米軍がIS指導者を殺害した背景にある「バイデン政権の苦境」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月7日放送)に国際政治アナリストの菅原出が出演。アメリカ軍の対テロ作戦によりIS指導者であるアブイブラヒム・ハシミ氏が殺害されたというニュースについて解説した。

2022年2月3日、米ホワイトハウスで、過激派組織「イスラム国」指導者の自爆死について話すバイデン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

IS指導者が死亡 〜オースティン国防長官は「戦い継続」の意思を示す

アメリカのバイデン大統領は2月3日、アメリカがシリア北西部で行った対テロ作戦で、「イスラム国」(IS)の最高指導者アブイブラヒム・ハシミ氏を殺害したと発表した。オースティン国防長官は声明を発表し、「ISとの戦いは続く」と、テロに対する警戒を緩めない姿勢を示した。

IS戦闘員が収容されている刑務所が襲撃される 〜ISの活動が再び活発化する前に指導者を倒す

飯田)殺害されたハシミ指導者は2019年、アメリカ軍の作戦で死亡したバグダディ容疑者の後継ということです。このタイミングで殺害決行に至ったのは、どのような背景があると考えられますか?

菅原)まず、タイミングについてですけれども、ハシミ容疑者がシリア北西部の民家に隠れているらしいということは、昨年(2021年)の12月くらいからバイデン政権はわかっていたようです。どうするか計画を立てていたようなのですが、近年、イラクやシリアにおけるISのテロは少なくなっていまして、勢力の弱体化が噂されていました。

飯田)勢力の弱体化が。

菅原)シリア北東部にISの戦闘員がたくさん収容されている刑務所があるのですが、そこを襲撃するというテロがありました。1月20日〜26日ごろまで、ISによるかなり大規模なテロだったのですが、これにハシミ氏が関わっていたという証拠が出て来たのです。この刑務所襲撃事件でISがまた台頭する前に、指導者を倒して出鼻を挫こうという狙いだったのではないかと考えられます。

国外のIS組織には影響力がない 〜ハシミ氏

飯田)ISの規模、またハシミ容疑者の指導力はどの程度のものだったのですか?

菅原)指導者になってから3年くらい経っていると思うのですが、1回もビデオメッセージや音声メッセージを出していません。ですので、少なくとも、国外にあるIS系の関連組織に対して影響力があったとは考えにくいと思います。シリアにおいて、一定程度の指導力を確保するという意味も込めて、今回、刑務所襲撃事件を実行し、再び自分の指導力を内外に示そうという段階だったのではないでしょうか。

特殊作戦を行った背景

飯田)アメリカ軍は今回、地上戦のような形で、特殊作戦を行ったと報じられていますが、このような選択をした意図は何でしょうか?

菅原)ハシミ氏が住んでいた民家の1階は、まったく関係のない一般市民が住んでいるらしいという情報もあったので、無人機や戦闘機で空爆するような方法は、人道的に問題になるので実行できませんでした。特殊部隊を送って、テロリストだけを殺害するような作戦をしなければいけないということで、この選択肢になったと言われています。

飯田)なるほど。

菅原)ただ、バイデンさんは基本的に、2001年に始まった対テロ戦争をやめたいと思っているわけです。アフガンからも退いたわけですけれども、今回のように、軍事力を直接使ってテロ組織を倒すことに米軍を使いたくないのです。

飯田)バイデン大統領としては。

菅原)米軍の役割は、現地の部隊や治安機関を訓練したり、支援する。そういうことに留めたいと考えていたのですが、なかなかそうはうまく行かないということで、特殊部隊を送る作戦を決行してしまった。「今後のテロ対策をどうするか」という問題がバイデン政権のなかでも議論されているようです。まだ国際テロ戦略を出していないのです。

飯田)そうなのですね。

菅原)なかなか出て来ないということは、まだ政権内で揉めているのでしょうね。

バイデン政権の人権外交との矛盾

飯田)これは、バイデン政権のなかで外交の軸足をどこに置くのかということにも関わって来ますか?

菅原)このようなテロ作戦は、どうしても民間人の死傷者を出してしまうのです。死傷者を出してしまうと、もう1つのバイデン政権の柱である「人権外交」との矛盾が起こります。こういうことを続けて行くと、市民に対する巻き添え被害が減らない。それによって、アメリカに敵対するテロを醸成してしまうことになります。「結局何も変わらないではないか」という批判が民主党内をはじめ、国内にも多くあります。

世界貿易センタービルに接近するハイジャックされた航空機(左)と、衝突炎上する世界貿易センタービル。手前右に見えるノースタワーに続きサウスタワーに2機目の民間機が衝突した(アメリカ・ニューヨーク) AFP=時事 写真提供:時事通信

ウクライナに関するアメリカの動きは、状況をエスカレートさせてしまっているだけ

飯田)アメリカ軍全体の動きとして、中東の正面、そして東アジア、さらにいまウクライナも緊迫しています。ウクライナに関してはどうご覧になりますか?

菅原)ウクライナに対する米軍の動きは、状況をエスカレートさせてしまっているだけです。ポーランドとドイツに米軍3000人という中途半端な部隊を派遣しても、ロシアに対して何の抑止効果もありません。逆にマイナスのメッセージを与えてしまうだけです。

飯田)3000人程度では。

菅原)「ロシア軍はウクライナの首都キエフまで2日もあれば制圧可能」などと、煽るような報道をしているアメリカのメディアも悪いと思います。ウクライナは日本の1.6倍ほどの面積があり、人口も4000万人以上いるので、10万〜13万人の兵力で簡単に制圧できるようなものではありません。すぐにでも戦争が始まるような方向に煽っているようで、よろしくないと思います。

飯田)なるほど。それよりも浸透作戦など、そちらの方を警戒すべきだという声も、ヨーロッパなどからは出ていますね。

菅原)ロシアはNATOの東方拡大が進み、ウクライナまで取り込むことは絶対に許さないとずっと訴えているのですが、ロシア側の懸念が理解されない。そのため、「それを進めるのは、我々と戦争になるということを意味する」と行動で示し、アメリカに対して「どうするのか」と迫っているのです。

飯田)アメリカに対して。

菅原)最終的には、ウクライナ東部のロシア系市民が住んでいる地域の自治権確保、その政治決着にアメリカが直接出て来て、それを認めるのかどうかということになります。その政治目的のために軍事力を使って威嚇しているのだと見ています。

今回の作戦が行われたのは世論の支持を得るため

飯田)アメリカの意図について、須田さんはどのように分析されていますか?

ジャーナリスト・須田慎一郎)地上部隊を派遣したということで、バイデン政権はかなり思い切った作戦に出て来ました。普通ですと、民間人を巻き添えにするリスクはありますが、ドローンや無人機を使っての空爆というケースが考えられます。米兵に被害を出さないためにそういう選択肢を取るのです。

飯田)通常であれば。

須田)米兵に被害者が出てしまうと、国内世論がバイデン政権に対して批判的になりますので。今回はそのリスクをよく取ったと思います。

飯田)今回の作戦は。

須田)背景にあるのは、アメリカ国内の政治批評なのだろうと思います。中間選挙を控えていて、民主党は上院、下院ともに大きく劣勢なのです。特に、現状でバランスを見ると、50対50で上院は拮抗している。上院議長が民主党ということで、わずかに半数以上を占めているという状況です。今回の中間選挙では、間違いなく過半数を割ります。

飯田)過半数を割る。

須田)場合によっては下院も割り込んで来るという状況で、バイデン政権は劣勢に立たされている。しかもここへ来て、やることなすこと失敗していて、何もポイントをゲットできていない。有権者にアピールできていません。このまま中間選挙に突入したらジリ貧というなかで、世論の支持を得るために今回の作戦が行われたのではないかと思います。

バイデン政権の弱体化が進むなかでの今回の作戦

飯田)このところ、経済対策のパッケージなども止まってしまっています。50対50で均衡ということは、1人、2人が造反してしまうと、もう法案が通らないという状況です。

須田)温暖化対策のための3.5兆ドル規模の予算案も、民主党サイドから反発が出ています。マンチンさんという上院議員が首を縦に振らないものですから、成立できない。それに対して、党内左派の方から大きな反発が出ている。バイデン政権の弱体化が進むなかで、今回の作戦に出たと考えてもらえば、その狙いが見えて来るのではないでしょうか。

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