国家安全保障戦略改定へ 〜何を入れ込むべきか

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。政府が国家安全保障戦略を改定する方向で調整に入ったというニュースについて解説した。

2021年11月9日、発言する岸田総理〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/actions/202111/09kaigi.html)

国家安全保障戦略の改定へ

政府は外交・安全保障政策の基本方針となる「国家安全保障戦略」の改定時期について、2022年末とする方向で調整に入った。11月12日には岸防衛大臣をトップとする「防衛力強化加速会議」の初会合を開催。改定に向けた議論を進めて行くこととなった。

飯田)国家安全保障戦略。安全保障政策の基本方針、基本指針として、第2次安倍政権下の2013年12月に策定されました。これを最初につくったとき、兼原さんは官邸のなかにいらっしゃったと。

兼原)これは私たちがやったのですが、国家安保戦略が日本にはなかったのです。

飯田)なかったのですよね。

兼原)アメリカにお任せで来てしまったものですから、ありませんでした。日本だけ持っていないのは恥ずかしいではないかということで、NSCをつくるときに一緒につくったのですが、あのころはまだ中国と日本の大きさが同じだったのです。

飯田)経済的な規模ですか?

兼原)経済的な規模ですね。あれから中国が一気に日本の3倍になり、防衛費が名目で5倍、購買力平価は16倍になって、この地域では誰も勝てません。

反撃力と経済安全保障については「国家安全保障戦略」に入れ込むべき

兼原)外交ではアメリカと組んで、クアッドをやり、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略をやる。ヨーロッパと協力し、日本の防衛費も倍増させ、サイバーや宇宙に関する対策も行うなど、やることは山ほどあるのです。その半分は書いてあるのですが、もう1度書き直さないといけないですよね。反撃力の話や、経済安保の話は当時まだ出ていなかったので、しっかりと嵌め込まなければいけないと思います。

飯田)反撃力と経済安全保障。

兼原)安倍政権のときに、「1000キロのミサイル」と入れたのです。500キロが短距離ですから、そこから先は中距離になるのですが、日本だけこの辺りで中距離を持っていなかったのです。みんな刀を持っていて、日本だけ果物ナイフという状況だったため、それはおかしいということで入れてもらった。しかし、国内に上がって来る敵を叩くようなミサイルになっています。沖縄などに上がって来る敵を叩くのですが、外国に落ちてしまったらいけないということになっているのです。敵が撃ち込んで来ているのに、こちらは「日本に入って来ないと撃ってはいけません」という。それはおかしいではないか、という議論をずっとしているのです。

日本だけ中距離ミサイルが配備されていない 〜果物ナイフで立ち向かうことはできない

兼原)「撃つぞ」と言えば向こうも撃たないですから。「上がって来たら撃ちますよ」と言うと、突然、撃たれてしまうかも知れないですよね。こんな議論もできないのはおかしいです。

飯田)その部分をどこまで書き込めるかというのが。

兼原)「撃ったら撃ち返すぞ」というのは個別的自衛権です。向こうだっていつ撃つかわからないわけですから。

飯田)そうですね。

兼原)個別的自衛権の範囲内だし、能力も十分にあるので、あとはやる気があるかどうかです。どうしてそれをやるという議論にならないのか、不思議です。「自分は死んでも人は殺しません」というのは、聖職者の方はそれでいいのですが、安全保障の政策をやる人がそれでは困ります。「国民を守る」ことを考えていただかないと。国民を犠牲にする平和主義などありません。国民がいちばん大事なのです。憲法の問題もないし、能力もあるし、「どうしてやらないのか」と思います。

飯田)その上、周りの環境を考えると、中国もそうですし、北朝鮮もそうだし、ロシアもそうであると。

兼原)韓国も台湾も、みんな弾道ミサイルや中距離ミサイルを持っているのですよ。日本だけが持っていないのです。皆さん、大小の刀を差しているのに、日本だけ果物ナイフで頑張っているわけです。自衛隊が可哀想ですよ。死ぬ危険があるのは自衛隊ですから。そろそろ、こういうリアルな話をしてもらわないと、いつまで経っても抽象論で「ダメだ」と言われても困るのです。

28日午前、慈江道竜林郡都陽里で行われた極超音速ミサイル「火星8」型の試射 朝鮮通信=時事 写真提供:時事通信

日本には5000万円の防弾チョッキだけ

飯田)いままで果物ナイフで何とかなっていたのは、後ろにアメリカがいたからですか?

兼原)あとはミサイル防衛を先にやっていたのです。北朝鮮がミサイルの射程を伸ばして来たので、日本では防弾チョッキを付けたのですが、やたら高いわけです。

飯田)防弾チョッキが。

兼原)5000万円の防弾チョッキというような。敵の鉄砲は100万円という世界ですから、これではコスパが悪過ぎるのです。アメリカはいろいろなミサイルを持った上での防弾チョッキなのですが、うちは防弾チョッキ1本で真剣白刃取りをやっているので、「いい加減にしろ」と安倍さんが言ってやめたわけです。それから議論が続いていますが、コロナで議論ができなかったので、きちんと議論していただきたいと思っています。

中国に追い付かれてしまう 〜アメリカの科学研究開発費

飯田)反撃力の部分、そして経済安保というお話がありました。

兼原)これはトランプ政権が先に動いたのですが、機微技術が中国に流れてしまうと、技術力が抜かれるという懸念がありました。アメリカの国防費は、世界の国防費の約半分なのです。およそ160兆円のうち80兆円がアメリカで、しかも10兆円がR&Dなのです。

飯田)R&D。

兼原)科学研究開発費で、アメリカの10兆円のR&Dには誰も追い付けないと言われていましたが、中国とGAFAの全体でたぶん追い付いてしまうのです。アメリカが初めて科学で抜かれるかも知れないと焦り始めています。最先端技術を簡単に出すなという対策が始まっていて、日本がやらなくてはいけない外為法の規制、また、大学などで「中国からお金をもらっている人は手を挙げてください」と調べることなどをアメリカがやっているのですが、うちでも始まりました。

飯田)日本でも。

兼原)逆に中国がレアアースなどを規制する可能性もあります。サプライチェーンを強靭化しておかないと、突然レアアースが止まり、「半導体がつくれません」という状況になると困るので、その辺りの強靭性を上げる必要がある。

超一流の才能と力をどう安全保障に活かすか

兼原)最後の問題は「反権力が正義だ」ということで、「安全保障をやらない」と言って年間4兆円を使っている科学技術会の問題です。やりたい人はたくさんいるのです。

飯田)現場では。

兼原)一流の科学者は政治的なイデオロギーはありません。学会全体の雰囲気がそうなってしまっていて、一時の国鉄に似ているのです。雰囲気は政策ではなく、アイデンティティなのです。「自分たちは反権力、平和主義だ」となってしまっているため、そういうことをしてはいけないという話になっていて、それができないのです。

飯田)アイデンティティが。

兼原)普通に研究したい人はたくさんいるし、民間の企業さんにも、軍需産業以外に民生機器関係の技術など、超1級のノーベル賞を獲れるような人がたくさんいるのです。この人たちは民生技術を安全保障に使うことについて、「政府がやらないではないか」と言っているのです。

飯田)政府がやらないではないかと。

兼原)狭い軍需産業の軍事技術だけではなくて、日本の最先端の民間による民生技術と、国立の研究所や大学など、「超一流の才能と力をどう安全保障に活かすか」という仕組みがこの国にはないのです。やっと議論が始まったところです。予算がアメリカの20兆円に対して、2000億円と桁が違うのですが。

飯田)アメリカの20兆円に対して。

兼原)産業保護政策ではないので、半導体産業を守るという話ではないのです。世界最先端の半導体が出るし、半導体だけではなく、先進コンピュータを利用して前に出るという話なので、10兆円という話になるのです。そこに持って行かなければいけないのですが、この約75年でやって来なかったので、仕組みもポリシーも何もありません。やっと経産省の腰が上がったので、力がある役所ですから、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

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