韓国「尹錫悦大統領誕生」 日本との協調的な姿勢も、政権基盤の弱さは否めず

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月10日放送)にキヤノングローバル戦略研究所・主任研究員の伊藤弘太郎が出演。新たな韓国大統領に選出された野党「国民の力」の尹錫悦氏について解説した。

韓国・ソウルで記者会見する保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦前検事総長=2021年11月12日、ソウル外信記者クラブ 写真提供:産経新聞社

新韓国大統領に野党・尹錫悦氏、5年振り保守政権誕生

3月9日、5年に1度の韓国大統領選挙の投開票が行われた。公共放送のKBSは10日未明、保守系の最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンヨル)氏が革新系与党の李在明(イ・ジェミョン)氏を制して当選を確実にしたと伝えた。

飯田)李在明氏は10日未明にソウルの党本部で記者会見を開き、最善を尽くしたが期待に応えられなかったとして、「すべては私の力不足のせいだ。皆さんの敗北でも民主党の敗北でもない。すべての責任は私にある」と敗北宣言をしています。

これまでに例がないような接戦だった

飯田)尹さんに決まったということですが、これは下馬評通りだったのか、かなりの接戦だったと言われています。

伊藤)そうですね。最後の最後までわからなくて、史上稀に見る大接戦だったと言われていましたね。

飯田)これほど差が開かないという状況は、いままではあまりなかったということでしょうか?

伊藤)金大中さんが大統領に決まったときの選挙が最も競っていたと思います。それでも1%以上は差がありました。今回は0.8%ぐらいでした。

飯田)1%に満たないくらいの差でした。投票率は77.1%という暫定値が出ていますが、投票率は変わっていないのでしょうか?

伊藤)そうですね。韓国大統領選は投票率が高いです。若い人も投票するので、これくらいの数字は出ます。

今回の大統領選の争点 〜公平・公正、格差是正、そのための不動産政策の変更

飯田)今回の大統領選の争点はどこにあったと考えますか?

伊藤)政権交代を求めるのか、求めないのかということだと思います。求める理由としては、文在寅さんが8割近い国民の支持を得ながら、最もやるべきことであった公平・公正、格差是正、また、その1つの政策でもあった不動産政策を変えられなかったというところです。これを変えるために政権交代して、抜本的に変える方向に行くのか。それとも、その精神を受け継いだ与党の候補者が新たなマインドで変えて行くのか。ここが問われた選挙だったと思います。

高騰する不動産価格 〜一方で広がる格差

飯田)不動産価格は、ソウル市内では相当高騰しているのでしょうか?

伊藤)そうですね。コロナ禍のため2年以上韓国へ行っていませんが、前回行ったときによく覚えているのは、お金持ちエリアに住んでいる方と話す機会があったのですが、アプリでマップに出る不動産価格をよく見ているのです。自分のマンションがどれくらい値段が上がっているのかわかるそうです。「お隣の奥さんが持っている不動産価格は上がっているけれども、自分は下がった」などという話を日常的にしているそうです。

飯田)不動産価格を。

伊藤)お金持ちは不動産資産を持っているので、日々、不動産価格が上がったかどうかをチェックして、上がれば売って富を得る。一方で、日本でも報道されていますが、格差が激しくなっている現状もあります。

韓国の次期大統領選候補、与党「共に民主党」の李在明・前京畿道知事(右)と最大野党「国民の力」の尹錫悦・前検事総長=2021年11月(共同) 写真提供:共同通信社

史上最悪の「選びたくないのだけれど、選ばなければいけない大統領選挙」 〜若者はどう捉えたのか

飯田)日本でも一部で言われていますが、格差が広がることで、最も影響を受けるのは若い人たちだと。生まれた家によって、その後の人生が変わって来るのではないかということも言われています。その辺りについて、今回の大統領選に対する若者層の捉え方はどうだったのでしょうか?

伊藤)そもそも今回は、史上最悪の「選びたくないのだけれど、選ばなければいけない大統領選挙」と呼ばれているのです。両方カリスマがあって、この人ならやってくれるということではなく、「どちらかと言えばこっち」という感じで。

飯田)どちらがマシかと。

伊藤)そのような感じで行われた選挙なので、調査によると、20代〜30代の若者も最後まで投票行動を決めかねていたということです。そこが浮動層であり、最後の勝負の決め手になると言われていました。

飯田)浮動票として。

伊藤)どうやら綺麗に分かれたらしく、それによって最後まで接戦になったようですので、若者がどうかということではありません。ただ、若者は投票行動をしているので、それに政治家は応えなければいけません。それは今後、方針として新政権が示して行くと思います。

若者の雇用をつくることは新政権でも難しい問題

飯田)文在寅政権も「若者に雇用をきちんとつくり出す」ということを政権発足前、あるいは政権発足当時に言っていましたが、それがうまく行かなかったことへの不満があるのでしょうか?

伊藤)文在寅政権はやろうとしたのですが、ポピュリズム的な公務員の非正規雇用を増やしたりしていました。一方で、政府のお金を使って場当たり的には増やせたのですが、経済構造を変え、若い人や非正規を正規にするなどということはできなかった。これは難題なので、次の政権も変えるのは大変だと思います。

日韓懸案を「グランドバーゲン(一括妥結)」と関係改善の意向の尹氏 〜どこまで日韓でコミュニケーションを取ることができるか

飯田)尹錫悦氏ですが、日本に対しての対応はどのようになりそうですか?

伊藤)李在明さんと対比すると、日本に対してそれほど悪い感情は持っていない。むしろ発言のなかでは、よい感情を持っている印象を持ちます。

飯田)いわゆる徴用工問題で、差し押さえた資産を現金化するのかどうかが喫緊の課題になっていますが、その辺りはどうなりそうですか?

伊藤)尹錫悦さんは選挙戦を通じて、「グランドバーゲン(一括妥結)」と、その他の問題も含めて一括で解決すると言っていますが、どのように一括で解決するのか。日本の立場としては、「向こうにボールがあるので、向こうから来て当然だ」という感じがありました。文在寅政権のときにはコミュニケーションがなかったわけです。

飯田)そうですね。

伊藤)新しい政権になってお互いが歩み寄り、コミュニケーションを取るところまで行けるかどうかが、最初の焦点ではないかと思います。尹錫悦さんは、いまは当選して「当選人」という肩書きになっています。

飯田)まだ就任はしていませんよね。

駐韓大使への訪問 〜アメリカ大使の次は日本か

伊藤)このあと、いろいろと人事などを行うのですが、最初に駐韓大使と会います。

飯田)ソウルにいる各国の大使と会って行くのですね。

伊藤)最初にアメリカ大使と必ず会います。次が朴槿恵さんのときから中国大使になり、そのあとに日本大使という順番になりました。尹錫悦さんは最初に訪問する外国はアメリカで、2番目は日本、3番目が中国だと言っていました。

飯田)中国の前に。

伊藤)まず大使と会う順番はどうなるのか、そこでどのような話があるのか。日本の外務省も含めて、実務者の方々は本格的に向こうと話し合いが始まっていると思います。

韓国の文在寅大統領(ハンガリー・ブダペスト) AFP=時事 写真提供:時事通信

従来の伝統的な韓国の外交・安全保障政策の決まりに回帰 〜日本とも協調的な姿勢に

飯田)韓国の東アジア外交全体に対するスタンスですが、いままでの革新政権では、どちらかと言うと北や中国に近いのではないかと言われていました。それが事実だったかどうかも含めて、今後の見通しはいかがでしょうか?

伊藤)文在寅政権の欠点として、南北政策が外交政策の上位にありました。

飯田)北朝鮮に対してですね。

伊藤)周りに邪魔をされず、独自でやるためにはどうするのか。それを担保するために外交政策をどうするのか、という落とし方でした。それが尹さんになると、まず米韓同盟を強固にするという、従来の伝統的な韓国の外交・安全保障政策の決まりに回帰するので、日本とも協調的な姿勢を取ると思います。

飯田)日本とも。

伊藤)クアッドに関しても、かなり踏み込んだ発言をしています。文在寅政権時代になかなか定まらなかったインド太平洋に関する関与を、明確に示す可能性もあります。

TPPに韓国を引き入れる可能性も 〜米韓合同軍事演習をどうするか

飯田)文在寅政権でも、最後の方にTPP加盟に向けて手を挙げるという話がありましたが、具体的に進んで行きそうですか?

伊藤)進んで行くと思います。むしろ、日本とのコミュニケーションが進んでわだかまりがなくなって行けば、日本としても韓国を引き入れるという流れに変わるかも知れません。オーストラリアなども韓国が入るのを大歓迎していますから、日本がどうだという話ではないのです。

飯田)アメリカにとっても、そのような流れは悪くないわけですよね?

伊藤)そうですね。あとは米韓合同軍事演習をどうするのかということです。

飯田)規模を縮小していましたよね。

伊藤)縮小していました。あれが米韓連合戦力を落としているのではないかということが、尹さんたちの問題意識なのです。春には間に合わないとしても、夏からどうするのか。

政権基盤の弱さは否めない 〜議会構成も不利

飯田)それをやるにしても、政権基盤はどうですか?

伊藤)政権基盤はやはり弱いと言わざるを得ないですね。尹さん自身も国政経験はありません。

飯田)議会構成もいまは不利だという話もありますよね。

伊藤)そうですね。まだ多数を取れていないので、3年間その状態が続きます。

飯田)なるほど。任期5年のうちの大部分が。

伊藤)2020年に国会議員選挙がありましたので、あと2〜3年はこの状態が続くと思います。

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