コロナ禍で変わるホテル業界 〜2022年注目のホテルは?(前編)

新型コロナウイルスの感染拡大により、ホテル業界もかつてない危機に直面している。閉鎖や売却が決まるホテルもあれば、2022年に華々しく誕生するホテルもある。ウィズコロナ、アフターコロナ時代のホテルはどうあるべきか。ポッドキャスト番組「ニッポン放送・報道記者レポート2022」(ニッポン放送 Podcast Station ほか)の1月6日配信回(担当:宮崎裕子記者)では、このテーマについて取り上げ、「ホテル未来会議」の共同代表を務める武田雅樹氏に、コロナ禍で変わるホテル業界の現状や未来について訊いた。

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宮崎)観光庁の統計によりますと、国内の宿泊者数は1回目の緊急事態宣言発令中の2020年5月で、前年比(2019年比)82.6%減、ホテルなどの客室稼働率は13.2%まで減少し、これまで経験したことのない水準にまで下がりました。昨秋以降はワクチンの普及などによる感染者数の減少で、宿泊者数は徐々に戻りはじめ、客室稼働率も42.1%(観光庁2021年10月速報値)まで回復しましたが、ホテル経営を維持するための稼働率(60〜80%程度)までは遠く及ばないといった状況がつづいています。

新今宮駅前のホテル開発計画を行った星野佳路代表=2017年04月24日、大阪市北区  写真提供:産経新聞社

―――マイクロツーリズムへの注力を提唱した星野リゾート

宮崎)コロナ以前は、インバウンド需要に伴いホテルは開業ラッシュでしたよね?

武田)2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定を機にインバウンドゲストは増加し、弊社の調べでは2015年以降、日本全国に1851軒もの新規ホテルが開業しました。

ただ、その多くは宿泊を主体としたビジネスホテルで、サイズもデザインも同じような、言わば「ハコもの」ホテルが膨大に誕生したのです。これからのホテル業界や観光産業はどこに向かっていくのか…そんなことが囁かれていた最中、コロナ危機が起きたわけです。

宮崎)確かにインバウンド需要で宿泊主体のホテルは急増しましたね。膨大に誕生したホテルは、このコロナ禍でどうなっていますか?

武田)観光業界が大打撃を受ける中、真っ先にメディアに登場し、近隣地域内での観光、いわゆる「マイクロツーリズム」への注力を提唱したのが星野リゾートの星野佳路代表でした。

観光庁の統計によりますと、2019年の日本国内における旅行消費額は27.9兆円。そのうちインバウンドはたったの4.8兆円で、22兆円という大半は国内ゲストです。

宮崎)これは意外ですね。旅行消費の大半がインバウンドによるものと思っていました。

武田)こうしたデータを活用した星野代表の発信は、今までインバウンド一辺倒であった多くのホテル事業者が、国内ゲストに改めて目を向けるきっかけになったと思います。ホテル各社は、こうした国内需要を掘り起こすべく、テレワークやワーケーション目的のプランや、「ホテルに住まう」といった長期滞在型のプランを誕生させ、帝国ホテル東京の「30泊36万円(サ税込み)」プランが発売から4時間で完売といったニュースも話題となりました。

宮崎)とある国会議員も、この宿泊プランを利用して話題になりましたね(笑) 観光ではなくビジネス客を取り込むこうした新しい宿泊プラン、好調なのでしょうか?

武田)ちょっと辛口なことを言うと、テレワークプランといっても、客室のレイアウトは何も変えず、20m?前後のスペースの大半はバスルームとベッドで、机や椅子も仕事をする上での快適なスペックとは言い難いホテルもあります。テレビ会議の背景がベッドっていうのも微妙ですよね……(笑)

宮崎)リモートでテレビ出演する人の背景にベッドが映っていることありますね。

武田)結局、テレワークプランといっても部屋のレイアウトは同じなので、お得に泊まれるラブホテル代わりのような需要も少なくないといった話も聞きました。

ザ・ゲートホテル京都高瀬川 客室にあるヴィトラの昇降式デスク 武田氏撮影

―――快適な仕事シーンを提供するホテル

武田)ただ、一部のホテルでは快適な仕事シーンを提供すべくチャレンジしているところもあります。

一例ですが、『札幌グランドホテル』では、1室料金で宿泊用の客室と仕事部屋を分けて2部屋を提供し、仕事部屋はベッドを撤去し、ハイバックチェアやプリンター、文具や延長コード、コーヒーメーカーなども設置して、快適なオフィスルームを提供していました。(現在は販売終了)

武田)『ザ・ゲートホテル京都高瀬川 by HULIC』は、ヴィトラの昇降式デスクに、ハーマンミラーのアーロンチェア、照明はアルテミデ、モニターやキーボード、マウスまでもが完備され、本気で仕事に没頭できるハイスペックな部屋を提供していました。

宮崎)ヴィトラやハーマンミラー、アルテミデ……って有名なんですか?

武田)はい、とても有名です(笑)

この他に興味深いのは、佐賀県嬉野市にある『嬉野温泉 和多屋別荘』では、稼働していなかった客室をオフィスにリノベーションし、東京の企業をサテライトオフィスとして誘致しました。これぞまさに宿泊施設=観光ではなく、宿泊施設がハブとなって企業と地域を結びつけた好事例です。これからの取り組みにも大変注目しています。

富士スピードウェイホテル外観  写真提供:ハイアット

―――2022年開業の注目ホテル

宮崎)2022年開業予定の注目ホテルはありますか?

武田)弊社の調べでは、2022年の新規開業計画のホテル件数は179軒です。個人的には3つのホテルに注目しています。

1つめは、静岡県小山町に誕生する『富士スピードウェイホテル』。日本でも人気のグローバルブランドの「ハイアット」と、世界を代表する日本メーカー「トヨタ」がタッグを組む2022年最大の注目ホテルです。

この富士スピードウェイホテル(アンバウンド コレクション by Hyatt)は、ハイアットに加盟するホテルですが、パーク ハイアットやグランド ハイアット、アンダーズ、ハイアット セントリックなどのブランドとは違い、コレクションブランドとかソフトブランド言われるカテゴリーになります。このアンバウンド コレクション by Hyattは、各ホテルがそれぞれ唯一無二のストーリーを持った強烈な個性が求められるブランドで、独自のコンセプトでその土地のランドマークとなるような存在感が求められているそうです。

ホテル名からわかるとおり、静岡県小山町にある日本を代表する国際サーキット「富士スピードウェイ」の敷地内にできるホテルで、唯一無二としてモータースポーツとラグジュアリーホスピタリティーの融合がコンセプトのホテルです。なんとホテル棟の中にモータースポーツミュージアムがあり、またサーキット側の客室からは目の前のコーナーから長いホームストレートを見晴らすこともできそうです。世界中のモータースポーツファンであれば、一度は訪れたいホテルになりそうです。

「新今宮駅周辺」オープン予定の星野リゾートのホテル「OMO7大阪」=2021年12月23日午後、大阪市浪速区 写真提供:産経新聞社

武田)2つめは、2022年4月22日に大阪の新今宮に開業する『OMO7大阪 by星野リゾート』です。

都市観光型ホテルブランドのOMOby星野リゾートは、22年新規オープンを含め現在10施設展開しています。OMOは地域密着型のディープな観光を売りにしている楽しいホテルです。OMOには「ご近所ガイドOMOレンジャー」という地元を知り尽くしたスタッフがいて、街に暮らしているようなディープな体験をサポートしてくれのが特徴です。

そのため、ホテルスタッフはホテルの外に常にアンテナを張り、街とのつながりを大切にしています。まさに街に開かれたホテルを実践しているブランドではないでしょうか。

宮崎)新今宮というと、大阪・西成区のあいりん地区がある地域ですよね? この地に星野リゾートが?

武田)はい。新今宮いう地にOMOができることで、これから街がどのように変わっていくのか、ホテルと街の未来にとてもワクワクしています。必ず今年行って体験したいと思っています。

3つ目は、『アパホテル&リゾート 新潟駅前大通』です。

おそらく2022年度で、国内最大級の客室数(1,001室)を誇る超大型ホテルがJR新潟駅前に開業します。インバウンドゲストの宿泊者数ではそれほど上位ではない新潟県において、アパホテルはどんな戦略を立てているのか、それを迎え撃つ既存ホテルはどう立ち向かうのか、新潟生まれの私としては注目しています。

宮崎)私もぜひ行ってみたいと思います。次回は、これからのホテルはどうあるべきか、「ホテルの未来」についてお話を伺います。

(後編につづく 1月20日頃掲載予定)

武田雅樹

■武田雅樹 プロフィール
創刊1966年のホテル・レストランの専門誌「週刊ホテルレストラン」の元編集部長で、2021年6月にホテルづくりをテーマにした新媒体「ホテルをつくるレシピ」を創刊し、現在、出版元のオータパブリケイションズに在籍しながら、ホテルの未来をデザインするコミュニティ「ホテル未来会議」の共同代表を務める。

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