのではないかと思いますよね。

飯田)電気自動車も本当はクリーンディーゼルでやりたかったのだけれども、いろいろな改ざんでダメになってしまって、「EVで対抗しないと日本の自動車には勝てない」というところが透けて見えますよね。

奥山)ですので、こういう合意は難しいのだなと改めて感じます。

環境主義と言いつつも経済成長しなくてはならない矛盾

飯田)日本だと、理想論の部分がキラキラと輝いて見えるので、それに反対すると「君たちは汚れた人間だ」となりますが。

奥山)倫理的な話になりがちですけれども、実際は我々も資本主義ですから、成長して行かなければならない部分がある。これだけ環境主義と言っているけれども、経済成長しなければ格差が広がってしまうという矛盾があるのですよ。この矛盾を指摘する人もいないと、自由な言論とは言えないのではないかと思います。

理想主義を武器に、現実主義でやって行かねばならない

飯田)結局、COPに集まって各国の政治をやっている人たちは、理想主義を武器に使いながら、現実主義でやって行かなければいけない部分もある。

奥山)そういう意味では、理想主義というのは建前の部分が大事ですし、我々はいまそれに乗っかって行かないといけないのですけれども、同時にビジネスが絡んで来るという現実がある。その矛盾はメディアで突いていただき、日本もリアリスティックにこれをテコにして、経済成長を狙って行くことができればと思います。

つくったルールを使い、世界をリードするうまさがあるヨーロッパ

飯田)悔しいけれどヨーロッパは戦略的に、そこを取りに行くうまさがありますね。

奥山)ルールをつくって、そのルールを使い、世界をリードする状況をつくるのは非常にうまいですね。フランスを中心に電気自動車の方向でやっていますけれども、それは日本のトヨタのような、まだガソリン車をつくっているところから主導権を取り返してやろうという意図があります。産業構造を変えたなかで、ナンバー1になるのを目指している意識が透けて見えて来ます。

飯田)日本も国家として、そこに対抗して行かなければならないわけですか?

奥山)そうですね。いままでは現場の人たちが企業努力でやって来ましたが、ここには政治が絡んでいます。世界政治のドロドロした部分のようなものも見えて来ています。

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