恐怖や不安を押し殺しながら生活するウクライナ東部市民の実態 〜現地記者レポート

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月16日放送)に共同通信ロンドン支局の伊東星華氏が出演。ロシア軍が国境付近に部隊を配置し、緊張が続くウクライナの現在の状況についてレポートした

2022年1月29日、領土防衛隊の訓練に参加する人々=ウクライナ・キエフ近郊(共同) 写真提供:共同通信社

岸田総理とウクライナ大統領が電話会談、1億ドル規模の円借款用意

ウクライナ情勢をめぐって緊張が続くなか、岸田総理大臣は2月15日夜7時から約30分間、ウクライナのゼレンスキー大統領と就任後初めての電話会談を行った。岸田総理は経済的な支援として、少なくとも1億ドル規模の円借款を行う用意があることを伝え、両首脳は外交努力を通じた緊張緩和に向け、連携して行く方針で一致した。

いたって平穏な様子のキエフ市内

飯田)一方で15日、ロシアのプーチン大統領はドイツのショルツ首相とモスクワで会談を行いました。一部撤退などという報道もありましたけれども、事態は予断を許さないと言われております。まずは現地・ウクライナがどうなっているのか、首都キエフで取材中の共同通信ロンドン支局・伊東星華記者と電話がつながっております。7時間の時差があるということで、そちらは夜の12時過ぎです。現在のキエフ市内はどのような様子でしょうか?

伊東)昨日(15日)の昼間もそうなのですが、夜もいたって平穏で通常と変わらない状態です。日が暮れてからも街中の大通りを人々や車が行き交う状況でした。

飯田)戒厳令が出ているというような、緊迫した状況ではないわけですね。

伊東)そういう様子はまったく見られません。街中で市民に話を伺いますと、「パニックを起こしてはならない」という言葉が皆さんから聞かれました。ウクライナのゼレンスキー大統領が1月下旬ごろ、国民に対して「パニックにならず、落ち着いて生活するように」と訴えています。国民の方もそれを受けるような形で、いままで通りの生活を送られているという方がほとんどでした。

恐怖や不安を自分のなかに押し殺しながら生活するハリコフの市民

飯田)地図だと、キエフはウクライナのなかではヨーロッパに近いところにあります。伊東さんは東部のハリコフという、ロシアとの国境に近いところでも取材をされたそうですが、そちらと雰囲気は違うのでしょうか?

伊東)私は12〜13日に、東部ハリコフに行って来ました。ハリコフはロシアとの国境から約30キロの位置にあり、車で行くと1時間程度のとても国境に近い街です。ウクライナでも2番目に人口の多い都市となります。

飯田)2番目に。

伊東)東部の様子はどうかと言うと、見た目には、キエフとまったく変わらない様子でした。ただ、人々にお話を伺うと、「パニックになってしまうからニュースなどは見たくない」あるいは「侵攻の可能性はあまり考えたくない」「実は少し怖いのです」というお話が多くありました。一見、平穏なように見えるのですけれども、実際には、市民は恐怖や不安を自分のなかに押し殺しながら生活していらっしゃるのかな、という雰囲気を感じました。

2022年2月7日、モスクワでの記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

2014年以来、ロシアへの親しい気持ちが変わって来たハリコフ市民

飯田)スタジオにはジャーナリストの佐々木俊尚さんもいらっしゃいます。

ジャーナリスト・佐々木俊尚)遠い国の出来事で、日本からはわからない事情も多いのですけれども、いろいろな記者の方やジャーナリストの方の記事を読んでいると、ウクライナ東部は親ロシア、いわゆるロシアに親しみを持っている人が多いので、キエフ辺りとは空気感が違うということを書いている人もいます。その辺りは、現地を見られていてどう感じるでしょうか?

伊東)東部と一言で言いましても、親ロシア派の武装勢力が独立を宣言しているドネツクやルガンスクという地域は、同じ東部でもハリコフより少し南の方にあります。ハリコフはキエフからほぼ真東に約400キロという、東京から大阪くらいの距離のところにあります。

佐々木)東京と大阪くらい。

伊東)私の行ったハリコフでは、おっしゃる通り、過去には親ロシアの方が多く、いまでも街中を取材しますと、私が聞いたなかでは5人に4人くらいはロシアに親戚がいるとか、友人がいるというお話をされていました。旧ソ連時代からのつながりも深い街となっております。確かにご指摘の通り、ハリコフもロシアに対して親しみのある地域ではありました。

佐々木)ハリコフも。

伊東)ただ、皆さんのお話を伺っていると、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合したり、同じ年にドネツクやルガンスクで親ロシア派勢力が一方的な独立を宣言し、占拠するような事態もありました。その時期から、ハリコフの人々の気持ちが変わって来たということを実感しました。

「領土防衛隊」に入り、ウクライナを守る市民

飯田)ウクライナでは、民間の方々でも訓練に参加して、「志願兵となって守るのだ」と言う方もいらっしゃるという報道がありますが、実際にそのような募集をしているのでしょうか?

伊東)ありますね。キエフ市内にも少なくとも1ヵ所ありまして、取材しました。募集しているところは建物のなかにあり、事務的な手続きをするような場所でしたが、私が行ったときには1人しか申請者はいませんでした。ただ、街中でお話を聞きますと、やはり何かあったときに備えて、「領土防衛隊」という組織なのですけれども、そこに入りたいという方が多くいらっしゃいました。

飯田)2014年のクリミア占領の辺りがきっかけになって、逆に東部の人たちも含め、ウクライナへの帰属意識のようなものが高まっているのかも知れませんね。

伊東)そうですね。ウクライナのアイデンティティというか、ナショナリズムを非常に感じました。

飯田)なるほど。貴重なお話の数々、本当にありがとうございました。気を付けて取材を続けてください。

気になるガルージン駐日ロシア大使の発言

飯田)その辺りの空気感は、日本で言われているものと少し違うかも知れないですね。

佐々木)14日にNHKの「ニュースウオッチ9」で田中正良キャスターが、ガルージン駐日ロシア大使にインタビューをしていて、興味深い内容でした。ガルージン大使が「攻撃をするのですか?」と聞かれて、「しません」と言っているのです。

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『つまり我々の方からは攻撃とか戦争がないということをズバリと言いたいと思っております』

〜NHK WEBサイト内『ニュースウオッチ9』2022年2月14日配信記事 より

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佐々木)ここで、「我々の方からは」という言葉が付いているのが、すごく気になっています。「欺瞞作戦」などと呼ばれた「トンキン湾事件」などもありました。

飯田)相手が撃ったように見せるという。

佐々木)そういうことがないかな、というのが心配です。

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